今日は台風! 流石に風が強かったですね。被災された皆様には心からお見舞い申し上げます。
明日は台風一過となりますように期待しています。
ということで、本日は――
■Coleman Hawkins With The Red Garland Trio (Swingville)
ジャズは今も昔もマイナーな存在……。それはモダンジャズ全盛期でさえも同様でしたから、歴史的な重要作品の多くは所謂インディーズで作られていました。
その中の代表的なレーベルが「ブルーノート」と「プレスティッジ」であることは、ご存知とおりです。前者は常に前向きな姿勢がウリであり、後者はちょっと弛めな製作方針で大衆的な作品を作っていた印象があります。
まあ、どちらが優れているか、なんて事は問題外でしょう。しかし「プレスティッジ」の魅力のひとつは、傍系レーベルを幾つも同時運営しつつ、単にジャズに留まらない黒人音楽の幅広い伝統を記録したことかもしれません。
つまりグッと濃い目のダシが美味しい「ブルーノート」に対し、様々な旨味がブレンドされた「プレスティッジ」という感じでしょうか、これは、あくまでも私見です。
さて、本日の1枚は、そんなプレスティッジの傍系レーベルのひとつである「スイングヴィル」から、最初に発売されたアルバムです。ちなみにこのレーベルは名前が示すとおり、モダンスイングとか中間派と称される演奏スタイルで、当時は既にベテランの域に入っていたミュージシャンを録音していましたが、そこは同時期にやはり傍系レーベルでフリーやモードといった最先端を記録していた「プレスティッジ」のディープな体質がありますから、単なる懐古趣味になっていません。
録音は1959年8月12日、メンバーはコールマン・ホーキンス(ts)、レッド・ガーランド(p)、ダグ・ワトキンス(b)、スペックス・ライト(ds) いう、なかなか魅力的なワンホーンセッションが企画されたのです――
A-1 It's A Blue World
いきなりガンガン入ってくるレッド・ガーランド・トリオによるイントロが、まず最高です。これにノセられたところで始るコールマン・ホーキンスの悠々自適なテーマ吹奏も、ジャズの楽しさに満ち溢れています。
アドリブパートでは、グイノリのコールマン・ホーキンスが強烈に素晴らしく、伴奏のトリオではダグ・ワトキンスが定評のあるウォーキングベースでヘヴィなグルーヴを作り出してきます。
また小気味良くスイングするスペックス・ライトのドラムスは、確実にジャズ者の琴線に触れますし、レッド・ガーランドの歌心とスイング感の妙技は、毎度お馴染みという「お約束」の連続♪
ちなみに素材となった原曲は映画音楽らしいのですが、このバージョンあたりは代表的な演奏でしょう。終盤のドラムスとの掛け合いは言葉を失うほどに楽しいです。ただしダグ・ワトキンスのアルコ弾きは、ご愛嬌ということで……。
A-2 I Want To Be Loved
これも古いスタンダードですから、コールマン・ホーキンスがスローテンポでベテランの至芸をたっぷりと聞かせてくれます。もちろんそれは、ジャズの世界にテナーサックスの領域を確定させた偉人ならではの凄みですが、同時にサブトーンとタフなグルーヴを両立させた和みが素敵です。
そしてレッド・ガーランドが、ソフトな黒っぽさを全開させた大名演♪ コロコロと転がるスイング感に加えて独特のタメとモタレ、さらに極みつきのブロックコード弾きとくれば、もうこの世はジャズの天国です。
終盤からラストテーマの吹奏を盛り上げていくコールマン・ホーキンスも素晴らしすぎます!
A-3 Red Beans
タイトルどおり、コールマン・ホーキンスのニックネームからヒネリ出したレッド・ガーランドの即興ブルース! まず完全ハードバップのリズム隊によるイントロからのアドリブパートが強烈です。ちなみにジャケット裏の解説によれば、このリズム隊は当時のレギュラーだったらしく、すると絶妙な息の合い方も納得の凄さというわけです。あぁ、ジャズが好きで良かったという瞬間が、何度も訪れます♪
そしてこれには流石のコールマン・ホーキンスもニンマリだったのでしょう、実に楽しそうにアドリブに入ってから後は、グイグイと突進し、力みと粘りの持ち味を完全披露していくのでした。
ただしラストテーマ直前、そのアドリブがブツ切れに編集疑惑があるのは???
B-1 Bean's Blues
さてB面に入っては、コールマン・ホーキンズが一人舞台でスタートさせるスローブルースの世界です。作曲はもちろん本人ですが、これはまあ、好き放題に吹きまくって作り上げた世界観を楽しむのが王道でしょう。サブトーンを駆使したテナーサックスの魅力がたっぷりです♪
もちろんコールマン・ホーキンスはビバップ以前のプレイヤーですから、そのビートに対するノリには若干古臭い部分もあって、ここでもそれが滲み出る瞬間があるのですが、そこはグルーヴィなリズム隊の頑張りで帳消しです。ダグ・ワトキンスの黒~いベースワーク、途中でブラシからステックに持ち替え、シンバルでビートを強調していくスペックス・ライトの素晴らしいドラミング、さらに物分りの良いレッド・ガーランド!
全篇、12分近い演奏ですが、全く飽きさせないのは見事だと思います。これが「底力」ってやつでしょうねぇ~。
B-2 Blues For Ron
オーラスはダグ・ワトキンス作曲による、これもブルースなんですが、かなりファンキーなテーマの雰囲気から軽快なスイング感に移っていくあたりのノリが、たまりません。
まずレッド・ガーランドが十八番のアドリブ♪ これはもう、「お約束」の連続ですから、分かっちゃいるけど止められない状態で、和みます♪
そしてコールマン・ホーキンスは全く自分のスタイルを崩すことなく吹きまくりなんですが、違和感が無いのはリズム隊の柔軟な姿勢があればこそなんでしょうか? こういう雰囲気はジャズ本来の汎用性が存分に出た瞬間かもしれません。
ということで、実に楽しいアルバムです。
繰り返しますが、主役のコールマン・ホーキンスはビバップ以前の、どちらかといえば前ノリのスタイルですから、モダンジャスのオフビートには馴染まない先入観もあるでしょう。しかしコールマン・ホーキンスという人は、誰よりも早くビバップに挑戦したベテランという歴史的記録もありますし、こういうモダンジャズ系の演奏の他にもボサノバとか擬似ジャズロック、ソウルジャズ風のレコーディングも残している、真の巨匠です。
ただし、何時の場合も全く自己のスタイルを貫き通すために、些かミスマッチな部分も……。
それがここではレッド・ガーランドいう、物分りが良い共演者を得たことで、何時もの攻めの姿勢が良い方向に作用した名演集となりました。これは製作側の勝利かもしれません。
ちなみにオリジナルアナログ盤は、何故かプレス状態がイマイチなブツが多いようです。少なくとも私が入手した2枚は、中古という所為もありましょうが、針飛びキズとプレスミス……。
ですから現在、聴いているのは我国で復刻された紙ジャケット仕様のCDです。ステレオバージョンですが、なかなか重厚なリマスターが感度良好なのでした。
う~ん、ますますオリジナル盤が欲しいです。