■The Artistry Of Freddie Hubbard (Impulse!)
昨日の続きというか、本日もスカッとしたアルバムを出してしまいました。
主役のフレディ・ハバードは説明不要の名トランペッターですが、その活躍が華々しすぎて、時には顰蹙という媚びた演奏もしてしまうのが賛否両論でしょう。特に我が国のジャズ喫茶では、そうした節操の無さが取りざたされることも度々でした。
しかしハードバップを起点として新主流派の最前線に飛び出した1960年前後から、ジャズメッセンジャーズの花形として活動していた時期の諸作は、間違い無くピュアなジャズ魂に溢れた名作が多く、このアルバムのその1枚!
録音は1962年7月2日、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、カーティス・フラー(tb)、ジョン・ギルモア(ts)、トミー・フラナガン(p)、アート・デイビス(b)、ルイス・ヘイズ(ds) という颯爽としたセクステットです。
A-1 Caravan
デューク・エリントン楽団の、と言うよりも、私の世代ではエレキインストのべンチャーズが十八番の名曲ですから、そのギンギンのイメージがない演奏バージョンは受け入れられないんですが、これは立派な合格点!
ルイス・ヘイズの溌剌したシンバルワークからメカニカルなキメが入ったテーマの合奏が出ただけで、ドキマギするほどのカッコ良さにシビレます。
もちろんアドリブパートも痛快で、フレディ・ハバードがメリハリの効いた音使いと絶妙のコントロールでブッ飛ばせば、カーティス・フラーは悠々自適のスライドワークで応戦しています。さらに煮詰まり寸前の熱い存在感を聞かせるジョン・ギルモアも大健闘でしょう。
そしてトミー・フラナガンのスインギーで抑制されたピアノ、重量感満点のアート・デイビス、また大ハッスルのルイス・ヘイズのドラムスというリズム隊も流石ですねっ♪ とにかくスピード感が楽しくも痛快な仕上がりです。
A-2 Bob's Place
これまたシャープなアンサンブルとカッコ良いテーマリフが初っ端から冴えまくったハードバップの真髄です。その基本はブルースながら、メロディに潜む絶妙のマイナー感覚がシブイですねぇ。ちなみに作曲はフレディ・ハバードということで、アドリブ先発もキラキラに輝いています。
しかし続くジョン・ギルモアが煮え切りません。ただしリズム隊が全く容赦無い、実に強烈な煽りですから、結果オーライでしょう。こういう混濁も、実はこのアルバムの魅力のひとつだと思います。ルイス・ヘイズ最高!
そしてハスキーな音色でシンプルにキメまくりというカーティス・フラーのトロンボーンが、良い味出しまくりです。続くトミー・フラナガンも十八番の「トミフラ節」ばっかりですよっ♪♪~♪
アート・デイビスのアルコ弾きのアドリブも、ほどよい過激さですし、終盤には「お約束」というトランペット対ドラムスの直接対決も大興奮という素晴らしさなのでした。
A-3 Happy Time
フレディ・ハバードが書いた躍動感溢れる隠れ名曲ゆえに、最近の若手ジャズメンもカバーすることが多いようですが、これはそのオリジナルバージョンです。ノビノビと吹きまくるフレディ・ハバードが実に良い感じですねっ♪♪~♪ 当たり前すぎるほどに素直なんですよ。
ジョン・ギルモアもギクシャクしながら自分に忠実のようですし、カーティス・フラーの快調さは言わずもがなでしょう。そしてトミー・フラナガンのソフトなタッチの心地良さ♪ 歌心とは、こういうフレーズの連発を指すのかもしれません。
さらにラストテーマへと繋がるキメの合奏の潔さ、そのカッコ良さは、まさに当時のフレディ・ハバードならではだと思います。
B-1 Summertime
ジャズだけでも数多の名演バージョンが残されているガーシュインの名曲メロディを、フレディ・ハバードはモード系ワルツビートでやってくれます。素直なアレンジもさることながら、ルイス・ヘイズのドラミングが、まずは快適♪♪♪
ですから、そよ風の中で吹いているようなカーティス・フラーのノンビリムードも憎めませんし、そのホンワカ―ムードがジョン・ギルモアの暗中模索でギトギトに変質していく、云わば集中鑑賞のジャズ喫茶的な快楽も狙いどおりなのでしょうか……。
その意味でトミー・フラナガンを助っ人に選んだのは大正解で、ここでの雰囲気を壊さないプレイは全く流石です。続くフレディ・ハバードも、アドリブというよりはテーマメロディの変奏主体でラストまで持っていくという、些か物足りない姿勢も、最後には納得させられてしまうと……。
B-2 The 7th Day
なんだかユダヤ教推薦みたいなタイトルですが、これまたワルツビートのモード演奏で、作曲はフレディ・ハバードとなっています。しかし、どっかで聞いたことがあるような……。
まあ、それはそれとして、これはなかなかの力演で、重厚なテーマアンサンブルではルイス・ヘイズが良い仕事! それに続くトミー・フラナガンのピアノも味わい深いアドリブを聞かせてくれますが、個人的には好きではない中近東系のメロディやスケールを使いながら、イヤミの無いものに仕上げているのは流石だと思います。
そしてフレディ・ハバードが情熱的な心情吐露! その熱き心を受け継ぐカーティス・フラーも、思わずこみあげてくるようなアドリブ構成が素晴らしく、このあたりは完全にジャズメッセンジャーズも顔色無しの名演でしょう。続くジョン・ギルモアがウェイン・ショーターになっているのも、ムベなるかなです。
また伴奏の要所で意図的にアルコ弾きを使うアート・デイビスも用意周到でしょうね。
ということで、溌剌として颯爽としたA面、思索的に重厚なB面というプロデュースも上手い名盤だと思います。
ちなみに録音セッションが行われた時期は、既にしてフレディ・ハバードもカーティス・フラーも3管編成のジャズメッセンジャーズで活躍していたわけですが、そこでの連日の演奏をフレディ・ハバードの流儀で表現したのが、このアルバムかもしれません。その、ちょっと面映ゆいような若気の至りが、憎めないんですよねぇ~~♪
ダークなアルバムカパーの雰囲気も、暗いジャズ喫茶では尚更に味わい深い印象でした。
奇しくも、この文章を掲載した翌日に逝去されたようです。享年、70歳……。ここ数年は病のために活動も冴えませんでしたが、衷心よりお悔やみ申し上げます。
Freddie Lives!