OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

処女航海とフレディの旅立ち

2009-01-01 11:32:01 | Jazz

Maiden Voyage / Herbie Hancock (Blue Note)

日頃ノーテンキなサイケおやじも、元日ぐらいは厳粛な気持ちで過ごしたい!

ということで、あれこれレコード棚から慎重に、この1枚を選んでみました。

そして針を落として、流れる演奏に身を任せ、何気なく新聞を開いてみたら、なんとフレディ・ハバードの訃報が……! う~ん、なんという……。

皆様ご存じのように、このアルバムでのフレディ・ハバードは最高の演奏を披露しています。ちょうどりー・モーガンがジョン・コルトレーンの「Blue Train (Blue Note)」で驚愕の名演を残したような感じでしょうか、とにかく素晴らしいかぎり♪♪♪

もちろんリーダーのハービー・ハンコックにしても、最高の人気盤にして大傑作! そして所謂「新主流派」を代表する名作として歴史に名を刻んだアルバムですが、個人的にはリーダーよりも共演者の存在に強い印象を感じています。

録音は1965年3月17日、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、ジョージ・コールマン(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という元祖「V.S.O.P.」クインテットであり、もちろんマイルス・デイビスのバンドと共通項の多い演奏が聞かれます。

A-1 Maiden Voyage
 典型的なモードジャズの響き、力強いジャズ特有のビートが見事に融合した名曲にして大名演のオリジナルバージョンが、これです。しかも一説によれば、本来は男性化粧品のCM曲としてハービー・ハンコックが書いたメロディだったというのですから、これまた吃驚ですよねぇ~♪
 しかしそれにしても、この厳かで前向きな気力に満ちた雰囲気は素晴らしいと思います。
 それはタイトルどおりに新しい船出を感じさせるテーマ演奏、ジョージ・コールマンの思わせぶりなテナーサックスが最高の露払いとなり、いよいよ登場するフレディ・ハバードが、それこそ畢生入魂のトランペットを聞かせてくれますよ。その大きな波のウネリを感じさせる表現、十八番のフレーズも交えて思いっきり吹きまくりながらも絶妙に抑制の効いたアドリブソロは強烈至極で、震えかくるほどです。
 そしてハービー・ハンコックが自らの存在意義を問いかけるようなピアノを弾けば、背後ではドラムスとベースが上手い伴奏をつけて、見事にバンドとしての一体感を作り出しているという、非常に完成度の高いジャズ演奏だと思います。

A-2 The Eye Of The Hurricane
 一応はモードを使いながらも、実は変則的なマイナーブルースが、その正体! ですから後年の「V.S.O.P.」クインテットで演じられてからは、決定的な人気曲になりましたですね。しかしこのオリジナルバージョンも侮れません。
 テンションの高いテーマ合奏からフレディ・ハバードが大ハッスルのアドリブパートに突入すれば、その背後ではトニー・ウィリアムスが繊細にして豪胆な爆裂ドラミング! あぁ、ついつい音量を上げてしまいますねぇ~~~♪ フレディ・ハバードのダーティな音使いも憎めません。
 続くジョージ・コールマンもマイルス・デイビスのバンドで聞かせていた流れるようなフレーズを連ね、ハービー・ハンコックも同様の手法で疾走しますが、ここでもトニー・ウィリアムスの遠慮しない姿勢が強烈ですし、ロン・カーターのベースも密かにエグイことをやらかしていますから、そのテンションは一瞬も緩んでいないと感じます。
 ただし、ここまで来ると、ドラムソロを聴けないのが、ちょいと残念という贅沢も……。

A-3 Little One
 もちろんハービー・ハンコックのオリジナルですが、実はこれ以前にマイルス・デイビスの名盤「E.S.P. (Columbia)」で演奏されていた名曲の再演バージョンです。
 その所為でしょうか、失礼ながらジョージ・コールマンがウェイン・ショーター化しているのには、いやはやなんとも……。しかしこの曲調では、さもありなんと納得してしまいます。
 それは厳かにしてミステリアスなメロディが力強いリズム隊に支えられて魅力を増大させるという、実は「Maiden Voyage」と同じ手法が存分に活かされたところだと思いますが、マイルス・デイビスのバージョンと比べてみると、明らかに若さというか、エネルギッシュな印象が強く、それはフレディ・ハバードとジョージ・コールマンという、ストレートな表現者の参加によるものじゃないでしょうか。
 肝心のハービー・ハンコックは如何にも「らしい」アドリブとピアノタッチが心地良く、それに続くロン・カーターのペースソロも味わい深いと思います。

B-1 Survival Of The Fittest
 さてB面に入っては、どちらかといえばマイルス・デイビスっぽいイメージだったA面よりは、相当にハービー・ハンコックの自己主張が鮮明になった演奏が聞かれます。それが特に強いのが、この曲でしょう。
 フリーな緊張感を内包したテーマのアンサンブルから、闇雲に突撃していくフレディ・ハバードの勢いは強烈ですし、この自由度の高さは、ちょうどマイルス・デイビスのライブセッション「Plugged Nickel (Columbia)」あたりの雰囲気と共通しています。しかしこれは、決してマイルス・デイビスのバンドでは親分の許可が下りない展開でしょう。
 トニー・ウィリアムスのイキイキとしたドラムソロに続いて登場するジョージ・コールマンのテナーサックスからも、当時最先端の意気込みが炸裂しています! 実際、これを聴いたら、今となっては些か保守的と思われがちなジョージ・コールマンの実力が再認識されるんじゃないでしょうか。
 またハービー・ハンコックの勘違い的に前向きな姿勢も結果オーライです。特にトニー・ウィリアムスとの共同謀議がたまりませんねぇ~♪ 非常にジャズの真髄に迫っていると感じますが、いかがなもんでしょうか?

B-2 Dolphin Dance
 オーラスは、これもハービー・ハンコックを代表する名曲・名演です。その穏やかなメロディの心地良さ、そしてスイングしまくったバンドの演奏は、モードジャズが最良の瞬間を見事に表現していると思います。
 フレディ・ハバードの大らかにして躍動的なトランペット、ジョージ・コールマンのクールで熱いテナーサックス、ハービー・ハンコックの上手い伴奏とメロディ優先主義のアドリブソロが、実に心地良いですねぇ~~♪
 余計な手出しをしないロン・カーター、逆にビシバシ行きたくて我慢しているトニー・ウィルアムスのコントラストも最高の演出で、このあたりはハービー・ハンコックのリーダーとしての手腕の冴えかもしれません。

ということで、実はリーダーよりも共演者が目立ってしまうようなところもありますが、やはり「名盤」としての自覚が十分なアルバムだと思います。

音の隙間、その空間を埋め尽くしていくような演奏の余韻を活かした録音も素晴らしく、実は私がこのアルバムを好きなのも、そこが大きな理由です。特にB面には、それが顕著ですよ。

それとやっぱりフレディ・ハバードの大熱演が光ります。日頃の些か節操の無いトンパチな勢いと抑制された感情表現の機微が最高に発揮されたと思うのは、私だけでしょうか? 実際、多くのファンがフレディ・ハバードに望んでいたのは、このアルバムのような演奏だったかもしれません。

もちろんフレディ・ハバードの突撃第一主義とか、快楽的に楽しい演奏も、私は大好きです。しかし、このセッションのような、じっくり構えての自己表現は、まさにジャズ史に残る名トランペッターの証として最高だと思います。

フレディ・ハバード、享年70歳……。

再び現世に輪廻転生する時は、またトランペットを吹いて欲しいと、心から願っています。合掌。