OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

チャーリー・パーカーのラテンな笑顔

2008-10-23 13:19:07 | Jazz

Fiesta / Charlie Parker (Clef / Verve)

ジャズ喫茶で最も気持ちの良い過ごし方は「居眠りモード」かもしれません。もちろん爆眠状態ではなく、店内に満たされてるビートの洪水の中でトロトロと白昼夢♪ これが実に心地良いわけですが……。

時折、ハッとするほど良い感じの「音」に感応して現実に引き戻される瞬間も、また、たまらなくジャズ喫茶的な楽しみのひとつだと思います。

さて、その日の私もそんな楽しみに浸っていたわけですが、そこへ流れてきたのが陽気で楽しいラテンミュージック!? ん~、ここはジャズ喫茶だったよなぁ……。うん、確かにアルトサックスやピアノがアドリブやっているなぁ……。

と思って目を開けた私は、そこに楽天的な笑顔も爽やかなチャーリー・パーカーのポートレイト、そして鮮やかなブルーのアルバムカパーを見たのです。

げっ、チャーリー・パーカー!? こんなん演奏しているの!?

当時はガチガチのジャズに入れ込んでいた時期の私だった所為もありますが、それにしてもこんな楽天的な演奏もないだろう~、という気分が支配的でした。しかしその快楽的な味わいは本当に素敵で、また後に知ったことですが、チャーリー・パーカーという天才はモダンジャズばかりではなく、クラシックや大衆音楽にも造詣が深く、大好きだったというのですから!

う~ん、実際、そうでしょうねぇ。だってモダンジャズ最先端で自分より凄いプレイヤーは存在しないわけですから、チャーリー・パーカーにしてもビバップよりも新しい展開へ進む意思表示だったのでしょう。

ちなみにこの時期、つまりヴァーヴに残された演奏については既に全盛期では無いとか、シャリコマで甘っちょろいとか言われることが多いようですが、チャーリー・パーカーは何時だってチャーリー・パーカーでしかありえない凄さと潔さが楽しめると思います――

A-1 Un Poquito De Tu Amor (SP:Mercury / Clef 11092 A)
A-2 Tico Tico (SP:Mercury / Clef 11091 A)
A-3 Fiesta
A-4 Why Do I Love You
(take-7 / master)
A-5 Why Do I Love You (take-2 / altarnate)
A-6 Why Do I Love You (take-6 / altarnate)
 A面の4曲、別テイクも含めた6トラックは、もちろんSP発売を前提とした短い演奏です。録音は1951年3月12日、メンバーはチャーリー・パーカー(as)、ウォルター・ビショップ(p)、テディ・コティック(b)、ロイ・ヘインズ(ds) 、ホセ・マンガル(per)、ルイス・ミランダ(per) というセクステットですが、各曲ともに打楽器組の活躍が顕著です。
 まずは楽しいチャチャチャ調の「Un Poquito De Tu Amor」がチャカポコリズムで浮かれたテーマ演奏、しかしアドリブハードでは何時に変わらぬチャーリー・パーカーの全力疾走に目も眩むほどです。
 また、いきなりスパスバと始まる「Tico Tico」は、本当にどうにもとまらないという山本リンダ状態♪ 耳に馴染んだメロディがチャーリー・パーカーの不屈のジャズ魂で強烈にフェイクされ、踊り出しても許されるラテンのビートがたまりません。もぉ、どうにもとまらない!
 さらにアルバムタイトルとなった「Fiesta」での妖しい雰囲気の良さ♪ どちらかというと4ビート主体の演奏は、後年のルー・ドナルドソン(as) あたりが十八番としていた打楽器入りハードバップの元ネタかと思われます。もちろんチャーリー・バーカーのアドリブは得意技の連発ですし、ウォルター・ビショップのピアノも正統派のモダンジャズになっていますよ。
 そして「Why Do I Love You」はスタンダードの歌物ということで、このセッション中では一番、正統派っぽい仕上がりですが、やはり打楽器組がラテンビートを強調しているので、ロイ・ヘインズは些か影が薄い感じ……。それが別テイク、特にテイク6では逆に強靭な4ビートを敲いたりしていて、思わず唸ってしまいますし、ウォルター・ビショップも熱演です。しかもチャーリー・パーカーは何時だって泰然自若!
 ちなみに「Un Poquito De Tu Amor」と「Tico Tico」はSP発売されていますが、「Fiesta」と「Why Do I Love You」はLP時代になってから世に出た演奏かもしれません。このあたりは私の勉強不足で、データがイマイチ明確ではありませんので、念のため……。

B-1 Mama Inez (SP:Mercury / Clef 11092 B)
B-2 La Cucuracha (SP:Mercury / Clef 11093 B)
B-3 Estrellita (SP:Mercury / Clef 11094 A)
B-4 Begin The Beguine (SP:Mercury / Clef 11094 B)
B-5 La Paloma (SP:Mercury / Clef 11091 B)
 B面の最初の5曲が、これまた楽しいラテンジャズ♪
 録音は1952年1月23日、メンバーチャーリー・パーカー、(as)、ウォルター・ビショップ(p)、テディ・コティック(b)、マックス・ローチ(ds) 、ホセ・マンガル(per)、ルイス・ミランダ(per) 、そしてベニー・ハリス(tp) が加わっています。
 結論からいうと、演奏そのものの仕上がりがA面より一層に鮮やかですから、全ての曲がSPとして発売され、後には10インチ盤LPとなり、さらにここで12インチ盤LPとして再収録されたのは人気が高かった証明でしょう。
 まずは「Mama Inez」の楽しく軽快な雰囲気の中で炸裂する豪放なチャーリー・パーカーのアドリブに喚起悶絶! ベニー・ハリスとウォルター・ビショップも集中力が見事な熱演を聞かせています。
 また、浮かれた調子の「La Cucuracha」、妖しい哀愁が心に沁みる「Estrellita」、アート・ペッパーが必ずや聞いていたと確信する「Begin The Beguine」の微熱な気分♪ さらに掛け声も楽しいラテンフレイヴィーが横溢する「La Paloma」という、全てが懐かしく耳に馴染んだメロディが、チャーリー・パーカーという天才のアルトサックスで楽しめる幸せ!
 特に「Mama Inez」でのアドリブは典型的なパーカー節が満喫出来ると思いますし、個人的には新東宝キャバレームードが満点の「Estrellita」が最高に好きです。う~ん、三原葉子が踊っているような♪♪~♪

B-6 My Little Suede Shoes (SP:Mercury / Clef 11093 A)
 さて、オーラスは、こうしたラテン路線のチャーリー・パーカーでは一番有名な曲でしょう。もちろんチャーリー・パーカーのオリジナルで、後年には他のプレイヤーもカバーしているほどの楽しい雰囲気が、たまりません♪
 録音&メンバーのデータはA面と同じですが、それにしてもこのお気楽度数の高さは半端ではなく、おそらくはチャーリー・パーカーが書いた曲では最高の親しみ易さがあるのじゃないでしょうか。

ということで、素晴らしく楽しいアルバムです。

もうビバップだとかモダンジャズだとか云々は関係無く、この快楽に身を任せてしまえば、南の島の楽園で朗らかに過ごせる気分にどっぷり♪ あとは美女だけが傍らにいれば……、という妄想は、やはりチャーリー・パーカーのアドリブの凄さにブッ飛ばされるんですが、まあ、いいか♪

それにしても、こういう企画アルバムやセッションは後年、かなりの頻度で作られましたが、ここまでシンプルに徹底した演奏も無いでしょう。チャーリー・パーカーが演じているからこその価値も当然ありますが、それに拘らずに聴いて楽しい傑作集だと思います。

天才のラテンな笑顔は、暗いジャズ喫茶では眩しいほどでした。

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