OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

スタン・ゲッツとイケイケリズム隊ライブ!

2008-10-20 11:52:37 | Jazz

Stan Getz Quartet Complete Live at Montreux 1972 (GARBIT = CD)

1960年代前半にボサノバで大当たりをとったスタン・ゲッツは、それゆえ以降の活動に制約がついたのは致し方ないところでしょう。けっこう意欲的なレコーティングセッションがオクラ入りしたり、またステージでは必ずボサノバを演じなければならない宿命が……。

しかしスタン・ゲッツ本人が白人テナーサックス奏者の頂点を極めていたことに間違いは無く、シャリコマな企画ものからオールスタアによる一発セッションが玉石混合のアルバムとして発売され続けた歴史があったとしても、やはりジャズ者の気持ちは、例えば名盤「Sweet Rain (Verve)」の如き新主流派の響きと耽美華麗なアドリブの桃源郷を求めて止まないのです。

それが1970年代に入って最初に結実したのは、今もって人気のアルバム「Captain Marvel (Verve / Columbia)」でした。なにしろ共演メンバーが当時バリバリの上昇期にあったチック・コリア、スタンリー・クラーク、アイアート・モレイラというリターン・トウ・フォーエバーの面々に加えて、ライフタイムからジャズに戻りつつあったトニー・ウィリアムスなんですから、ヒットしないのが不思議です。

そして彼等は実際のライブステージにも登場し、その音源は今日まで数枚のアルバムに分散されていましたが、本日ご紹介のCDはその中から1972年のモントルージャズ祭に出演した時の音源を纏めた嬉しいブツです。しかもボーナストラックとして、1974年のワルシャワ音楽祭の音源まで入っています――

☆1972年7月23日のモントルージャズ祭
 01 Captain Marvel
 02 Day Wave
 03 Windows
 04 Times Lie
 05 I Remember Clifford
 06 Lush Life
 07 La Fiesta
 メンバーはスタン・ゲッツ(ts) 以下、既に述べたとおりチック・コリア(el-p,p,key)、スタンリー・クラーク(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という強力なオールスタアズ♪ 演目も前述したアルバム「Captain Marvel」からの曲が中心で、なんとその録音から約4ヵ月後のライブなんですねぇ。つまりこの時点では件のアルバムが発売されたか、あるいはその直前という時期ですから、プロモーションの意味合いも強かったと思われます。
 ここでは「Captain Marvel」「Day Wave」「Times Lie」「Lush Life」「La Fiesta」がそれに該当するのですが、まず初っ端の「Captain Marvel」が完全に煮え切らず、演奏も音のバランスもバラバラでチグハグという??? スタジオバージョンに比べて、もっさりとしたノリも先が思いやられる感じですが……。
 結論から言うと次曲「Day Wave」からはバンド全体が別人のように溌剌としていきますので、ご安心下さい。これは全くの個人的推察ですが、おそらくこの場面ではステージのPAやモニターそのものが不調で、流石に凄腕揃いのバンドメンバーにしても戸惑いがあったのかもしれません。ただし、それゆえに暴走気味のスタンリー・クラークのペースが物凄かったりしますが♪
 そんなこんなでバンドが持ち直した「Day Wave」からはスタン・ゲッツを盛り立てるリズム隊の強靭なグルーヴと瞬発力が素晴らしく、もちろんリーダーのテナーサックスからは激しくも耽美華麗なフレーズが尽きること無く放出されていきます。
 ただし個人的には、どうしてもリズム隊に耳がいってしまうのは否定出来ません。「Day Wave」でトキメキのエレピを聞かせてくれるチック・コリアの背後では、意外にロックっぽいベースを響かせるスタンリー・クラーク! もちろんアドリブソロは破天荒な早弾きですし、トニー・ウィリアムスのパワフルなボサロックも快適です♪
 続く「Windows」は同じく前述した名盤「Sweet Rain」に入っていたチック・コリアのオリジナル曲ですから、久々の共演となるスタン・ゲッツにしても相当に入れ込んだ感じです。強靭な4ビートで煽るリズム隊も凄いですねぇ~。特にトニー・ウィリアムスは、やっぱりこの世界の人だと思いますし、実に楽しそうなチック・コリア! そんなの関係ねぇ~、とばかりにグイノリのウォーキングを聞かせるスタンリー・クラーク! あぁ、これが当時最先端の4ビートでした。ベースソロのバックでビートをキープするトニー・ウィリアムスのブラシもシブイです。
 そして柔らかなテーマメロディを独特の浮遊感でフェイクしていくスタン・ゲッツの真髄が楽しめるのが「Times Lie」です。しかし幻想的なスタートから爆発的なビートの嵐となるアドリブパートに至るとリズム隊が大暴れ! 十八番のスパニッシュモードを使いまくるチック・コリアに大車輪ドラミングで対抗するトニー・ウィリアムスという構図には心底、ゾクゾクさせられます。しかも演奏は途中から、ウェザー・リポートの某曲にクリソツな展開までっ! う~ん、ザビヌル&ショーターは、これを聞いていたのか!?
 こうして盛り上がりきった会場の雰囲気をモダンジャズ本流の深みにクールダウンさせていくのが、名曲「I Remember Clifford」なんですから、たまりません。スタン・ゲッツのサブトーンが魅力の情感溢れるテナーサックスがメロディフェイクの真髄を聞かせれば、力強くて柔軟なリズム隊が素晴らしいバックをつけるという桃源郷の5分間♪
 さらに続くのが、これまた有名スタンダードの「Lush Life」で、ここはようやく普通の音色になったチック・コリアのピアノが潔く、またスタンリー・クラークのアルコ弾きが正統派モダンジャズの響きを強くしています。もちろんスタン・ゲッツも往年のスタイルに近い吹奏ですから、こういう安心感は嬉しいですね。トニー・ウィリアムスのブラシも粘っこくてパワフルですから、好感が持てます。
 そしてよいよいクライマックスとなるのが、チック・コリアの代表曲にしてスパニッシュフュージョンを超えて永遠の定番となった「La Fiesta」です。もちろん導入部は、あの思わせぶりな哀愁が漂うチック・コリアのエレピからワクワクしてくるリフが始まり、躍動的なテーマメロディが情熱的に演じられるという、完全にリターン・トゥ・フォーエバーでの展開を継承していますが、ここでのバンドのノリは幾分ロック色も強い感じがするのは、私だけでしょうか。
 肝心のスタン・ゲッツは豪快な音出しと重厚なフレーズに特有の浮遊感が上手く融合した、まさに唯一無二のアドリブが絶好調! これには流石のリズム隊も押され気味です。しかしそこから4ビートに移行して逆襲していくのが、まさにこのメンツの真骨頂!! あぁ、最高ですっ♪ さらに終盤では、きちんとラテンリズムに戻してスタン・ゲッツに受け渡す律儀さも、実に憎めませんねっ♪
 というここまではモノラルミックスで、リマスターも過去最高だと思いますが、基本となる録音そのものが、今日のレベルからすれば良好とは言えません。特に最初の方は???でしょう。それでも耳が慣れる所為でしょうか、中盤からは問題無く聴けると思います。
 と言うよりも、このバンドの勢いに圧倒されて聞かされてしまうというべきでしょうか……。とにかく興奮させられますよ。

☆1974年10月27日のワルシャワ音楽祭
 08 Desafinado
 09 La Fiesta
 こちらは約2年3ヵ月後のポーランドでのライブ音源で、メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、アルバート・デイリー(p)、ジョージ・ムラーツ(b)、ビリー・ハート(ds) という実力派の面々が揃っています。
 まず音質は良好なステレオライン録音なんですが、残念ながらバランスが悪く、右チャンネルからスタン・ゲッツのテナーサックス、真ん中からピアノとベース、ドラムスも右寄りというのが悔しいところ……。
 しかし演奏そのものは好調で、まずはボサノバ定番曲の「Desafinado」が気持ち良く、4分弱の時間ですが、スタン・ゲッツのソフトな歌心が存分に楽しめます。
 また「La Fiesta」はモントルーのバージョンよりも長い15分を超える大熱演で、まずはいきなりアルバート・デイリーのピアノが独り舞台! まあインスピレーションという点では、明らかにチック・コリアの二番煎じですが、それを言っちゃお終いだよ、という雰囲気でしょうか。
 しかしスタン・ゲッツは豪放にしてリラックスしたブロー大会で、このあたりはイケイケでロックっぽいノリもあったモントルーでのリズム隊に比べて、やはりモダンジャズど真ん中のトリオがバックという安心感の表れかもしれません。
 ただしバンド全員に甘えは感じられず、スタン・ゲッツはどこまでも「スタン・ゲッツ」らしく、またリズム隊も自分達だけのパートになると、ますます水を得た魚のような活きの良さを聞かせてくれますから、熱いです!

ということで、あくまでもマニア向けのCDかもしれません。しかし1970年代ジャズの最良の部分を記録していることには違いなく、それが現代では実に楽しいものだと思います。

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