今日も仕事でスジが通らないことがありました。
何、考えてんだ! タテヨコの連絡もいい加減なら、自分らだけ分かって仕事したって、無駄ってことが分からんのか!
と思わず激怒爆発になりそうでしたよ。
でも、クールにならないとね……。そこで、これを聴いてみました――
■Modern Sounds / Shorty Rogers & Gerry Mulligan (Capitol)
タイトルからして、西海岸派の人気者2人が共演していると誤解を招くアルバムですが、実は各々のリーダーセッションから作られた10インチ盤をカップリングしたブツです。
そしてこれがあるからこそ、例の「クールの誕生 / マイルス・デイビス(Capitol)」が歴史的な名盤になっていると、私は思います。
つまりこのアルバムに収められたセッションは、そのマイルス・デイビスが想起して1948年に行ったライブセッション、そしてキャピトルと契約して行ったスタジオ録音から影響を受けた音楽性が、白人主導によるジャズとして花開いた瞬間を収めているからです。
もちろん前述のマイルス・デイビスのセッションは、大衆的人気を得られないビバップから一歩進んだ音楽性を求めたもので、その大切な部分はマイルス・デイビスではなく、ギル・エバンス、ジョン・ルイス、ジェリー・マリガンといった有能なアレンジャーの存在でした。
それはビバップのブッ飛んだ黒人感覚よりも、柔らかなハーモニーと白人らしい知性を優先させたオブラートジャズと、私が勝手に命名している様式美の追求でした。
で、そういう音楽性は、当時の白人ビックバンドあたりと共通する旨味があったりしますから、その現場で活動していたミュージシャン、例えば、このアルバムの一方の主役であるショーティ・ロジャースあたりは、思わぬ金脈を発見した気分だったと思われます。
さて、このアルバムのA面に収められたショーティ・ロジャースのセッションは、オリジナル10インチ盤「モダンサウンズ(Capitol H294)」として発売されていたもので、録音は1951年10月8日、メンバーはショーティ・ロジャース(tp,arr)、ジョー・グラス(frh)、ジーン・イングランド(tb)、アート・ペッパー(as)、ジミー・ジェフリー(ts,arr)、ハンプトン・ホース(p)、ドン・バグレイ(b)、シェリー・マン(ds) という錚々たる面々! 演目は以下のとおりです――
A-1 Four Mothers
A-2 Didi
A-3 Sam And The Lady
A-4 Popo
A-5 Over The Rainbow
A-6 Apropos
まず初っ端の「Four Mothers」が最高です♪ アップテンポで渦巻くように快適なテーマ、それを煽るビートの強いリズム隊、そして飛び出すショーティ・ロジャースのアドリブの背後を彩る千変万化のハーモニー! ちなみにこの曲だけがジミー・ジェフリーの編曲というのも、味わい深いところです。そしてもちろんアート・ペッパーが奇跡の名演ですよっ♪
その名人芸は A-2「Didi」、A-3「Sam And The Lady」そして A-4「Popo」や A-5「Over The Rainbow」でも最高度に発揮され、全くアート・ペッパー目当てで聴いても満足してしまうセッションです♪ 特に A-5「Over The Rainbow」はペッパー自身にしても絶対という永遠不滅の大名演でしょう。録音の按配から何時も以上に太くて、しかも泣きが染み入る音色、ペッパー節が存分に味わえるのです。
肝心のショーティ・ロジャースは、明朗快活な音色とアドリブで、もちろん快演ですが、ダークに内向的な味を持つアート・ペッパーとの対比も鮮やかなアレンジが、流石です。
それと白人主体のバンドにあって黒人のハンプトン・ホースがキモとなったリズム隊のグルーヴィなノリも、素晴らしいですねぇ。間違いなく、このセッションの成功は、リズム隊の充実もあってのことだと思います。
さてB面は前述したマイルス・デイビスの所謂クールの誕生バンドにも参加し、5曲ほどアレンジを提供していたジェリー・マリガンのセッションで、もちろんそれを継承発展させた演奏が聴かれます。ちなみにオリジナル10インチ盤は「テンテット(Capitol H439)」ですが、このアルバムには収録時間の関係からか、あるいは12曲仕様が当時のお約束なのか、2曲が省かれた残念な仕様になっています。
録音は1953年1月29&30日、メンバーはチェット・ベイカー(tp)、ピート・カンドリ(tp)、ボブ・エネボルゼン(tb)、レイ・シーゲル(tub)、ジョン・グラース(frh、バド・シャンク(as)、ジェリー・マリガン(bs,p,arr)、ドン・デビッドソン(bs)、ジョー・モンドラゴン(b)、チコ・ハミルトン(ds)、あるいはラリー・バンカー(ds) とされていますが、一部には疑問があると言われています。その演目は――
B-1 Westwood Walk
B-2 Simbah
B-3 Walking Shoes
B-4 Rocker
B-5 A Ballad
B-6 Taking A Chance On Love
なんと言ってもチェット・ベイカーの参加が目玉でしょう♪ また前述のマイルス・デイビスに提供した B-4「Rocker」の再演も気になりますねぇ。基本的にピアノレスという得意分野を追求したあたりの意地も見事ですが、実は要所でジェリー・マリガン自身がピアノを弾いているという、まあ、他のピアニストが信用出来ない意地っ張りなんでしょうか……?
演目では、まずド頭の「Westwood Walk」で快調に飛ばすチェット・ベイカー、そしてブリブリにドライブするジェリー・マリガンの背後で柔らかなハーモニーが心地良く、アップテンポの快演だと思います。
また、お目当ての B-4「Rocker」は、ほとんどマイルス・デイビスのバージョンと同じテンポ、同じアレンジで、やや新味が感じられません。
それよりも B-6「Taking A Chance On Love」では、ジェリー・マリガンのピアノが良い感じです♪
とは言え、全体的にイマイチ精彩が……。ちなみにここで省かれた2曲がボーナストラックで入ったCDもあるようです。
ということで、これはA面が圧倒的に私の好みです。まあ、B面も優れた仕上がりなんでしょうが、A面が良すぎます♪ そして1950年代に主流となったウエストコーストジャズというか、白人系ジャズは、このアルバムタイトルどおり、モダ~ンな響きとクールにお洒落なセンスで、後のハリウッド系ポップスにまでも受け継がれていく感覚があるのでした。
実際、ショーティ・ロジャースは、例えばモンキーズあたりのアレンジもやっているんですからねぇ~♪ 凄い人です。