OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

如何にもサボイな愛聴盤

2010-11-17 15:23:36 | Jazz

■The Jazz Message Of (Savoy)

めっきり寒くなってくると、ハードパップも尚更に良いですね。

で、本日ご紹介の1枚は、真っ黒なジャケットに横顔が写っていることから、ハンク・モブレーのリーダー盤とされることが多いのですが、実際は2種類のセッションをカップリングし、共通して参加しているのはケニー・クラークとドナルド・バードだけという、如何にもサボイらしい、とりとめのない制作姿勢が結果オーライの名作だと、個人的には愛聴しているアルバムです。

☆1956年2月8日録音
 A面のセッションに参加のメンバーはドナルド・バード(tp)、ハンク・モブレー(ts)、ロニー・ボール(p)、ダグ・ワトキンス(b)、ケニー・クラーク(ds) という顔ぶれですが、なんといってもピアニストが白人で、しかも黒人ビバップ否定派のレニー・トリスターノ(p) が愛弟子のロニー・ボール!?! まさに異分子としか思えないところに、聴く前から興味深々でしょう。
 しかし結論から言えば、全く違和感がありません。
 もちろんリズム隊のニュアンスに些かの微妙な味わいの変化はあるのですが、こういう異色の組み合わせも、ハードバップという当時は最高にヒップだったモダンジャズの懐の深さにあっては、かえって面白く聴けるのです。

A-1 There'll Never Be Another You
 お馴染みの歌物スタンダードが和やかなムードで演じられるという、この時期ならではのハードバップが堪能出来る仕上がりです。
 まずはダグ・ワトキンスが十八番のグイノリ系ウォーキングベースが最高のイントロになり、アップテンポで朗々とテーマを歌いあげるドナルド・バードのトランペットに対し、幾分のためらいを滲ませるハンク・モブレーのメロディフェイクが、いきなりのジャズ的絶頂感♪♪~♪
 あぁ、これこそがモブレーマニアの一番好きなツボでしょうねぇ~♪
 そしてアドリブ先発のドナルド・バードが、歌心の極みを聞かせてくれますよ♪♪~♪ もう、こんなに歌ってしまったら、後に続く共演者が困っちゃうなぁ……。
 と、思うのは余計なお世話でしょう。
 それはハンク・モブレーが独得のタメとモタレの至芸を存分に活かした、これ以上無いというグルーヴィなフィーリングに満ちた即興メロディを紡ぎ出してしまうのですからっ!
 う~ん、モダンジャズが、そしてハンク・モブレーが好きで良かったっ!
 本当にそう思ってしまいますよ♪♪~♪
 この幸福感の絶頂は、何物にも代えられませんっ!
 また気になるロニー・ボールの存在も流石と言うしかないほどで、堅実な伴奏はもちろん、アドリブパートではケニー・クラークのストレートなビバップビート対し、例によってウネウネと連なっていくトリスターノ派伝来のアドリブラインや意図的なハズシもニクイばかりのコード&メロディの遊び感覚!?!
 まさに全篇にモダンジャズの楽しさと凄さが横溢した名演だと思います。

A-2 Cattin'
 如何にもハンク・モブレーのオリジナルという中庸感覚のハードパップではありますが、そのグルーヴィな黒っぽさはアドリブ先発で飛びだす作者のテナーサックスが全てを物語っていますし、リズム隊のキメとノリもビシッとして、本当に気持良いですよ♪♪~♪
 そして絶好調のドナルド・バードは、ここでも素晴らしすぎます!
 さらにダグ・ワトキンスとケニー・クラークが作り出す、まさにストロングスタイルの4ビートは決定的で、頑固なロニー・ボールも意想外の同調を演じるあたりには、思わずニンマリ♪♪~♪

A-3 Madeline
 これまたハンク・モブレーのオリジナルというワンホーンによるスローな演奏は、そのテーマメロディからして、これぞのモブレー節がテンコ盛りですが、まあ、このあたりは例によって、幾分もっさりしたフィーリングに好き嫌いがあるかもしれません。
 しかしモブレーマニアには、そこがたまらないところでしょう。サブトーンの使い方もイヤミではありませんし、強いビートで寄り添うダグ・ワトキンスの存在感や浮きそうで浮かないロニー・ボールも良い感じ♪♪~♪
 個人的には最終パートのアドリブから自然とラストテーマのメロディをフェイクしていくハンク・モブレーに共感します。

A-4 When I Fall In Love
 いきなりハンク・モブレーの短いアドリブソロをイントロに、ドナルド・バードが人気のスタンダードメロディを屈託無く吹いてくれる、それだけでシビレが止まらない演奏です。
 う~ん、それにしても、この日のドナルド・バードは本当に好調だったんでしょうねぇ~♪ ハンク・モブレーとの相性は言わずもがな、完全にブラウニー系の歌心に迫る境地を記録出来たのは幸いだったと心底、思います。

☆1956年1月30日録音
 さて、こちらのセッションはドナルド・バード(tp)、ジョン・ラポーター(as)、ホレス・シルバー(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、ケニー・クラーク(ds) という、またま魅惑のメンツが参集していますが、中でも必然的にジョン・ラポーターの存在に対し、聴く前から違和感を感じるのがハードバップ愛好者の本音かと思います。
 それは結論から言えば、もちろんチャーリー・パーカーのスタイルを基にしてはいるものの、例えばハル・マクシックやジジ・グライスあたりの所謂知性派に属するスマートなフィーリングが、果たしてハードバップがど真ん中の他のメンバーと共存出来るのか? というポイントが面白くもあるわけですが……。

B-1 Budo
 パド・パウエルが書いた、ちょいと変則的なメロディラインが魅力のビバップ曲ですから、アドリブ先発を務めるジョン・ラポーターのアルトサックスも神妙です。しかし、そういう遣り口こそが、実はジャストミートの快演なんですねぇ~♪ 真っ黒なリズム隊のグルーヴィなノリに微妙な浮遊感で対処しつつ、灰色のアドリブフレーズを積み重ねるジョン・ラポーターは、なかなか侮れない存在だと思いますし、キメとしてアレンジされた短いリフもイヤミではないでしょう。
 結果的に演奏のほとんどがジョン・ラポーターを主役にしてはいるものの、何度も聴きたくなる仕上がりだと思います。

B-2 I Married An Angel
 あまり有名ではないスタンダード曲ですが、スローテンポでテーマメロディを見事に吹奏するドナルド・バードのトランペットを耳にするだけで、和みますよ♪♪~♪
 そしてアドリブパートでは、またまたジョン・ラポーターが実力の証明というか、かなりの心情吐露をクールに聴かせてくれるのですから、まさしくジャズ者には面映ゆくもあり、また悔しくも感動の名演じゃないでしょうか。
 その意味で続くホレス・シルバーが神妙に構えてしまうのは、ちょいと馴染めない心持ではありますが、それもまたモダンジャズが全盛期の楽しみかもしれません。

B-3 The Jazz Message
 このセッションをプロデュースしたオジー・カデナのオリジナルということになっている、実にグルーヴィなハードバップのブルースで、もちろんご推察のように、スタジオの現場でメンバー達が即興で演じた最良の結果が楽しめます。
 それは粘っこい4ビートを導くケニー・クラークのブラシからダグ・ワトキンスのウォーキングベースの気持良さ、さらにファンキーなホレス・シルバーのピアノという、これぞっ、ハードバップの魅力が横溢した展開からして、身も心も奪われてしまうのがジャズ者の宿業というものでしょう。
 そしてクールな浮遊感に満ちたジョン・ラポーターのアルトサックスが、実はなかなかの熱血ぶりで好ましく、さらに珍しくもミュートで迫るドナルド・バードのトランペットからは思わせぶりが感じられるという意想外の面白さが、たまりませんねぇ~♪
 演奏はこの後、再びリズム隊だけのパートへと移り、ダグ・ワトキンスの素晴らしいベースワークが如何にも「らしい」録音なのも素敵です。

ということで、参加したメンバーの魅力と同時に存在する違和感なんて、全く心配ご無用の名演集です。

特にドナルド・バードの快調さは本人のキャリアの中も特筆すべきものでしょうし、ハンク・モブレーの「らしい」部分も存分に楽しめるでしょう。

またジョン・ラポーターという地味な実力派、あるいはロニー・ボールという異分子の魅力に目覚める可能性も、実はきっちりと計算されたセッションの内幕は、なかなか凄い企画だったと思います。

既に述べたように、サボイというレーベルはブルーノートに比べると場当たり的というか、ちょいと???の制作方針から当たり外れが相当にある作品も否定出来ないのですが、このLPは片面ずつの異分子投入が見事な面白さを成立させています。

名盤ガイド本からは無視されている1枚ではありますが、どちらの面を聴いてもハードバップの魅力が横溢した名演集として、ジャズ喫茶でリクエストしてみるのもジャズ者の楽しみじゃないでしょうか。

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