■Lem Winchester and the Ramsey Lewis Trio (Argo)
モダンジャズのヴァイブラフォン奏者といえば、MJQのメンバーとしても名高いミルト・ジャクソンが常に一番の存在ですが、他にもテリー・ギブスとかデイブ・パイク、あるいはエディ・コスタ、そして新主流派ではボビー・ハッチャーソンという名手が活躍しています。
そして本日の主役たるレム・ウィンチェスターも決して忘れられない人なんですが、残念ながらロシアン・ルーレットによる下らない最期が、本当に悔やまれますねぇ……。
ちなみにレム・ウィンチェスターは本職が警察官でしたから、演奏活動はアルバイトだったんでしょうが、それにしても見事な腕前とジャズ的感性の素晴らしさは、このアルバムを含めても数枚しか残されていません。
さて、この作品は副題が「Perform A Tribute To Clifford Brown」とされているとおり、早世した天才トランペッターのクリフォード・ブラウンに捧げられた企画セッションで、もちろんその十八番だった演目が中心になっています。
録音は1958年10月8日、メンバーはレム・ウィンチェスター(vib)、ラムゼイ・ルイス(p)、エルディ・ヤング(b)、レッド・ホルト(ds) というMJQ仕様! しかもサポートの3人は当時売り出し中だったラムゼイ・ルイス・トリオなんですから、これは聴く前からゾクゾクするのがジャズ者の心情でしょう。
ちなみに原盤裏ジャケットの解説等によれば、レム・ウィンチェスターが奉職していのはクリフォード・ブラウンの故郷の町だったそうですし、これがデビュー盤となったはニューポートジャズ祭での好演がきっかけとされています――
A-1 Joy Spring
クリフォード・ブラウンが自らの歌心を証明するために書いたとしか思えない、天才的アドリブの所謂「ブラウニー・フレーズ」を巧みに繋ぎ合わせたような素敵なオリジナル♪ もちろん作者本人は「Clifford Brown & Max Roach (EmArcy)」で歴史的な名演を残していますから、これをカバーするプレイヤーは本当に大変だと思います。
それゆえか、レム・ウィンチェスター以下のバンドには良い意味での開き直りみたいなところが感じられ、至極自然体に「自分達の演奏」をやっているようです。
とはいえ、この編成ですから、どうしてもMJQみたいに聞こえるのは避け難く、ラムゼイ・ルイスなんか故意か、偶然か知りませんが、何となくジョン・ルイスしていますから、これは笑っていいんでしょうか? もちろん当時は、あの「Th In Crowd (Cadet)」の大ヒットを出す前とはいえ、ファンキー&グルーヴィンが持ち味の人が、これではねぇ~。
しかしベースのエルディ・ヤングが熱演で、アーゴ特有のゴリゴリな録音もありますから、結果オーライでしょうね。肝心のレム・ウィンチェスターは可もなし不可もなし? 大御所のミルト・ジャクソンよりは乾いた音色のヴァイブラフォンが個性なんだと思います。
A-2 Where It Is
レム・ウィンチェスターが書いたMJQ調のオリジナル! ですからテーマのアサンブルなんか、モロですねぇ~。ヴァイブラフォンもピアノも、ベースもドラムスも、全くのコピーバンドみたな響きが逆に嬉しくなってしまいます。
しかしアドリブパートに入ってからのレム・ウィンチェスターは、徐々に個性的な世界を披露して、唸り声も印象的にシャープなフレーズを流麗に聞かせてくれるのです。もちろんラムゼイ・ルイスは、勿体ぶったファンキーフレーズを使っていますよ。
う~ん、しかし、これはやっぱりMJQの世界だよなぁ~、と苦笑いです。
A-3 Sandu
これもクリフォード・ブラウンが自作自演した有名なファンキー曲ということで、バンドの面々も本領発揮の粘っこい演奏を聞かせています。特にグイノリのラムゼイ・ルイス・トリオが最高ですねぇ~♪ ビシッとキメを入れるドラムスにどっしり構えたベースの存在感! ピアノの黒いファンキー節もたまりません。このあたりの「音」の強さこそ、その歪み寸前の迫力というか、アーゴというレーベル特有の響きでしょうね♪
そして落ち着いたブルース魂を発揮するレム・ウィンチェスターの潔さ! 明らかにミルト・ジャクソンとは一味違ったその感覚は、ヴァイブラフォンのクールな響きが実にカッコ良いです。
A-4 Once In A While
綺麗なメロディの有名スタンダードで、これもクリフォード・ブラウンがアート・ブレイキーのハンドメンバーとして「A Night At Birdland Vol.1 (Blue Note)」のライブバージョンが永遠の決定版になっていますが、それを神妙に演じるこの4人組の心意気にも、なかなかに感じ入るものがあります。
レム・ウィンチェスターのヴァイブラフォンはクールな響きで心温まるメロディを紡ぎ出し、ゆったりとしたテンポで実にテンションの高い世界を描き出しているのです。
ラムゼイ・ルイス・トリオの伴奏もツボを押さえた上手さがあり、地味ながらもA面のハイライトじゃないでしょうか。そこはかとないブルースのフィーリングが絶妙の隠し味だと思います。
B-1 Jordu
これまたモダンジャズでは有名すぎるデューク・ジョーダンのオリジナル曲で、もちろんクリフォード・ブラウンも決定的な名演を残しているわけですが、このバージョンも秀逸です。
もちろん正直、MJQ調も感じられますが、アドリブパートに入っては浮遊感すらあるレム・ウィンチェスターのヴァイブラフォンが素晴らしく、ズバンズバンに跳ねるベースとタイトなドラムス、そしてテキパキとしたラムゼイ・ルイスが本領発揮です。
B-2 It Could Happen To You
モダンジャズでは数多の名演が残されている有名スタンダードですが、このバージョンもそのひとつという快演が楽しめます。特にラムゼイ・ルイスのノリは楽しくも痛快! 伴奏での濁ったようなコードワークとゴリゴリに迫るアドリブは短いながらも嬉しいですねぇ~♪
肝心のレム・ウィンチェスターは、些か泥臭いメロディフェイクが逆に印象的だと思います。
B-3 Easy To Love
有名スタンダードのシカゴソウル的解釈とでも申しましょうか、微妙に黒っぽいグルーヴが如何にもハードバップしています。特にガンガン煽るラムゼイ・ルイスの伴奏が楽しいですねぇ~♪ もちろんアドリブもグイノリです。
レム・ウィンチェスターも自然体を心がけているようですが、随所でミルト・ジャクソンから脱却しようとして、それが果たせない苦悩が……。しかしそんな歌心も良いですね。クライマックスの短いソロチェンジやラストテーマの盛り上げ方にも、心が踊ってしまいます。
B-4 A Message From Boysie
オーラスはシンミリとして意味不明なバラード曲ですが、部分的に浮かんでは消えていく美メロが、アドリブパートに入って活きてくるような感じです。つまり圧倒的にアドリブが素晴らしいというジャズの本質?
まあ、こういうところはMJQの十八番でもありましたから、ここでもそれ風かと思いきや、実は寸前で踏みとどまっているのはラムゼイ・ルイス・トリオの力感溢れる黒いフィーリングがあればこそでしょうか。
そしてこの演奏を聴いてからA面のド頭「Joy Spring」に戻ってみると、あら不思議というか、MJQ風にしか聞こえなかったその演奏が、非常に個性的なグルーヴに満ちていることに気づかされるのでした。う~ん……。
ということで、なかなかに深遠な企みが隠された作品なんでしょうか? ということはCDのループで楽しむのが正解?
実は私がそこに気づいたのは、このアルバムを入手した当時は1枚のLPを何度も繰り返して聴くという、当たり前のスジを通していた時期だったからで、それが現在では1回しか聴かずに後は棚のオジャマ虫、あるいは壁に掛けるような邪道はしていなかったのです。あぁ、なんてバチアタリな……。ちなみに私有は、当然ながら日本プレスの廉価盤です。
本日、久々に取り出して聴きながら、そんな若き日の自分を懐かしみ、今の自分を反省しているのでした。CD、買おうかなぁ。