■The Incredible Jimmy Smith At Club“Baby Grand”Wilmington, Del. Vol.2 (Blue Note)
ライブ盤の魅力は大衆音楽の必須条件みたいなもんですが、もともとは瞬間芸のジャズではスタジオ録音だって、まあ、ライブセッションみたいなものでしょう。
しかし実際に観客を前にしての演奏は、なかなかに緊張感があり、またその会場や小屋の雰囲気、そして客層それぞれからの反応等々がありますから、演奏者はそういう環境に左右されて当たり前ですし、それがパッケージ化されたアルバムの個性に繋がるんだと思います。
さて、本日ご紹介の1枚は、モダンジャズのオルガン奏者では第一人者だったジミー・スミスが、自らのレギュラートリオを率いての巡業ライブ! しかもその現場がニューヨークではなく、デラウェア州のウィルミントンという地方都市にあるクラブ「ベイビー・グランド」なのですから、これは当時の極めて日常的なグルーヴを残す目的があったと思われます。
録音は1956年8月4日、メンバーはジミー・スミス(org)、ソーネル・シュワルツ(g)、ドナルド・ベイリー(ds) とされていますが、その頃のジミー・スミスはアルフレッド・ライオンがイチオシのスタアとしてブルーノートと契約し、アルバム3枚分以上のスタジオセッションを終えたばかりです。しかしプロデューサーのアルフレッド・ライオンにしてみれば、ジミー・スミスを発見したのがハーレムのクラブでしたから、どうしてもそういう日常的な熱気をレコード化したかったのでしょう。その意味で、地方都市のクラブ、おそらく客層は黒人主体の店でしょうか、とにかくガサツな熱気が渦巻く演奏が楽しめます。
ちなみにこれは「第2集」で、ということは当然「第1集」も出ていますが、当時のブルーノートはこうしたライブ盤を出すときはLP1枚物 で「Vol.1 & 2」の同時発売が常のようでした。ですから両盤とも同等の仕上がりになっていまので、どちらが好きかは十人十色でしょう。とりあえば私は、「第2集」派ということで――
A-1 Caravan
デューク・エリントン楽団の当たり曲ですが、私の世代では何と言ってもベンチャーズでしょう。あのエレキギターの痛快無比なノリとロックの真髄というべきグルーヴは、日本中に狂騒を巻き起こしたのですから、失礼ながらオリジナル演奏のホンワカムードは望むところではありません。
そしてここでの演奏は、そんな私の希望どおり! 猥雑な熱気が渦巻くクラブの雰囲気とグルーヴィなモダンジャズというよりもR&Bやロックインストの味わいも濃厚な大名演になっています。
まずトリオが一丸となって作り出す初っ端からのグルーヴ、熱いリフがたまらなく最高です。そしてソーネル・シュワルツのギターがテーマをリードし、そのまま強引なアドリブソロに入っていくのですから、歓喜悶絶! 濁って歪んだようなギターの音色は、まさに真空管アンプの味わいが素晴らしく、これが黒人ギターの魅力かと思います。
もちろんジミー・スミスは、テーマのサビでスピード感満点の4ビートスパイスを効かせ、アドリブパートでは全力疾走のグイノリを披露! こういうところはディープ・パープルのジョン・ロードがダイレクトに影響を受けているのでしょうね。激ヤバの伴奏も良い感じです。
それはソーネル・シュワルツのギターも同様で、合いの手というよりも、挑むようなリズムギターの存在感こそが、こうした黒人だけのグルーヴを生み出している秘密かもしれません。
またドナルド・ベイリーが敲く残響音が強いドラムスも最高にゴスペルムードを醸し出し、これは店内の構造にも関係するのかもしれませんが、それを見事に録音したヴァン・ゲルダーは流石だと思います。
心底、熱くなります!
A-2 Love Is A Many Splendored Thing / 慕情
邦題は「慕情」として、これも我が国ではお馴染みのメロディですから、ジミー・スミスがメンバーと共謀してゴスペルムードに改作するのが、かえって好ましいほどです。
なにしろ冒頭の無伴奏オルガンソロ、一転してのグイノリテーマ演奏、さらにアグレッシブなアドリブパートと続く展開は脂ぎったフィーリングが濃厚ながら、しかしこれが無くては許されない雰囲気です。
ゆったりとして重心の低いグルーヴを提供するドラムス&ギターとの一体感も素晴らしく、このトリオにはブルースやソウル、ゴスペルやジャズへの深い信仰が感じられるのでした。
ちなみに店内のざわめきも、良い感じですね♪
B-1 Get Happy
タイトルどおり「幸せになろう」という大快演です! アップテンポでブッ飛ばす痛快な4ビートは、これぞハードバップの醍醐味ですが、それにしてもオルガントリオでここまで出来るかという纏まりの凄味はエグイですねぇ~♪ ソーネル・シュワルツのギターが素晴らしい伴奏を聞かせてくれますし、アドリブパートでの直線的なソロも私は大好きです。
そしてドナルド・ベイリーのドラミングが、これまた小気味良く、シャープで安定感のあるシンバルワークはバンドをどこまでもスイングさせまくりですから、ドラムソロが短いのは残念至極!
しかしこれだけの演奏で幸せになれなかったら、それは贅沢かもしれませんね。
B-2 It's Allright With Me
そしてオーラスは、またまた楽しく痛快なスタンダード曲が選ばれる快挙です。ジャズバージョンではエラのボーカルやカーティス・フラーのハードバップ等々が代表するノリノリが「お約束」ゆえに、ここでのジミー・スミスも油断がなりません。徹頭徹尾に弾みきった楽しさは、奇妙なユーモアもあったりして……。まあ、本音を言えば、あまり黒っぽくないマーチテンポみたいなノリは、このアルバムの流れからして違和感があります。
しかしジミー・スミスのアドリブパートに入ってからの充実度は素晴らしく、あぁ、これが狙いだったのか!? と頷くより他はないのです。このシンプルなビートに乗ったアグレッシブなフレーズの心地良さ♪
ドナルド・ベイリーのブラシも実にシブイですから、ラストテーマがやってくる頃にはウキウキしている自分に気づくのでした。
ということで、1曲が8~10分超の長い演奏ばかりですが、飽きませんねぇ~♪ それは当時、本当に上り調子だったトリオの勢いがあるからでしょう。ちなみにこれは、ジミー・スミスにとっては初めての公式ライブ盤! 団子状でありながら、分離も良い録音とミックスが迫力のステージを再現してくれます。
大げさなアルバムタイトルにも納得!