OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

忘れちゃいけないジミー・ヒース

2008-10-04 11:53:37 | Jazz

Picture Of Heath / Jimmy Heath (Xandu)


ジミー・ヒースは所謂「実力者」という感じでしょうか、テナーサックス奏者としては黒人らしいハードな音色と重厚なフレーズのコンビネーションが流石ですし、なによりも秀でた作曲能力でモダンジャズのカッコ良さを表現していたと思います。

しかしそのキャリアには空白期間が多く、それは残念ながら悪いクスリによるものです。特にハードバップの全盛期だった1950年代後半を塀の中で過ごしたことは痛恨の極みでしょう。

そして社会復帰した1960年頃からはリーダーアルバムを吹き込み、作編曲の仕事もやっていますが、時代はモードやフリーの大嵐! さらにポップスやロックが大衆音楽の主流となった業界の勢いもあって、どうしても一流のプレイヤーとしては認められない感じが……。

実際、その頃の録音では数枚残されたリーダーアルバムが忽ち廃盤で入手困難度が異常に高く、また助演として参加したレコーディングも妙にシャリコマな作品が多く……。

ですから、ジミー・ヒースという名前はパーシー&アルバートを兄弟に持つヒース・ブラザースの一員というのが、一番有名かもしれません。

しかしそんな不遇な人物が書き残した名曲はジャズファンの心をとらえて離さないメロディが多く、例えばチェット・ベイカー&アート・ペッパーの「For Minors Only」、リー・モーガンの「CTA」、ドン・スリートの「All Members」あたりは氷山の一角でしょう。

さて、このアルバムは地味なジミー・ヒースがというダジャレみたいな書き方はご容赦いただいて、1970年代のハードバップリバイバル期に吹き込んだワンホーン盤♪ 録音は1975年9月22日とされていますが、これには異説もあるようです。しかしメンバーはジミー・ヒース(ts,ss) 以下、バリー・ハリス(p)、サム・ジョーンズ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という魅惑の面々で、もちろんジミー・ヒースの代表曲が選びぬかれて演奏されています――

A-1 For Minors Only
 ラテンビートを上手く使った哀愁のテーマメロディの楽しさと胸キュン感♪ そしてタイトな4ビートで展開されるハードなアドリブソロという、まさにハードバップ王道の1970年代的な楽しみが存分に味わえます。
 ジミー・ヒースのテナーサックスは硬質な音色とグイノリのビバップフレーズ、さらにリアルタイムでは流行りはじめていたフラジオ奏法による高音域のキメとか、とにかく温故知新の魅力です。
 またリズム隊の安定感も抜群で、シャープなシンバルワークが最高のビリー・ヒギンズ、素晴らしいアドリブソロを聞かせてくれるバリー・ハリス、そして唯我独尊の4ビートウォーキングというサム・ジョーンズ!
 メンバー間の腹の探り合いも微笑ましく、本当にグッと惹き込まれますよ。

A-2 Body And Soul
 ジャズ史的にはコールマン・ホーキンス(ts) の決定的な名演がありますので、サックス奏者には避けて通れないスタンダード曲ですが、なんとジミー・ヒースはソプラノサックスで些か屈折した表現!
 もちろん独自の歌心はあるんでしょうが、う~ん……。
 と思っているとバリー・ハリスの口直し的なピアノが聞こえてきて、おぉっ、ついにジミー・ヒースがテナーサックスで面目躍如のアドリブを聞かせてくれるんですねぇ~♪
 あぁ、こういう目論見だったのかっ!?
 とネタばれを書いてしまいましたが、この正統派ハードバップの後半こそが実に素晴らしいということで、ご容赦願います。ちょっと短いのが残念なほどに、最後の無伴奏ソロも素敵ですよ。

A-3 Picture Of Heath
 起伏があってモードっぽい味わいもあるジミー・ヒースの隠れ名曲♪ もちろんアドリブパートでもハードバップの王道を邁進する展開が潔く、目隠しテストでは、ちょいとデクスター・ゴードンと間違いそうですが、ここでもフラジオ奏法で新しいところを聞かせるという意気込みも鮮やかです。
 リズム隊も好調で、我が道を行くバリー・ハリスやビリー・ヒギンズのシンバルワークの楽しさも、やっぱり王道だと思います。

B-1 Bruh slim
 ラテンビートと4ビートの交錯を上手く使った隠れ名曲なんですが、ちょっと凝りすぎのテーマメロディは好き嫌いがあるでしょう。
 しかしこれはアドリブパートの充実やスリルを優先させた結果かもしれません。実際、ジミー・ヒースのアドリブには必死さが感じられ、リズム隊からも緊張感が滲み出ています。
 このアルバムの中では一番長い演奏ですが、それが進むうちにバンド全員の意思統一が図られていくという、まさに即興演奏が主目的なジャズの楽しみが味わえるのではないでしょうか?
 個人的には音程が危なくなりそうなサム・ジョーンズの頑張りに拍手です。

B-2 All Members
 トランペットの隠れた人気者=ドン・スリートのリバーサイド盤のタイトル曲ですから、そこに参加していてジミー・ヒースがここでも大ハッスル♪ と言うよりもソプラノサックスで実に素敵な個性を聞かせてくれます。
 またバリー・ハリスの正統派ビバップフレーズも好ましく、軽快なビリー・ヒギンズと落ち着いたサム・ジョーンズのコントラストも安心印です。

B-3 CTA
 リー・モーガンやミルト・ジャクソンの名演が名高いという、ジミー・ヒースでは一番有名な痛快オリジナル曲ですが、おそらく作者にとっては、これが公式リーダーセッションの初演かもしれません。
 その所為か否か、ちょっと意識過剰なところも散見され、まずバリー・ハリスが何故かセロニアス・モンクみたいなイントロを弾き、ジミー・ヒース自身もギクシャクしたアドリブを演じてしまいます。
 このあたりはジミー・ヒースの特徴のひとつである、ちょっとプレスティッジ期のジョン・コルトレーンにようなところの表れかもしれませんが、実際、この2人は駆け出し時代にいっしょに練習していたとか!?
 それゆえ個人的には、あまり気に入ったトラックではないのですが、リズム隊の充実ゆえに最後まで聞いてしまうというか……。

ということで、決して名盤ではありませんし、もちろん人気盤になったという話も聴きません。しかしフリーの混濁やフュージョンの嵐を通り抜けて生き続けんとするバードバップなジャズ魂は、このアルバムに明確に刻まれていると感じます。

ちなみに発売されたのは1975年頃で、右にピアノ、真中にベース、そして左にドラムスが定位した、如何にも当時らしいステレオミックスには安心感がありますし、何よりもジミー・ヒースのテナーサックがハードエッジに録られた魅力盤として、忘れ難い1枚です。

CD化されているかは未知ですが、機会があればジャズ喫茶でA面を聴いて下さいませ。ハードバップ好きの皆様ならば、ド頭の「For Minors Only」で間違いなく魅了されると思います。

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