台風が去ったのに、全く暑さが収まりませんねぇ……。
そんな蒸し暑さの中、先輩の法事に行ってきました。
そこで本日の1枚は、思い出の……。
■Tenorman / The Lawrence Marable Ouartet featuring James Clay (Jazz West)
物を集めるという行為に罪作りな事態は多いですが、レコード蒐集も例外ではありません。
資金の捻出、無理解な周囲からの重圧、オークションでの鬩ぎあい等々、時には家庭争議に発展したり、友情にヒビが入ったり、はたまた人望を無くしたり……。
しかしそれでも止められないのが、この道の恐いところです。
さて、このアルバムは幻の名盤の中でも、特にウルトラ級の1枚! まず製作したのが西海岸の超マイナーレーベルでありながら、中身はバリバリのハードバップ! しかもソニー・クラークが参加しているという優れもの♪
ですから、その廃盤価格は青天井のいう時期もあったほどです。当然、私のような者には手にすることは不可能と思われたのですが……。
冒頭に述べた先輩が急逝し、葬儀を終えた後の席で、遺族から形見分けの話が出ました。そして先輩の膨大な蔵書の中から何かひとつという事になったのですが、そこには先輩が祖父の代から受け継いでいた稀覯本がどっさり♪ もちろん古書業者が狙っているものばかりでしたから、一同は神妙な顔をしつつも内心はウキウキ状態でした。
当然、私もそのひとりとして書棚を探索していた時、ふっと目に入ったのが、20枚ほどのLPレコードの束でした。なんとビニール紐で括られて机の横に立てかけてあったのですが、その中に本日の1枚があったというわけです♪
いゃ~あ、信じられないというか、夢を見ているような気分でしたねぇ~。もちろん合掌しながら、ありがたく頂戴してきましたが、それにしても音楽なんか全く趣味でなかった先輩が、どうしてこれほどの幻盤を所有していたのか、今もって謎であります。
録音は1956年8月、メンバーはジェームス・クレイ(ts)、ソニー・クラーク(p)、ジミー・ボンド(b)、ローレンス・マラブル(ds) という黒人4人組です――
A-1 The Devil And The Deep Blue Sea
存在感のあるシンバルからスタートするスタンダード曲で、正統派ハードバップのお手本のような演奏になっています。
ジェームス・クレイのテナーサックスは、如何にも黒人らしいノリと音色が素晴らしく、全体の雰囲気は初期のソニー・ロリンズを感じますし、ソニー・クラークは何時もの「ソニクラ節」が既に全開♪
重厚な4ビートを聞かせるジミー・ボンドのウォーキングベースも最高です。
A-2 Easy Livig
お馴染みの和み系スタンダード曲が、定石どおりにミディアムスローで演奏される、たったそれだけで大満足の名演です。
けっして派手さはありません。堅実にテーマを吹奏し、あくまでも生硬なアドリブに撤するジェームス・クレイには、ある種の男気を感じます。また、対照的に華麗なピアノスタイルを披露するソニー・クラークも良い感じですねぇ~♪
A-3 Minor Meeting
これはもう、ハードバップ愛好者には説明不要というソニー・クラークの名曲オリジナルですから、たまりません。
ここでもラテンリズムが入ったお馴染みの名調子から、テーマメロディを巧みに変奏してアドリブに突入するジェームス・クレイが大熱演! いゃ~あ、実に素晴らしいです!
もちろんソニー・クラークも筆舌に尽くし難い名演です。ヘヴィなベースのウォーキングと大技・小技を出しまくるドラムスの伴奏も完全無欠でしょう。
歌心と熱気、黒いジャズ魂がこれほど楽しめる演奏は稀だと思います。もしかしたら、この名曲の決定的なバージョンじゃないでしょうか?
A-4 Airtight
これまた強烈にドライヴしまくったハードバップの名演です!
テーマ部分のリズム的なキメとか全体の勢いは、とても西海岸で作られた演奏とは思えません。ジェームス・クレイはどこまでも強烈なツッコミを聞かせてくれますし、伴奏のリズム隊は手加減無しの凄みに溢れています。
もちろんソニー・クラークにはグッと惹きつけられますが、ローレンス・マラブルが全篇で気迫のドラミング!
B-1 Willow Weep For Me
これもお馴染みの有名スタンダードで、その黒っぽい雰囲気がハードバップにはジャストミートの素材なんですが、ここでは意表を突かれたというか、アップテンポのグルーヴィな演奏に仕立てられ意います。
あぁ、調子良すぎるリズム隊とジェームス・クレイの流麗で黒いテナーサックスが、本当に快適です。
ところがソニー・クラークのアドリブパートになると、粘っこいフィーリングかバンド全体に広がって、なんとなくテンポが落ちたような雰囲気が、実にファンキーなんですねぇ。う~ん、最高!
B-2 Three Fingers North
これまたソニー・クラークのオリジナル曲で、強烈なアップテンポの演奏が楽しめます。おぉ、ジェームス・クレイがソニー・ロリンズになる瞬間が! まあ、このあたりは正統派黒人テナーサックスの真髄かもしれません。
またソニー・クラークが絶好調! 中盤ではドラムスとグルになってリズム的なキメを披露し、そこからローレンス・マラブルのドラムソロに繋げるあたりは、ちょっと破綻気味のグルーヴが結果オーライのスリルになっています。
B-3 Lover Man
これも説明不要の人気スタンダード曲ですねっ。
歴史的にはチャーリー・パーカー(as) の問題レコーディングがありますから、サックス奏者には必須演目であり、また危険領域なんですが、ジェームス・クレイの堂々とした吹奏は大らかで好感が持てます。実力派の面目躍如でしょうが、この時は若干二十歳だったと言われています。正統派の黒っぽさが、なんとも魅力ですねぇ♪
B-4 Marbles
オーラスもソニー・クラークのオリジナルで、最高にカッコイイ、ファンキーな名曲・名演です。あぁ、このミディアムテンポのグルーヴィな雰囲気は、ブルーノート顔負けの素晴らしさ♪
ジェームス・クレイのテナーサックスも真っ黒に粘っこく、ソニー・クラークの独特のタメが魅力のピアノスタイルは、強烈なスイング感を呼び起こします。またジミー・ボンドの重厚なベースとメリハリの効いたローレンス・マラブルのドラムスにもグッときますねぇ~~♪
ということで、本当に素晴らしいハードバップ演奏が楽しめる1枚です。ただし、あまりにも直球勝負の正統派なので、天邪鬼なファンからは敬遠されているという噂もありますが……。
リーダーを務めたローレンス・マラブルは西海岸を中心に活動していましたが、同時代の同地区で脚光を浴びていたシェリー・マンやスタン・レヴィあたりとは、明らかに違うタイプでしょう。それは「縁の下の力持ち」というか、決して目立つ人ではなく、的確なサポートが評価された職人ドラマーという感じです。
ちなみにドラマーがリーダーとなったセッションは、参加メンバーによって演奏の評価が決まってしまう傾向にありますが、このアルバムあたりは、まさにそれかもしれません。ジャケ写からも推察出来るように、肝心のローレンス・マラブルがボケていながら、ジェームス・クレイが大きく写っているのですから、誰が主役の作品なのかは、言わずもがなでしょう。アルバムタイトルは、もっとズバリです。
もしかするとローレンス・マラブルはサブプロデューサー的な立場にあって、このレーベルに関わっていたのでしょうか? しかし単なる名義貸し以上の堅実な演奏は、バンド全体をグイグイとノセていて立派です。
幻の名盤とされたブツが再発され、「幻」のベールを剥がされて権威が失墜した事例は少なくありませんが、これはそうなって、ますます人気の名盤じゃないでしょうか。CD化もされているようですから、機会があれば、ぜひとも聴いていただきたいと思います。