■This Is Criss! / Sonny Criss (Prestige)
歴史云々よりは、鑑賞の現場における人気ミュージシャンの存在こそが、ジャズの世界では圧倒的に多いと思っていますが、いかがなもんでしょうか?
本日の主役たるソニー・クリスは、まさにそうしたひとりで、人気リーダー盤も数多く、例えば「Up Up And Awqy (Prestige)」や「Criss Craft (Muse)」、あるいは「Saturday Morning (Xanadu)」、そして「I'll Catch The Sun (Prestige)」あたりは決定的でしょうが、個人的にはこのアルバムが一番好きだと、ある日、突然に揺れてしまうのがサイケおやじの節操の無さです。
録音は1966年10月21日、メンバーはソニー・クリス(as)、ウォルター・デイビス(p)、ポール・チェンバース(b)、アラン・ドウソン(ds) というワンホーンのカルテット! ですから、艶やかに泣きながら、ハードボイルドな感傷も存分に表現するソニー・クリスの魅力が、それこそたっぷりと楽しめます。
ちなみに、このアルバムは多分、ブレスティッジと契約しての最初の作品でしょうか? チャーリー・パーカー直系の情熱的なスタイルで押し通してきた一徹な姿勢が、ようやく報われようとしていた意気込み、それとリラックスした感情の機微が、実に上手くバランスのとれた好セッションだと思います。
A-1 Black Coffee
ペギー・リーの名唱が有名なブルース系の歌謡スタンダードですから、そのじっくりと醸し出されるソウルフルな泣きこそが、ソニー・クリスにはジャストミート♪♪ ハードボイルドな泣き節と艶やかなアルトサックスの音色には、初っ端からシビレまくりです。
アラン・ドウソンのジャズ魂がこもったブラシ、ギリギリのところまでケレンの芝居を演じているウォルター・デイビスのピアノもニクイ助演ですが、なによりもソニー・クリスの熱い歌心、激情と忍び泣きのコントラストが最高です!
じっくりとしたビートをキープするポール・チェンバースも、決して派手なプレイはやっていませんが、その地味な心地良さ♪♪ まさにワンホーン演奏の醍醐味でしょうねぇ。
A-2 Days Of Wine And Roses
これも誰もが知っている有名スタンダードのメロディですから、幾分早めのテンポで演じられるソニー・クリスのバージョンだって、モダンジャズとしては十分に許容範囲でしょう。とにかくスピード感満点に思うがままのフレーズを吹きまくるソニー・クリスには、ジャズのスリルと喜びがいっぱいです。
アラン・ドウソンのハイハットが十八番の至芸を聞かせてくれるのも嬉しく、また正統派ビバップのフレーズに拘るウォルター・デイビスは、全くの正統派! こういう真っ向勝負のモダンジャズこそが、何時までも生き残れるという証のような仕上がりです。
A-3 When Sunny Gets Blue
これも通常よりも幾分早いテンポで演じられる歌物解釈が潔い演奏です。しかし、おそらくは十人十色の賛否両論かもしれません。ただ、個人的には、この軽いタッチのスイング感が、ソニー・クリスのアクの強い自己表現にはぴったりだと思っています。
実際、些か違和感のある最初のテーマ演奏が、アドリブパートに入っていく頃になるとリスナーの耳と心の感性にグッと入り込んで、それこそ琴線に触れまくりじゃないでしょうか。いゃ~ぁ、ソニー・クリスって、本当に良いですねぇ~~♪ なんて会話がジャズ者の間で交わされるのは、こういう時だと思います。
実際、ソニー・クリスの節回しは絶品ですし、ウォルター・デイビスの絶妙に抑制されたファンキー感覚も聞き逃せませんねっ♪♪♪
B-1 Greasy
ウォルター・デイビスが書いた楽しいブギウギゴスペルの代表曲で、ジャッキー・マクリーンも演じていますが、同じアルトサックス奏者として、ソニー・クリスはさらにストレートな表現で素直に演じているのが憎めないところです。
ポール・チェンバースを要に、弾むようなリズム隊のグルーヴも実に楽しく、ソニー・クリスが十八番のアドリブで独り舞台! 2分半ほどの短い演奏時間が完全に成功しています。
B-2 Sunrise, Sunset
これまたお馴染みの泣きメロ人気曲♪ それをソニー・クリスが、なんでこんなに胸キュンなっ! というフレーズばっかりで吹いてくれるんですから、たまりません♪♪ しかもアルトサックスの音色そのものが、ビロードような黒光りなんですよっ♪
素晴らしすぎるメロディフェイク、感傷的なフレーズの繋がりも、力強くて用意周到なリズム隊のサポートがあればこそ、決して浮き上がっていない名演だと思います。
B-3 Steve's Blues
そして一転、痛快な4ビートの熱いハードバップ!
覚えやすいテーマリフと情熱のアドリブという、それはソニー・クリスのイメージどおりですから、ファンにとっては心地良い安心感に身をまかせてしまう至福の演奏でしょう。
う~ん、それにしてもチャーリー・パーカーの、ジャズの真髄が秘められたアドリブスタイルを、ここまで俗っぽく演じてしまうソニー・クリスは、それでもピュアなジャズ魂を存分に感じさせてしまうのですから、本当に凄い人です。
それはリズム隊の自然体な熱演を呼び、特にアラン・ドウソンのドラムソロとパッキングは、何時聴いても良いですねぇ~♪♪♪
B-4 Skylark
あぁ、これまたソニー・クリスのソフトな黒っぽさが見事に表現された名曲にして名演です。とにかくテーマメロディの穏かにソウルフルなフェイクには、絶句して感涙するほかはありません。
そしてアドリブパートの完成度! こんな真摯なモダンジャズの喜びは、ちょっと他に体験するのが難しいと思うほどです。しかもソニー・クリスの力まない姿勢が、もう、最高なんですよねぇ~~~♪
ウォルター・デイビスの控え目なピアノにも好感が持てますし、基本に忠実なドラムスとベースに支えられ、全篇に歌心が溢れ出た仕上がりは、真の隠れ名演だと思います。
ということで、かなり分かり易い演奏ばかりなんですが、そのコクがあって濃密な仕上がりは、聴くほどに味わいが深まるばかりです。
ソニー・クリスの諸作中では、些かシブイ作品かもしれませんが、演目も素敵ですし、聴けば納得のアルバムじゃないでしょうか。