■The J. Geils Band (Atlantic)
それなりの人気があるのにレコードが売れないっていうミュージシャンの代表格がJ.ガイルズ・バンド!
と、決めつけてしまうのは失礼でしょうか。
しかし彼等は1970年の公式メジャーデビュー以前から地元ボストンでは屈指のライプバンドであり、ブルースとR&Bに根ざしたハードロック系のスタイルは、時には小型ストーンズ、あるいは都会派ブルースバンド等々と揶揄されながらも、相当しぶとい活動を繰り広げ、確実にファン層を掴んでいたと思います。
ただ、問題(?)なのは、ライプパフォーマンスの凄さがレコードという媒体に収めきれなかったという結果は確かにあって、それは本格的なブレイクに繋がったのが通算3枚目のアルバムとして制作されたライプ盤であったという現実にも明らかでしょう。
ところが我国では、そうした強烈なステージに接する事が当時は不可能でしたから、やっぱりレコードによる印象が大切であって、その出来不出来が全てという結論は避けられません。
そこで本日の1枚は、J.ガイルズ・バンドのあまり売れなかったデビューアルバムなんですが、個人的にはジャストミートのお好み盤♪♪~♪
もちろんリアルタイムの1971年だって、日本の洋楽マスコミじゃ~、J.ガイルズ・バンドなんて、決してイチオシで紹介された存在ではなく、告白すればサイケおやじはその頃から積極的に聴くようになっていたラジオの米軍極東放送=FENで「Ice Breaker」という、実にイカしたブルースインスト曲にシビれた事が、この素敵なバンドを知る発端でした。
しかし、当然ながら、その最初は曲名も演奏者も分からず、そこで意を決してFEN放送局に電話で問い合わせ、レコードやバンドに関する諸々を教えてもらったというわけです。
ちなみに、その電話をする時、相手は英語の放送局ということで、自分のショボイ語学力では不安と無理を感じ、あらかじめ挨拶や質問内容等々を筆記したメモを用意していたのですが、きっちり先方は最初から日本語の対応でありましたから、その時の救われた気分は今も忘れていません。
そして勇躍ゲットしたのが、バーゲン品の輸入盤でありましたが、このアルバムだったのです。
A-1 Wait
A-2 Ice Breaker
A-3 Cruisin' For A Love
A-4 Hard Drivin' Man
A-5 Serves You Right To Suffer
B-1 Home Work
B-2 First I Look At The Purse
B-3 What's Your Hurry
B-4 On Borrowed Time
B-5 Pack Fair And Square
B-6 Sno-Cone
既に述べたように、ここでのJ.ガイルズ・バンドは基本的にはブルースロックをやっているわけですが、その本場(?)たるイギリスの同系グループとは、ノリが全然違います。
まあ、このあたりは、例えばオールマン・ブラザーズ・バンドあたりにも言える事なんですが、演奏者が白人であったとしても、やっぱり黒人音楽のグルーヴをナチュラルに体現表出可能なのは、アメリカの風土なのかもしれません。
それはピーター・ウルフ(vo)、マジック・ディック(hmc)、J.ガイルズ(g)、セス・ジャストマン(key)、ダニー・クライン(b)、スティーヴン・ブラッド(ds,vo) という6人のメンバーによる強固な目的意識でもあったように思います。
つまりJ.ガイルズ・バンドは 黒人音楽をやる白人バンドという立ち位置を常に明確にしていたのかもしれないのです。
そこでLPド頭の「Wait」が重心の低いビート感が心地良い、ロッド・スチュアートが加入したばかりの頃のフェィセズ調だったり、前述したブルースインスト「Ice Breaker」が極めて分かり易いロックっぽさを持っているのも当然ですし、全体としてサイケデリック期以前のストーンズのようなハーモニカやギターの使い方が、好きな人には好きとしか言えない世界を提供してくれるのは嬉しい限り♪♪~♪
ですから、オーティス・ラッシュの「Home Work」が必要以上にキャッチーなアレンジと軽んじられたり、ジョン・リー・フッカーの「Serves You Right To Suffer」がモロにストーンズ!?! と各方面からコケにされたとしても、サイケおやじとしては、一向に構わないんですよ。
嫌いな奴は、聴かなきゃ~、いいんですからねぇ~。
そう、居直らせるパワーがJ.ガイルズ・バンドに、そしてこのアルバムには絶対的にあると思っています。
しかし、それでも懐疑的な皆様には、スモーキー・ロビンソンの「First I Look At The Purse」におけるノーザンビートのロック的展開、さらにその発展系というか、パロディと失笑される恐れも秘めたピーター・ウルフ&セス・ジャストマン作の「What's Your Hurry」が実に楽しいという現実に接して欲しいのです。
というか、実はJ.ガイルズ・バンドがコアなロックファンからイマイチの支持しか得られない要因として、バンド全体のノリが軽く、粘っこさが感じられないという部分は否定出来ません。
ところが、それは裏を返せば、立派なバンドの持ち味であって、その意味でメンバー作のオリジナル曲は、まさに「ならでは」の個性が未だ開花しないまでも、きっちり確認出来るんじゃないでしょうか。
特に前述「What's Your Hurry」や「On Borrowed Time」はポップなソウルフィーリングを狙うセス・ジャストマンの作風が好ましく、一方、ソリッドなロックフィーリングはJ.ガイルズの守備範囲として、「Ice Breaker」や「Hard Drivin' Man」は思わずコピー意欲を刺激される名曲ですよ。
そして気になるバンドメンバーの個人技では、何んと言ってもマジック・ディックのハーモニカ~ブルースハープが強烈な素晴らしさで、おそらくは一座のスタアは、この人だったと思われます♪♪~♪
またドラムスとベースのビート感の軽さが、所謂「都会派」とジャンル分けされる要因だとしたら、それはシャッフル系のブルースロックは言わずもがな、レコードを出す毎に滲んでくるアーバンソウル風味に直結の秘密かもしれませんし、素直な様で実はクセのあるピーター・ウルフのボーカルスタイルにもジャストミートでしょう。
そして肝心のJ.ガイルズのギターワークが、これまた決して難しいことはやりませんが、それゆえにストレートにノセられてしまうツボの押さえ方がプロの味わい♪♪~♪ ミエミエにエグイ「Serves You Right To Suffer」、キメとギターソロのコンビネーションが絶妙の「Home Work」、そして「What's Your Hurry」のギターソロに代表されますが、時折にハッとするほど良い感じのフレーズと音の使い方は、サイケおやじも存分にコピーさせていただきましたです。
ということで、繰り返しますが、売れもしなければ、名盤認定もされていないアルバムでありながら、聴くほどに虜の1枚♪♪~♪
そして、これは名盤となる次回作「モーニング・アフター」や前述のライプ盤「フルハウス」への見事な布石として、その真っ向勝負に徹した作風と演奏姿勢は好感が持てるのでした。