マイケル・ブレッカーが亡くなりましたですねぇ……。
白血病……、まだ50代ですよ……。
とにかくスピード感溢れるその演奏スタイルは、ジョン・コルトレーン以降のジャズテナーサックスでは画期的な存在でした。そしてジャズだけでなく、ロックやポップスにも嫌味無く溶け込んだあたりは、白人ならではの存在感でしょうか。初期にはスタジオワーク、中期には兄のランディと組んだブレッカー・ブラザース、後期にはモロジャズから現代音楽までも取り込んだ広義のポピュラーミュージックまで、本当に幅広く、しかも親しみやすい演奏を聴かせてくれました。
そのあたりが、一部ガチガチのファンや評論家の先生には気に入られなかったようですが、私は好きでしたねぇ……。
特にブレッカー・ブラザースで大ブレイクする直前、スタジオワークの短いソロでも、味と存在感を示していた1970年代のマイケル・ブレッカーは最高でした。
あくまでも個人的な感想ですが、全盛期は1980年前後2年ほどのような気がしています。それはスタイルが安定する前の勢いであり、フュージョンもロックも純正4ビートさえも時と場合によって吹きわけながら、何時如何なる時でもマイケル・ブレッカーとして一発で分かるスタイルを貫き通していたからです。
その勢いが爆裂したのが、このアルバムでした――
■Children Of The Night / Hal Galper (Duble-Time)
なんとも正体の無いピアニスト、ハル・ギャルパーのリーダー盤として1979年に発表されたライブアルバムの再発CDです。
そのオリジナル盤「Speak With A Single Voice (Cenytry)」は僅少、我国にも入荷し、当時のジャズ喫茶で局地的にヒットしていますが、その魅力はランディ&マイケル・ブレッカーがモロジャズをやっているからに他なりません。
なにしろ当時の2人はブレッカー・ブラザースとしてフュージョンブームを引張っていましたし、同時期には、あの過激な超名盤「ヘヴィメタル・ビバップ(Arista)」を出していたのですから!
で、この録音は1978年2月、ニューオリンズにおけるライブレコーディングで、メンバーはランディ・ブレッカー(tp)、マイケル・ブレッカー(ts,fl)、ハル・ギャルバー(p)、ウェイン・ドッケリー(b)、ボブ・モーゼス(ds) という強面揃い♪
しかもこの音源は復刻にあたり、アナログ盤では編集してあったトラックを元に戻し、未発表テイクを追加したという強烈なブツになっています――
01 Speak With A Single Voice
おぉ、いきなりマッコイ・タイナーあたりが演じそうなアフリカ色のモード曲です。リズムもジャズロック系というか、ドンドンビシバシ! ボブ・モーゼスの物分りの良くないドラムスが、とにかく過激感を煽ります。
アドリブパートでは、まずランディ・ブレッカーが柔らかく出ながら、すぐにラップ系のロックノリでツッコミ、背後ではリズム隊が好き放題に暴れます。これが実に良いんですねぇ~♪ ハル・ギャルパーのピアノはチック・コリアからセシル・テイラーまで、何でもありです。
そして続くマイケル・ブレッカーは、例のドライな音色でハードドライブしつつ、思わせぶりな吹奏も交えたりして、モロジャズ感を強調しています。もちろんジョン・コルトレーン味の早吹き、音符過多で因数分解というフレーズの連発もたっぷり聴かせてくれます。
演奏はこの後、ハル・ギャルパーのパートに移りますが、ドラムスとベースの2人が目立ち過ぎでしょうか……。う~ん、きっと、これで良いんでしょう。緊張感とジャズ喫茶モードにどっぷりという、あの時代へトリップしていくのでした。
02 I Can't Get Started
お馴染みのスタンダードで和みましょう、という目論みでしょうか、最初っからハル・ギャルパーは如何にもジャズクラブ風にテーマを変奏していきますが、歌心があるんだか、無いんだか、ちょっと正体不明のスタイルが完全に1980年代の4ビート回帰現象を先取りしています。
もちろんバックは何時しか快適な4ビートに移っていますから、新譜として、こういうものが忘れられていた当時のジャズ喫茶では、大いに歓迎されたのです。
そしてランディ・ブレッカーは十八番の柔らかい歌心を存分に発揮し、最高に新しくて味のあるアドリブを聴かせてくれるのですから、ガチガチのジャズ者には、たまらない瞬間がもたらされます。
さらにマイケル・ブレッカーは、どこまでも硬派な姿勢で吹きまくり♪ それは明らかに「マイケル・ブレッカー節」であり、フュージョンでもモロジャズでも変えることの無い頑固な姿勢が、潔いのでした。
03 Waiting For Chet
ハル・ギャルバーの思索的なピアノソロから演奏がスタートし、ついで刺激的なテーマが提示されますが、ここではマイケル・ブレッカーのフルートが聴かれるあたりに珍しさがあります。ボブ・モーゼスのブラシも激シブですねぇ♪
そしてアドリブパートでは、ランディ・ブレッカーが力強くて柔軟なフレーズを積み重ねて山場を作って行き、リズム隊も相互作用で熱いビートを送り出していくあたりが、興奮を誘います! あぁ、最高です。
続くマイケル・ブレッカーも、一端収束したリズム隊のグルーヴを再び熱い迸りに導いていく情熱の吹奏が素晴らしく、ジャズには付物の暗い情念までも聴かせてくれますし、独特のスピード感と激情の吐露、そして変幻自在にノリまくる天才的なリズム感! ヒステリックな泣きとゲロ吐きのような低音の呻き! もう、完全に熱くさせられます!
するとリーダーのハル・ギャルパーは、打つ手無しという諦め状態なんでしょうか、かえって力みの抜けたアドリブで結果オーライだと思います。
04 Blue And Green
マイルス・デイビスが名盤「カインド・オブ・ブルー」で演奏した畢生のジャズ曲に、果敢に挑戦するのがハル・ギャルパーでは役不足でしょうか……。
否、ここではビル・エバンス風のノリ&音選びで、なかなかの好演を聴かせています。完全なピアノソロによる、短い演奏なのも吉と出たようです。
05 Now Hear This
暖かい拍手の中でスタートするこの曲は、完全な激烈モード! リアルタイムのジャズ者にとっては、最高に嬉しいプレゼントでした。
まずハル・ギャルパーが、マッコイ・タイナー丸出しのビアノで大健闘! こういうアドリブで熱くなるのが、私のような世代のジャズファンではないでしょうか? ある種のパブロフの犬なんですよ……。
おまけにランディ・ブレッカーが、これまた強烈なツッコミとボケを独りで演じてくれますから、グッときます。自分でも何処を吹いているのか分かっているんでしょうか……。これがモードジャズの恐くて凄いところだと思いますが……。
そしてマイケル・ブレッカー! おまえは、何て凄いんだぁぁぁぁぁぁ~!
絶叫、発狂、激昂、そして爆裂です! スピードが付き過ぎて曲がれないカーブを強引に倒して乗り切るバイカーのような、そして後ブレーキだけでUターン練習する初心者のような、とにかくスリル満点の止まらないアドリブは、絶句して感涙です! 背後のハル・ギャルパーもカッコイイ!
06 Children Of The Night
これが未発表だったボーナストラックです。
曲はモード丸出しの激しさで、最初から暗い情念と加熱した自己主張が満点! 特にリズム隊が火傷しそうです。
ハル・ギャルパーは、完全にマッコイ・タイナー味に染まりきっていますが、その真摯にジャズを演じる姿勢は評価されるべきだと思います。だって当時、ここまでモロにハードなジャズを聴かせてくれる人なんて、いませんでしたからっ! う~ん、でも、それゆえに、このトラックがお蔵入りしたような気もしています。
もちろんランディ・ブレッカーも、余裕を持ちつつ強烈なジャズ魂を聴かせます。バックでビシバシというボブ・モーゼスのドラムス、ブンブンブリブリのベースで唸るウェイン・ドッケリーも凄いですねぇ!
そして、お待ちかねのマイケル・ブレッカーは思わせぶりの出だしから、徐々に泣き出して盛り上がっていくという、まさに情念のイタコ吹き! スピード感のあるフレーズから複雑なリズムへのアプローチまで、いとも簡単に駆け抜ける「ブレッカー節」のジャズ対応モードが全開です。あぁ、ボリューム上げてしまいますよっ!
続くウェイン・ドッケリーのベースも手数が多い割りにビート感があるという、なかなか好ましいスタイルですし、一瞬の静寂をきっかけに飛び出すラストテーマなんか、もうジャズにどっぶりの世界なのでした。
ということで、なかなかハードなライブ盤ですから、フュージョンに毒されていた当時のジャズ喫茶では、久々のモロジャズとして大歓迎でした。しかも「ブレッカーなんてっ!???」と批判的だったイノセントなジャズファンも、これには参ったという雰囲気でしたねぇ♪
ちなみにハル・ギャルパーとブレッカー・ブラザースは、駆け出し時代から親交があり、この他にも共演レコーディングが数々残されています。
で、このCDは中でも希少な音源の復刻ですが、発売は10年近く前でした。現在は廃盤かもしれませんが、とにかくブレッカーファンは見つけたら、即ゲットをオススメ致します。モロに1970年代後半の香りが立ち昇る名演ですよ♪ 一応ジャケ写からリンク入れておきました。
マイケル・ブレッカーの演奏としては、まだまだ凄いものが山の様にありますが、なんか、これが忘れられない私です。
あらためて、マイケル・ブレッカーに合掌……。
音符の模様、楽器の模様、ベートーベンの肖像などかありましたよ
音楽ネクタイ(ドラム 青)
http://www.bidders.co.jp/pitem/50356395
音楽ネクタイ(サックス&ピアノ 黒)
http://www.bidders.co.jp/pitem/50357306
音楽ネクタイ(ベートーベン)
http://www.bidders.co.jp/pitem/50307612