OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

J.J.ジョンソン最強クインテット

2010-10-09 16:46:56 | Jazz

J.J. Johnson Quintet Featuring Bobby Jaspar (Fresh Sound = CD)


モダンジャズのトロンボーン奏者としてはピカイチだったJ.J.ジョンソンが、白人ながらテナーサックスやフルートに秀でたポビー・ジャスパーと組んでいたレギュラーバンドは、1956~1957年にかけて、本当に素晴らしい演奏を残しましたが、それらの音源は契約していたコロムビアレコードで3枚のLPに分散収録され、また1曲だけが別レーベルに貸し出されたりして、なかなか纏めて聴くのが困難でした。

また、後年になって当時のライプレコーディングも発掘されていますが、本日ご紹介の2枚組CDは、それらを可能な限り纏めた嬉しい再発です。

しかもレコーディングデータに従って編集されていますから、バンドメンバーの変遷によるサウンドの微妙な変化も楽しめると思います。

ちなみに、前述したスタジオ録音の分散収録のLPは以下のとおりで、末尾の記号は以降に述べる各曲が、どのLPに収められたかを分かり易くするためのものです。

 J Is For Jazz (Columbia CL 935) ●
 Jay and Kai (Columbia CL 973) ▲
 Dial JJ5 (Columbia CL1084) ★
 Playboy 1529/30 ▼

☆1956年7月24日録音
 CD-1 01 Overdrive
 CD-1 02 Undecided
 CD-1 03 Angel Eyes
 メンバーはJ.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts)、ハンク・ジョーンズ(p)、パーシー・ヒース(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という凄い面々!
 今日では一般的に、J.J.ジョンソン&ポビー・ジャスパーと言えば、リズム隊がトミー・フランガンの「オーバーシーズトリオ」と決めつけられますが、ハンク・ジョーンズも流石に侮れないプレイを聞かせてくれますよ♪♪~♪
 もちろんバンド全体のアンサンブルやアドリブの競演は最高レベルで、アップテンポの「Overdrive」では初っ端からテンションが高まりっぱなし! ツッコミ鋭いJ.J.ジョンソンに対し流麗なフレーズを綴るポビー・ジャスパー、さらに珠玉の音選びが素晴らしいハンク・ジョーンズに実直なペース&ドラムスの存在は、ハードバップの勢いと洗練が見事に集約されていると思います。
 そしてエルビン・ジョーンズの粘っこいブラシがグルーヴィな決め手となった「Undecided」、一転してミステリアスな情感が滲むスローな「Angel Eyes」は、人気スタンダード曲のカパーとしては上位にランクされる名演だと思います。スタン・ゲッツ風のポビー・ジャスパーが、たまりませんねぇ~♪

☆1956年7月25日録音
 CD-1 04 Tumbling Tumbleweeds
 CD-1 05 Cube Steak
 CD-1 06 Never Let Me Go
 CD-1 07 Solar
 翌日に行われた2回目のセッションは、J.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、ハンク・ジョーンズ(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という顔ぶれで、ベーシストの交代があるものの、演奏の纏まりとノリは、さらに良くなっている感じです。
 特にビバップ期からのお馴染みのリフを流用したアップテンポのブルース「Cube Steak」では、スイングしまくりのリズム隊に煽られて突進するJ.J.ジョンソンが痛快無比! またラテンリズムと4ビートを交錯させた「Tumbling Tumbleweeds」は、トロンポーンとテナーサックスのコンビならではの柔らかなのサウンドが魅力で、これはカーティス・フラー&ベニー・ゴルソン組に勝るとも劣らない味わいでしょう。もちろんアドリブも流麗にしてソフトな歌心が素晴らしく、ハンク・ジョーンズも小粋な名演です。
 そしてマイルス・デイビスのオリジナルとして有名な「Solar」が、ちょいとファンキーな味わいを滲ませて演じられるのは、如何にも1956年というハードバップ全盛期の証明! 力強いエルビン・ジョーンズも存在感がありますし、ポビー・ジャスパーがズート・シムズになってしまうのも、なかなかジャズ的な楽しみかと思います。
 その意味でシンミリ系の素敵なスタンダード曲「Never Let Me Go」が、J.J.ジョンソンのミュートとポビー・ジャスパーのフルートによって、実にメロディ優先主義で演じられたのは大正解でしょう。短くも印象的なハンク・ジョーンズのアドリブも良いですよ♪♪~♪

☆1956年7月27日録音
 CD-1 08 Chasin' The Bird
 CD-1 09 Naptown U.S.A.
 CD-1 10 It Might As Well Be Spring
 3回目のセッションとなったこの日のメンバーは、J.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、トミー・フラナガン(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という編成で、ついに前述した「オーバーシーズトリオ」がリズム隊を務めます。
 しかし、だからと言って、特にバンドの基本姿勢に変化は無く、ハードバップのスマートな解釈に徹した演奏が繰り広げられています。
 それはチャーリー・パーカーの有名オリジナル「Chasin' The Bird」におけるテーマアンサンブルの妙と濃密なアドリブパートの兼ね合いが、なかなかウキウキする興奮を呼ぶところに顕著ですし、ウィルバー・リトルの豪気なベースワークは最高!
 そして特筆したいのが、やはりトミー・フラナガンの参加ではありますが、前任者のハンク・ジョーンズも含めて、激しさよりもジャズ的にセンスの良いピアニストを起用するところに、J.J.ジョンソンの目論見があったんじゃないでしょうか。
 ですからアップテンポの「Naptown U.S.A.」にしても、ワイルドに暴れるエルビン・ジョーンズのドラミングとは正逆に端正な伴奏とアドリブを披露するトミー・フラナガンというコントラストが印象深く、極みつきのスローバラード「It Might As Well Be Spring」では、ストレートに美メロのテーマをフェイクするJ.J.ジョンソンを彩るポビー・ジャスパーのフルートという構図を、きっちりサポートするリズム隊の落ち着きは流石の一言です。

☆1957年1月29日録音
 CD-1 11 Bird Song

 CD-1 12 It Could Happen To You
 CD-1 13 Our Love Is Here To Stay
 CD-1 14 Blue Haze
 CD-1 15 I Should Care
 前回セッションから約1ヵ月後のレコーディングは上記したように、良く知られた演目が並んでいます。
 そしてJ.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、トミー・フラナガン(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という有名なメンバー構成は、このあたりから固まったのでしょうか。
 ですからリスナーにとっては素直にジャズを聴く喜びが強く、また実際の演奏そのものも実に充実していますが、今回は「It Could Happen To You」でポビー・ジャスパーを、また「Our Love Is Here To Stay」ではJ.J.ジョンソンをメインにしたワンホーン的な企画が嬉しいかぎり♪♪~♪
 もちろん、そうなればリズム隊の活躍も聴き逃せません。
 ポビー・ジャスパーがフルートで歌う「It Could Happen To You」ではエルビン・ジョーンズのブラシが本当に気持良く、またJ.J.ジョンソンが負けじと素晴らしい歌心を披露する「Our Love Is Here To Stay」では、リズム隊のグルーヴィなノリも最高潮です。
 それゆえにバンドとしての纏まりも、これ以上無いほどの完成度で、特にヘヴィ&ファンキーな「Blue Haze」では、トミー・フラナガンが畢生の名演を聞かせれば、ウィルバー・リトルのベースは真っ黒に蠢き、エルビン・ジョーンズのドラムスがエッジ鋭いシンバルワークで煽りますから、フロントのJ.J.ジョンソンとポビー・ジャスパーも油断出来ません。まさに名盤「オーバーシーズ」の見事な予行演習になっています。
 それはハードバップがど真ん中の「Bird Song」でも尚更に素晴らしく、矢鱈に熱くならずとも、充分にモダンジャズが演じられるという、このバンドならではの洒落たフィーリングが完成形として楽しめると思いますし、これまた有名スタンダード曲の「I Should Care」にしても、ちょいと西海岸派のようなバンドアンサンブルを主体としたライトタッチの演奏が実に颯爽として、感度良好♪♪~♪ エルビン・ジョーンズのスティック&ブラシがハード&タイトなのは言うまでもありませんが、ポビー・ジャスパーも大健闘ですよ。

☆1957年1月31日録音
 CD-2 01 Barbados
 CD-2 02 In A Little Provincial Town
 CD-2 03 Cette Chose
 CD-2 04 Joey, Joey, Joey
 これまた一連のセッションではハイライト的なパートで、メンバーは前回同様なんですが、特にポビー・ジャスパーが「In A Little Provincial Town」に「Cette Chose」というオリジナルを2曲も提供した事もあり、なかなかの活躍を聞かせてくれます。
 ちなみにこの人はベルキー出身で、フランスでの活動後に渡米し、その直後からJ.J.ジョンソンに雇われた経歴の実力者ですが、ジャズ者にとっては、ウイントン・ケリー(p) の人気盤「ケリー・ブルー(Riverside)」への参加があまりにも有名ですよね。また、フランス時代のリーダー作では、オリジナルは見たこともありませんが、同じ内容のアルバムがアメリカでも「Bobby Jasper And His Allstars (EmArcy)」として発売されています。
 で、肝心の「In A Little Provincial Town」は、サスペンス&ミステリアスな曲調の中で浮遊感さえ漂わせるポビー・ジャスパーのフルートが、思慮深いJ.J.ジョンソンと抜群のコントラストを描き出す大名演♪♪~♪
 一方、「Cette Chose」は力強いグルーヴを伴った新感覚のハードバップとして、J.J.ジョンソンの爆裂トロンボーンに負けないスインギーなテナーサックスを吹きまくりと書きたいところなんですが、ど~してもズート・シムズの影響から逃れられないのが賛否両論でしょうか……。
 しかし、それを救うのがリズム隊の存在感でしょう。
 十八番のラテンリズムと4ビートのゴッタ煮が楽し過ぎる「Barbados」では、エルビン・ジョーンズのゴリ押しが最高ですし、協調関係が確信犯的なウィルバー・リトルも流石ならば、トミー・フラナガンが如何にも「らしい」アドリブを聞かせてくれるのも当然が必然なんでしょうねぇ~♪ 完全に煽られ気味のJ.J.ジョンソンとポビー・ジャスパーが相当に熱くなっているように思います。
 そして「Joey, Joey, Joey」は、サイケおやじがこのCDをゲットさせられた真のお目当!
 何故ならば、極めて珍しいオムニバス盤に収録された幻の音源として、長年聴きたかった演奏であり、それはエルビン・ジョーンズのポリリズムドラミングが冴えまくりというアップテンポのモダンジャズ! いゃ~、最高にカッコ良いテーマからポビー・ジャスパーのテナーサックスが飛び出す瞬間だけで、シビレが止まりません♪♪~♪ 続くJ.J.ジョンソンも颯爽としていますし、溌剌としたトミー・フラナガン以下のリズム隊も強靭なジャズ魂を存分に発揮しています。
 実は以前にモザイクというコレクターズ系のレーベルから、この時期のJ.J.ジョンソンの音源が集大成的に発売されたことがありました。しかし値段が高いわりにはリマスターがイマイチという世評があり、実際に友人から聞かせてもらった時には、ちょいと残念な気分……。
 そして待つこと、幾年月!?
 結論から言えば、このCDはバランスの良いリマスターで、もちろんアナログ盤の味わいとは異なりますが、それでも充分に納得の仕上がりだと思います。

☆1957年5月14日録音
 CD-2 05 Teapot
 CD-2 06 So Sorry Please
 CD-2 07 Old Devil Moon
 これがまたしても、アッと驚く音源で、なんとリアルステレオミックスなんですねぇ~♪ もちろんアナログ盤時代はモノラルミックスでしか楽しめなかったわけですし、前述したモザイクからの再発CDがどうなのかは勉強不足でわかりませんが、とにかくここでは左にドラムスとベース、真ん中にホーン、右にピアノという定位がきっちりと決まっています。
 肝心の演奏は、J.J.ジョンソンの呆れるほどのテクニックとジャズフィーリングが強烈な「Teapot」のスピード感に圧倒されますし、リズム隊だけによる「So Sorry Please」はピアノトリオの演奏ですから、必然的に「オーバーシーズ」していて、思わずニンマリ♪♪~♪ ちなみに「So Sorry Please」では左にベース、真ん中にドラムス、右にピアノというチャンネル定位になっています。
 そして「Old Devil Moon」では、エルビン・ジョーンズの熱血ドラミングが圧巻! そのヘヴィなビートの出し方は、このバンドのスマートな行き方とは対照的にハードで重心の低いものですから、J.J.ジョンソンの目論見は見事に完遂された事だろうと思います。

☆1957年2月、カフェ・ボヘミアでのライプ録音
 CD-2 08 Johnson Introduces
 CD-2 09 Bernie's Tune
 CD-2 10 In A Little Provincial Town
 CD-2 11 I Should Care
 CD-2 12 Angel Eyes
 CD-2 13 Old Devil Moon
 CD-2 14 My Old Flame
 CD-2 15 Dailie Double
 CD-2 16 Theme: Solar
 これはボーナス扱いというか、後年になって発掘されたライプ音源で、おそらくは放送用のマスターなんでしょうか、音質は良好ですから、問題無く聴けると思います。しかも一応はリアルなステレオミックスなんですよっ!
 気になるメンバーは、もちろんJ.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、トミー・フラナガン(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) というレギュラーバンドですから、充実した演奏はお約束!!
 バンドリーダー自らの挨拶&メンバー紹介から、トミー・フラナガンのイントロも鮮やかな「Bernie's Tune」は、急速テンポながら十八番のアンサンブルとアドリブの競演が楽しめますし、リズム隊の素晴らしさは言わずもがな、終盤にはエルビン・ジョーンズのドラムソロも炸裂♪♪~♪
 またスタジオバージョンが存在する「In A Little Provincial Town」「I Should Care」「Angel Eyes」「Old Devil Moon」は、聴き比べも楽しいところですが、総じてそれほど雰囲気が変わっていないのは、それだけバンドの演目と纏まりが完成されていた証という事でしょうか。
 ですから、このメンバーによるスタジオバージョンが残されていない「My Old Flame」や「Dailie Double」にしても、違和感は無いと思いますし、当然ながらジャズならではの瞬間芸は、それこそ聴いてのお楽しみ♪♪~♪ 個人的にはアップテンポで演奏される「Dailie Double」の熱気に興奮させられます。

ということで、新発見のテイクは無いんですが、こういう良心的な復刻は大歓迎です。

既に述べたように、サイケおやじは唯1曲「Joey, Joey, Joey」だけを目当てにゲットしたわけですが、あらためてこのバンドの演奏を纏めて聴いてみると、そのスマートなカッコ良さとモダンジャズのグルーヴィなノリを両立させた密度の濃さにシビレさせられました。

残念ながら、この時期のクインテットは1957年秋頃には解散したらしいのですが、残された音源から纏められたLPは、何れも名盤扱いが当然の事ですし、繰り返しますがトミー・フラナガンの代表作「オーバーシーズ」に繋がった経緯も含めて、全てのジャズ者を虜にする演奏を、このCDが復刻された機会に、ひとりでも多くの皆様に聴いていただきたいと願っています。

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