OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

エディ・コスタの青い灯の家

2008-10-05 12:15:23 | Jazz

The House Of Blue Lights / Eddie Costa (Dot)

個性派が多いジャズピアニストの中でも、ひときわ印象的な低音打楽器奏法で人気なのがエディ・コスタという白人ピアニストです。

その活動では名ギタリストのタル・ファーロゥと組んだバンドが一番有名でしょう。実際、凄い名盤を何枚も残していますし、恐ろしいばかりにエキセントリックなピアノの響きと蠢き、そして痛快なタッチと硬質なアドリブの妙は、何時までも心に残ります。

しかしそのジャズ人生は31歳で交通事故のために終ってしまい……。それも決して本人が望んだような仕事は出来なかったようです。なにしろ残された録音はヴァイブラフォンでの演奏が多く、それもスタジオワークが中心でした。

確かにエディ・コスタはヴァイブラフォンでも、その音楽的に優れたセンスは発揮していましたが、やはりジャズ者の本音は独創的にエグイ魅力のピアノに惹かれるのではないでしょうか。

さて、このアルバムは、そんなエディ・コスタの強烈なピアノスタイルが堪能出来る作品です。しかし決して、一般的なピアノトリオ盤にあるような和みを求めてはなりません。恐ろしいばかりの緊張感の中に、突如として浮かびあがるホッとする瞬間! それがここに収録された全6曲の結論だと思いますが、それがクセになる魔力なんですねぇ~♪

録音は1959年1月29日&2月2日、メンバーはエディ・コスタ(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、ポール・モチアン(ds) という、これは当時のレギュラートリオだったと言われているのですが――

A-1 The House Of Blue Lights
 いきなり重低音域のピアノが蠢き、どんよりとしたメロディを弾いていくエディ・コスタ! ネクラでハードなピアノタッチが定型的なペースウォーキングと呼応するようにスイングし、その隙間を埋めていくような地味なドラムス……。
 あぁ、これが1959年の演奏でしょうか!?
 何時聴いても、全く新鮮さを失っていないどころか、実に衝撃的です。
 もちろんアドリブパートの山場は、炸裂するピアノの恐ろしい低音打楽器奏法! そこにぶっつけてくるカウンターメロディが中高音で弾かれてるという、通常とは逆もまた真なりという展開が温故知新です。これぞ、エディ・コスタ!
 しかも決してグイノリでなく、勿体ぶった「間」の取り方や思わせぶりなメロディのフェイク、さらに媚びないアドリブ展開という中に、一瞬だけ浮かんでは儚く消えていく美メロのフレーズ♪ 実に辛抱たまらん状態が、なんと10分近く続くのですから、快感♪♪~♪
 ただし告白すると、最初にこれを聴いた私は全く魅力が理解出来ず、??? 場所が暗いジャズ喫茶だったこともあり、これってセシル・テイラーかダラー・ブランド? なんて思ったほどです。
 つまり後年のピアニストにも大きな影響を与えたのは明白で、例えば我が国の大西順子は、モロですよねっ♪

A-2 My Funny Valentien
 これは良く知られたメロディのスタンダード曲ですから、エディ・コスタのエグイばかりのフェイクと思惑がタネ明かし的に楽しめる演奏です。
 もちろん最初はソロピアノで原曲メロディを意地悪く弄び、しかし美しいフレーズや緊張と緩和の妙を聞かせてくれるんですねぇ~♪ 絶妙のスイング感と強靭なピアノタッチを基本とした低音域の蠢きも衝撃的に楽しめます。
 そしてドラムスとベースを呼び込んでからは、危険と和みの裏表っぽいフレーズとアドリブ構成が、ハッとするほど良い感じ! こんな演奏が出来るピアニストって、今も居ないんじゃないでしょうか? エディ・コスタ、最高!

A-3 Diane
 一転してグイグイとスイングしていく痛快な演奏ですが、決して通常の、所謂グルーヴィな4ビートというわけではなく、クールで突き放したようなノリが痛快です。
 もちろんエディ・コスタのピアノは快適にスイングしていく部分と緊張が強いブレイク、トリオとしての一体感も抜群で、その中に強烈な低音域奏法を混ぜ込むという仕掛けが、本当にたまりません♪
 このアルバムの中では一番分かり易い演奏かもしれませんが、普通っぽさなど微塵もなく、それでいてジャズ者の心を掴んで放さない何かが、確かにあると思います。

B-1 Annabelle
 B面に入っては一瞬、楽しいスイングのハードバップを聞かせながら、演奏が進んでいくうちに怖いものがジワジワと広がっていくという、ロマンポルノで言えば小沼勝監督作品のようなヌメヌメした魅力が楽しめます。
 分かり易さの中に禁断の表現を入れた、ある種のサブリミナル効果というような感じでしょうか。しかし、やっぱりこれは痛快至極な演奏で、A面を聴くよりもB面から楽しんだほうがアルバム全体に親しめるような本音が、ここに集約されていると感じます。

B-2 When I Fall In Love
 これも良く知られたスタンダード曲を意地悪く解釈した名演です。その遣り口は些か陰湿というか、A面に入っている「My Funny Valentien」と同じような展開ながら、美しい原曲メロディを自分の都合で作り変えていくのですから、これはエディ・コスタのセンスが如何に素晴らしいかの証明かもしれません。
 う~ん、このイヤミ寸前り勿体ぶった雰囲気の良さ! 明らかに賛否両論でしょうけど、私は中毒症状に陥っています。

B-3 What's To Ya
 オーラスはゴスペル味も滲むエディ・コスタのオリジナル曲で、ここでも思わせぶりな出だしから刺激的なピアノの蠢きとトリオ3者のテンションの高さが圧巻です。
 クールな4ビートで突っ走る無機質なスイング感と強引なアドリブフレーズ、敲きつけるように蠢くピアノタッチの魅力、一瞬の隙をついて飛び出すノリの良いメロディフェイク♪
 怖さと楽しさが同居した、これも激ヤバの演奏でしょうね。

ということで、鑑賞には気合と根性が必要なアルバムかもしれませんが、痛快にして中毒性のある仕上がりは保証付きです。極言すれば、エディ・コスタはこのアルバムを残したがゆえに不滅の存在になったと、私は不遜にも思い込んでいるほどです。

ちなみに演奏のステレオミックスは左にベース、右にドラムス、そしてピアノが左から右へ高音域と低音域が自然に広がっている定位ですから、エディ・コスタの特徴的な低音打楽器奏法と高音域のカウンターメロディの魅力が存分に楽しめます。

たまには、こんな緊張と緩和の名盤(?)を聴くのも、秋の喜びのひとつじゃないでしょうか。それにしても青い灯の家って?

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