OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ワトキンス・グレンはあの日の夢

2011-07-19 14:48:49 | Rock

The Band Live At Watkins Glen (Capitol = CD)

「ワトキンス・グレン」という地名を耳にして少なからず心が揺れてしまうのは、きっと1970年代前半のアメリカンロックをリアルタイムで聴いていた現代の中年者、あるいは後追いでそうしたジャンルの虜になったファンにちがいありません。

と、本日も初っ端から独断と偏見のテンションが高いサイケおやじは、もちろんそのひとりである事を否定致しません。

それはニューヨーク州の北西部に位置するワトキンス・グレンという場所であって、1973年7月28日に行われた大規模な野外コンサートを指すという真実は、今やロックの歴史になっているといって過言ではないでしょう。

なにしろ集まった観客が60万人という、あのウッドストックを凌ぐ規模というだけで、極東の島国に住む日本のロックファンには想像を絶する出来事だったわけですが、しかしオールマン・ブラザーズ・バンド、グレイトフル・デッド、そして本日の主役たるザ・バンドという、まさに当時のアメリカンロックでは三大実力派ライプバンドが揃い踏みとあっては、さもありなんと羨ましくも納得するばかりでした。

そしてリアルタイムでの熱演が洋楽マスコミを通じて喧伝される時、ファンは例外なくワトキンス・グレンの音源を切望し、当然ながらブートと公式盤によって追々に発売されたわけですが、中でもザ・バンドのそれについては様々な紆余曲折があったらしく、オールマンズとデッドがその全てでは無いにしろ、比較的早い段階からブートも含めて流通していた事からすれば、些か待ちくたびれたザ・バンドのファンは1995年になってようやく発売された本日ご紹介のアルバムに対し、かなり大きな期待をしていたわけですが……。

 01 Back To Memphis (outtake from Moondog Matinee)
 02 Endless Highway (outtake from Moondog Matinee)
 03 I Shall Be Released (outtake from Rock Of Ages)
 04 Loving You Is Sweeter Than Ever (outtake from Rock Of Ages)
 05 Too Wet To Work
 06 Don't Ya Tell Henry (outtake from Rock Of Ages)
 07 The Rumor (outtake from Rock Of Ages)
 08 Time To Kill (unknown live ?)
 09 Jam
 10 Up On Cripple Creek
(unknown live ?)

現代的な視点からの結論としては、これがトンデモ系のフェイク盤!

上記した演目の後に注釈したとおり、大部分が当時は未発表になっていたスタジオアウトテイクに拍手を被せたり、ワトキンス・グレンとは関係無い場所のライプ音源をリミックスして寄せ集めたのが、その真相でした。

例えば臨場感溢れるメンバー紹介のMCに続いて披露される「Back To Memphis」と「Endless Highway」は、1973年に発売されたザ・バンドの履歴書的なカパーアルバム「ムーンドッグ・マチネー」制作時の未発表音源に拍手を被せたものというのが定説で、そのネイキッドなスタジオバージョンは、2001年にリマスターされた同アルバムのCDのボーナストラックとして、ようやく正体を現しています。

しかし、ここに聴かれる疑似ライプバージョンの熱いエモーションは決して捨て難く、実はここに纏められる以前にも、アンソロジー的なベスト盤「ディフィニティヴ・コレクション」やボックスセットの「グレイト・ディヴァイド・ボックス」では注目のウリになっていたほどです。

それが更にリミックス&リマスターされて再収録されたのは、続く「I Shall Be Released」以下、「Loving You Is Sweeter Than Ever」「Don't Ya Tell Henry」「The Rumor」という、あの名作ライプ盤「ロック・オブ・エイジズ」と同じステージからの未発表音源とのバランスを考慮しての事でしょう。

実際、曲や演奏の流れが、なかなか自然でグイグイ惹きつけられてしまうんですねぇ~~♪

もちろん、このCDを初めて聴いた時には、そのような詐術が使われていようとは夢にも思いませんでしたが、しかし、だとしても、ザ・バンドならではの素晴らしいグルーヴは些かも変質してはいないでしょう。

いや、むしろ、これはストーンズあたりならば常套手段として許せる部分も、ザ・バンドというリアルな実力派が、何故にそんな事をやったのかという業界の裏の掟を知る手掛かりとしても興味深々!?!?

ちなみにワトキンス・グレン当時のザ・バンドは、前述したアルバム「ムーンドッグ・マチネー」セッションの仕上げをやっていたと言われていますが、実はメンバーのほとんどが悪いクスリ等々の問題を抱え、また音楽的な煮詰まりや人間関係の縺れもあったそうで、なんと18ヵ月(!?)ぶりのステージ復帰は当然ながら公式レコーディングも行われています。

ところが出番前日、既に客入れされていたステージでみっちりとリハーサルをやった準備万端が裏目というか、いよいよの本番では天候が急変した所為もあり、電源トラブルや機材の不備が頻発……!!

したがって現実的に録音された音源は様々なプートでも確認出来るとおり、到底許容範囲ではなかったのでしょう。

しかし、このCDには「Too Wet To Work」と「Jam」が、 そこからリアルに用いられ、特に前者は突然の雷雨の中で混乱する観客を絶妙に癒し、和ませ、さらにエキサイトさせるガース・ハドソンの一人舞台によるオルガンソロが素晴らしい存在感を示していますよ♪♪~♪ もちろん雷鳴や滝のような豪雨の様子はSEによる大袈裟な強調なんでしょうが、そうしたスタジオの魔法が、真に魔法となった結果は最高!

アルバムの流れを盛り上げ、纏まった展開に仕立てるうえでは、絶妙のスパイスになっていると思います。

ただし、そうであればこそ、収録されたのが全10曲というのは本当に短く、「Time To Kill」と「Up On Cripple Creek」は「ステージ・フライト」制作時のアウトテイクに拍手を被せたとされる定説も虚しくなるばかり……。尤も個人的には、この「定説」にはちょいと納得しがたいものを感じていて、どっかのライプ音源じゃないんですかねぇ~。特に「Time To Kill」は思わせぶりなイントロから悶絶するほどテンションの高い間奏を激演するギターは言わずもがな、もっさりしながらシビアなグルーヴを満喫させてくれるザ・バンドのライプ真骨頂が堪能出来るのですからっ!

ということで、今となっては完全廃盤の仕打ちも当然の如く受け取られる珍作ではありますが、既に述べたようにアウトテイクを加工した曲に関しては最新リマスターCDでリアルな現実に触れることが出来たとしても、ワトキンス・グレンという魅惑の響きは決して疎かにされるものではないでしょう。

なによりもザ・バンドの歌と演奏は驚異的に素晴らしく、ドタバタしたドラムスが実はタイトでグルーヴィなビートを叩き出し、グイノリで蠢くベースやカキクケコの悶絶ギター、さらには鋭いオルガンと弾むピアノの響きにバックアップされたボーカル&コーラスがそこに出てくる時、少なくともサイケおやじは心底シビれが止まりません。

そして今となっては二度と取り戻すことが出来ない唯一無二の輝きが、何時の日かリアルな現実の完全版になる事を願っているばかりです。

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2 コメント

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ワトキンス・グレン (トモアキーニ)
2011-07-19 20:42:49
何かの雑誌で読んだのですが、ワトキンス・グレンでのライブの模様は、「ヤング・ミュージック・ショー」で放映されたのではないでしょうか?
僕は薄ぼんやりと覚えています。「なんかアメリカのバンドやってるなぁ」って程度の認識でしたけど。。。

その後、デュアン亡き後のオールマンのライブ盤「熱風」で、ワトキンス・グレンでの演奏を聴いたくらいです。音源は収録されていると思います。

ところでオールマンの曲で「エリザベスリードの追憶」がとても好きなのですが、南部の田舎の兄ちゃん達にしては、かなり洗練されたアレンジだなぁと不思議に思っています。
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音源探求 (サイケおやじ)
2011-07-20 15:34:27
☆トモアキーニ様
コメント、ありがとうございます。

ワトキンス・グレン関連の音源は、あのビル・グラハムの管理下にあるんじゃないでしょうか? それゆえに堂々と出せるオールマンズやデッドと違い、ザ・バンドは「ラストワルツ」でのゴタゴタもありましたからねぇ……。
しかしいずれは必ずや本物が出ると信じています。

それと「エリザベスリード」のお洒落フィーリングは、メンバーのモダンジャズ好きが反映されているんじゃないでしょうか。

「ヤングミュージックショウ」の件は、当時のメモがありますので、調べてみますね。
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