■Swedish Schnapps / Charlie Paker (Verve)
ようやく、少しずつではありますが、ジャズモードへの回帰も兆しているサイケおやじは、朝の一発目から、このアルバムに針を落とせたということは、かなり状態が良いのかもしれません。
ご存じ、モダンジャズの天才にして神様であるチャーリー・パーカーが、1951年に自らのレギュラーバンドを率いて行った2回のセッションから纏められたLPですが、おそらくはそれぞれがSP、あるいは10インチ盤が初出だったと思われます。
ですから、12インチ盤に再編集された時には曲順が必ずしもレコーディングデータどおりにはなっていないのが、些か拘りに水を差される結果にもなっているんですが、しかし演奏内容の素晴らしさは唯一無二!
この時期のチャーリー・パーカーは既に全盛期を過ぎていたとか、そのあたりの真偽については評論家の先生方からのご指摘もあるわけですが、しかし今に至るもチャーリー・パーカーを超えたジャズ演奏家は出現していない現実を鑑みれば、素直に楽しむのも決して罪悪ではないでしょう。
いや、と言うよりも、聴けば納得の凄さとモダンジャズの醍醐味に溢れているのが、このアルバムの真実だと思います。
☆1951年1月17日録音:Charlie Paker & His Orchestra (Quintet)
B-1 Au Privave (alternate)
B-2 Au Privave (master)
B-3 She Rote (alternate)
B-4 She Rote (master)
B-5 K.C. Blues
B-6 Star Eyes
「His Orchestra」なんて、大仰な名義になっていますが、実は典型的なビバップのクインテット編成によるレコーディングで、メンバーはチャーリー・パーカー(as)、マイルス・デイビス(tp)、ウォルター・ビショップ(p)、テディ・コティック(b)、マックス・ローチ(ds) という、今では夢の5人組!
それは前述した事と矛盾するようですが、決して連日連夜、このメンツでライプをやっていたわけではないにしろ、当時のチャーリー・パーカーは、仕事の契約に応じてバンドを組んでいたそうですから、おそらくは気心の知れた顔ぶれが集められたセッションだったと思われますし、実際、ここで聴ける演奏からはコンビネーションの練達による安定したバンドアンサンブルとアドリブの充実が、しっかりと楽しめます。
中でも「Au Privave」はチャーリー・パーカーの有名オリジナルとして、ビバップの聖典曲のひとつにもなっているブルースなんですが、ミディアムテンポで繰り広げられるグルーヴィでテンションの高い曲調は必然的にアドリブの鋭さが求められているのでしょうか、マイルス・デイビスの必死さが良い感じ♪♪~♪ もちろんチャーリー・パーカーが余裕で演じる鋭いフレーズの連発と驚異的なリズム感は文句無しですから、ふたつのテイクのどちらも聴き応えがありますよ。
またアップテンポの「She Rote」は、初っ端からブッ飛ばすチャーリー・パーカーの絶好調ぶりが嬉しい限りですし、一転してブルース演奏の真髄を堪能させてくれる「K.C. Blues」は、これぞっ、黒人ジャズのならではの味わいが横溢し、チャーリー・パーカーにしても名演のひとつじゃないでしょうか。
そしてスタンダード曲の「Star Eyes」では、ラテンビートと4ビートを交錯させたテーマアンサンブルから、既に朗々と吹きまくるチャーリー・パーカーに対し、幾分の自信喪失気味というマイルス・デイビスが結果オーライ!?! アドリブの思わせぶりなところは完全に後年のスタイルに近くなっていると思います。
ちなみにリズム隊の3人は堅実な助演と言えばそれまでなんですが、やはりマックス・ローチのタイトなドラミングは素晴らしいと思います。
☆1951年8月8日録音:Charlie Paker Quintet
A-1 Si Si
A-2 Swedish Schnapps (alternate)
A-3 Swedish Schnapps (master)
A-4 Back Home Blues (alternate)
A-5 Back Home Blues (master)
A-6 Lover Man
B-7 Blues For Alice
さて、こちらはアルバムタイトル曲も含んだ晩年の名演とされるセッションで、メンバーはチャーリー・パーカー(as) 以下、白人ながら当時はレギュラーに雇われることも多かったレッド・ロドニー(tp)、ジョン・ルイス(p)、レイ・ブラウン(b)、ケニー・クラーク(ds) という布陣なんですが、リズム隊の3人は既にモダン・ジャズ・カルテット=MJQとしての活動をスタートさせたばかりの時期とあって、なかなか纏まりの良い助演ぶりです。
それはちょいとエキセントリックなテーマが印象的なブルースの「Si Si」から全開! 如何にものシンバルを鳴らすケニー・クラークに煽られ、チャーリー・パーカーが起伏の激しいアドリブを披露すれば、レッド・ロドニーは真っ向勝負の潔さですし、リズム隊各人の見せ場もソツがありませんねぇ~♪
さらに名演とされる「Swedish Schnapps」の引き締まった展開は2テイクとも圧巻で、特にマスターテイクにおけるチャーリー・パーカーのアドリブは緊張と緩和の見事なバランスが秀逸だと思いますし、少しばかり中間派寄りのレッド・ロドニーがきっちりモダンの領域に収まっているのは、リズム隊の貢献じゃないでしょうか。
その意味でミョウチキリンなテーマの「Back Home Blues」が、リラックスした中にもモダンジャズのブルースは、こうやるんだよっ! そんな心意気が感度良好♪♪~♪
ちなみにここまでの演目は全てチャーリー・パーカーのオリジナルでしたが、ここでいよいよ因縁のスタンダード曲「Lover Man」が演じられるのは興味津々でしょう。そして結果は見事な流石の仕上がりという安定感があるのはもちろん、実はそれが物足りないという、何とも我儘な結論というのがサイケおやじの本音です。
まあ、それはそれとして、時間的な制約からB面収録となった「Blues For Alice」は、不思議にも刹那的な雰囲気が横溢したテーマから完璧なアドリブパートまで、まさにチャーリー・パーカーの凄さが記録された名演だと思います。
ということで、ヴァーヴ時代は様々な企画セッションも多かったチャーリー・パーカーの、これは真性ビバップを楽しめる人気盤です。
今となってはマイルス・デイビスが参加したB面の注目度が高いと思われますが、元祖MJQのリズム隊が活躍するA面も侮れません。
そこには、ようやくジャズモードに回帰しつつあるサイケおやじを歓喜悶絶させるだけの魅力が、確かにありました。
今後とも、よろしくお願い致します。