OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ワーデル・グレイの思い出・第二集

2008-10-12 12:17:34 | Jazz

Wardell Gray Momorial Vol.2 (Prestige)

ジャズに限らず、私の若い頃の音楽情報源は、圧倒的にラジオでした。ロックやR&Bの所謂洋楽のヒットパレードやチャート番組はもちろんの事、ジャズ関係では有名評論家の先生方から様々な薫陶を受けたものです。

さて本日の主役、ワーデル・グレイについても、私はそうしたラジオ番組で存在を知り、忽ち虜になった黒人テナーサックス奏者です。その活動時期は主にビバップ期という1955年までですから、当然ながらSP音源が中心となるのですが、同時に幾つか残されたライブ音源も非常に魅力で、SPという3分間芸術の世界では聴くことの出来ない長いアドリブがたまりません♪

というのも、ワーデル・グレイはデクスター・ゴードンに勝るとも劣らないテナーサックスのアドリブ名人で、ハードな音色と豊かな歌心はレスター・ヤングの進化系と思えるほどです。実際、当時はデクスター・ゴードンとテナーバトルのチームを組んで大ウケしていたのです。

私はそうしたジャズのライブ音源を集めた特集番組でワーデル・グレイの演奏を聴き、それはジーン・ノーマンという西海岸の興行師が主催していた「ジャスト・ジャズ・コンサート」というプログラムからの「One O'Clock Jump」でしたが、肝心のレコードはなかなか手に入りません。

しかし完全にワーデル・グレイの虜になっていた私は、ついにリーダー盤で別のライブ音源が入ったブツを入手! それがこのアルバムですが、もちろん内容はタイトルどおり、ワーデル・グレイが早世した後に纏められたもので、スタジオ録音のSP音源とプライベート録音に近いライブ音源が楽しめます――

1950年8月27日録音:ジャムセッション
 A-1 Scrapple From The Apple
 A-2 Move
 これを誰が録音したのかは不明ですが、ロスにあった「ハイハット」という店で行われたジャムセッションです。それはレギュラー出演していたソニー・クリス(as)、ジミー・バン(p)、ビリー・ハドノット(b)、チャック・トンプソン(ds) というカルテットにワーデル・グレイ(ts)、クラーク・テリー(tp)、そしてデクスター・ゴードン(ts) という豪華な面々が加わった熱演大会!
 まず「Scrapple From The Apple」はチャーリー・パーカーが自作自演で十八番にしていたビバップの有名曲で、初っ端からワーデル・グレイの寛いで良く歌うアドリブが圧巻です。飄々として、どこかせつないフレーズの妙、そしてハードで黒いテナーサックスの音色のコントラストが、もうたまりません♪ 続くクラーク・テリーは、あの駆け足のようなアドリブ展開の中に、これも十八番というマーブルチョコレートのCM曲みたいメロディを演じてくれますから、これには何時もながらニンマリです。しかしソニー・クリスはチャーリー・パーカーへの果敢な挑戦というか、勇猛に突進する妥協の無いスタイルですから、その場は些かギスギスした雰囲気へ……。まあ、こういうモーレツなところが、ソニー・クリスの良くも悪くも凄いところでしょうか。
 演奏はこの後、ジミー・バンのピアノからビシバシにハッスルしたリズム隊の様子が楽しめますが、気になる録音状態もバランス良好で、普通に聴けると思います。
 それは「Move」も同様のレベルで、いよいよお楽しみというデクスター・ゴードンとワーデル・グレイの共演が実現しています。おそらく最初のアドリブソロがデクスター・ゴードンだと思われますが、ハードで熱血なブローには観客も大喜び! 続くクラーク・テリーもノリノリで、ウケ狙いのフレーズを吹きまくりですが、決して憎めません。そしていよいよ登場するワーデル・グレイが負けじと派手なフレーズを演じようとするのですが、ちょいと無理があるというか、やっぱりこの人には、もう少し余裕のある演奏が合っているのではないでしょうか。しかしお客さんは、ここでも熱狂しているのですから、如何に当時のファンが、こういう熱い演奏を望んでいたかがわかります。そして西海岸にもハードバップが萌芽していたこともっ!
 ただし残念ながら、この演奏にはテープ編集の痕跡がはっきり残っています。なにしろ熱いソニー・クリスのアドリブがプチ切れですし、後半にはドラムスとのソロチェンジやゴードン対グレイの対決もあったような雰囲気が……。

1951年12月録音:ワーデル・グレイとロスのスタア達
 B-1 April Skies (SP840A)
 B-2 Bright Boy (SP840B)
 B-3 Jackie (SP853B)
 B-4 Farmer's Market (SP770A)
 B-5 Sweet And Lovely (SP853A)
 B-6 Lover Man (SP770B)
 これは必ずしもプレスティッジがプロデュースしたセッションではなく、バンド側からの持ち込みを買い取った音源と言われていますから、録音年月日についても諸説があるようです。しかしきちんとしたスタジオ録音ですから、音質は良好で、ビバップがハードバップに進化していくような貴重な演奏が楽しめます。
 メンバーもアート・ファーマー(tp)、ワーデル・グレイ(ts)、ハンプトン・ホーズ(p)、ハーパー・コスビー(b)、ローレンス・マラブル(ds)、ロバート・コリアー(per) という面々ですから、興味深々♪ もちろん最初はSPで発売され、後に10インチ盤「Wardell Gray Los Angeles Stars (Prestige 147)」に纏められたものの再収録です。
 肝心の演奏は、まず「April Skies」がアート・ファーマーの泣きのミュートにワーデル・グレイのシブイ歌心という、素敵にスイングしまくった快演♪ ハンプトン・ホーズの歯切れのよいタッチも良い感じです。
 そして「Bright Boy」「Jackie」「Farmer's Market」は、ロバート・コリアーのパーカッションも最高のスパイスという、実に鮮やかな楽しい演奏で、メンバー全員の明るく溌剌としたアドリブが如何にも西海岸です。ただしこれが後の所謂ウエストコーストジャズに直結しているかと言えば、些か疑問なのが面白いところで、個人的には、むしろ東海岸のハードバップに通じていそうな感じです。それはやはり黒人特有のハードでグルーヴィな雰囲気が横溢しているからで、ワーデル・グレイの歌心とノリは唯一無二の素晴らしさ♪ ハンプトン・ホーズもホレス・シルバーっぽいシンコペーションを聞かせてくれます。中でもアート・ファーマーが書いた名曲「Farmer's Market」が、ハードバップ時代にも演奏され続けたのは、さもありなんでしょう。
 しかし「Sweet And Lovely」と「Lover Man」の歌物パラードはパーカッションの存在が些か無用の長物という感じ……。まあ新機軸を狙ったのかもしれませんが、ワーデル・グレイの歌心とメロディフェイクが見事すぎるだけに、ちょっと……。

ということで、今となっては完全にマニアックなアルバムかもしれませんし、好きな人だけが聴けば良い作品というのが、些か正直な気持ちです。ワーデル・グレイの大ファンという私にしても、もしあの時、前述のラジオ番組を聴かなかったら果たして……。

おそらくジャズ喫茶でも鳴ることは、ほとんど無いでしょう。ただしジャズの歴史本あたりでは、けっこう高評価されているようです。

ちなみにこのアルバムのアメリカ盤にはAB面が逆になったブツもあるらしく、それは風景写真がジャケットに使われたものかもしれませんが、未確認です。

そしてこのアルバムの兄弟盤として「Vol.1」も同様に素晴らしい内容ですから、機会があれば、ぜひどうぞ! 拙文がそのきっかけとなれば、望外の喜びです。

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