■素顔のままで / Billy Joel (Columbia / CBSソニー)
なんだかんだ言っても、まだまだ1970年代の洋楽には素敵なメロディが溢れていましたし、もちろんそれは演じるミュージシャンの資質や素養といった基本的な部分と大きな関わりがあったのでしょう。
例えば本日ご紹介の「素顔のままで / Just The Way You Are」は説明不要、今となってはAORポップスのエバーグリーンであり、広く世界のスタンダード曲と認定されたビリー・ジョエル自作の大ヒットなんですが、これがなかなか一筋縄ではいきません。
ご存じのとおり、ビリー・ジョエルは決してデビュー時からスタア街道を驀進したミュージシャンではなく、既に幼少で身につけたクラシックピアノの腕前を活かした弾き語り歌手として、十代中頃から三流(?)クラブで生活費を稼ぐ必要に迫られていた赤貧の境遇だったそうですし、いろんなハコバンのトラをやっていた流れから、ハッスルというグループで正式にレコードデビュー出来た時の文字通りのハッスルぶりは想像に易いと思います。
もちろん結果的にLP2枚分ほどの音源からはヒットが出せず、リアルタイムでの売り上げは知る由もありませんが、ビリー・ジョエルが大スタアになって後の1980年代前半に堂々の再発となり、がめついヒット作になっていた記憶があります。
実はサイケおやじにしても、そんな下積み時代のビリー・ジョエルを聴いたのは、まさにその頃!
そしてモータウンやノーザンソウルを巧みに流用した曲&サウンド作りの妙には、種明かし的なルーツの開陳がなされたと思いましたですねぇ。
ただしサイケおやじが初めてビリー・ジョエルを意識したのは、1973年末頃から日本でも小ヒットした「Piano Man」からでしたので、明らかにエルトン・ジョンの影響下にある曲作りと歌とピアノのコラポレーションからは一線を画していたバンドスタイルのハッスルでの音源は、なにやら場末感が……。
ちなみにここまでの経緯としては、そのハッスルでのデビューが1968年で、その解散が1969年末頃、さらに新バンドとして驚くなかれのハードロックに染め抜かれたアッティラというグループを結成し、1970年頃にアルバム1枚を残した後、いよいよソロ歌手として再デビューしたのが1972年でしたから、しぶとい! と言われれば、そのとおりだと思います。
極言すれば、やっている事に一貫性が感じられず、なにか流行に流されている感があるんですよねぇ。それが世間一般からの評価でしょう。
ところがサイケおやじは後追いでそれらの音源に接するほどに、実は大ブレイクしたビリー・ジョエルの音楽性の秘密に突き当った気分になりました。
例えば、この1977年の発表の「素顔のままで / Just The Way You Are」は、歌物スタンダードの「You Are Too Beautiful」からメロディのキモばかりか、歌詞の要点までも借用していると思いませんか?
これぞ、見事な温故知新であり、ヒット曲製造の上手さの証明でもあり、はたまた下積み時代にクラブの酔客やアベック相手にスタンダードな恋の歌を演じていたビリー・ジョエルが刷り込まれた世界観なのでしょうか?
まあ、とにかく、これほど良く出来たダメ男向けの胸キュンポップスというか、男の女々しさをウリにした歌も珍しいほどかと思いますし、当然ながら、サイケおやじは大好きです♪♪~♪
今となっては周知の事実となった、元ネタよりも良い曲を作るのがプロのソングライターという不文律こそ、ビリー・ジョエルには相応しく、それでいて見事な独創性を発揮していた全盛期の魅力は、この「素顔のままで / Just The Way You Are」に極まっていると思うのでした。
あっ、最後に一言!
女の気持は変わって当然なのかなぁ~。まさに諸行無常ですねぇ。