北朝鮮の核実験に刺激されて、日本の核武装についての論議が今まで以上に盛んになるであろう。今まで公然と日本の核武装化を推進せよと論ずる書籍は見掛けなかったが(雑誌の論文ではほんのときたま見かけたようだが)、ついに北朝鮮の核実験の直前に、PHP研究所から刊行された。それがこの書物である。この投稿では、書評という形でなく、内容紹介という形で投稿する。私の連続投稿「保守派論客の歴史欺瞞・偽造」でも後に取り上げることになるだろう。
編者の中西輝政氏は国際政治・政治史の学者であり、京大大学院教授である。私は保守派最強の論客であろうと思っていたが、あにはからんや、デマゴーグ性では最大であっても、論理の組み立ては雑であり、何よりも勝手なあて推量で結論を導いていくという手法が目立つ。これで京都大学大学院教授かと思うと私のほうが情けなくなった。学術論文を書くときには恐らくきちんとした論文を書くのであろうが、この手の論文のときには、思いついたことをきちんと調べて確かかどうか確認することもなく平気で述べていく。
しかも、二流、三流の保守系論客が、中西先生がおっしゃったことだと、これまた事実かどうかを検証することもなく、そのまま自分の論文に使っていく。そうした著作・論文が出版社を通して本屋の店頭に並ぶ。恐ろしい世の中になったものだと思う。
では、この書籍に収録されている諸論文の表題を次に並べる。これを見ただけで、この書籍の内容はおよその見当がつく。
「『日本核武装』の議論を始める秋(とき)」(中西輝政)
「中国核戦略の標的は日本だ」(平松茂雄)
「国家意思なき外交が招いた惨状と未来への『選択』」
(対談:平松茂雄、桜井よしこ、西岡力)
「核武装の決断は国民の覚悟から」(対談:伊藤貫、兵頭二十八、平松茂雄)
「日本という国家の『意思』の表明を」(日下公人)
「日本核武装の具体的スケジュール」(兵頭二十八)
「自国の防衛に責任をもてる当たり前の国に」(伊藤貫)
次に、各論文の結論的な部分を引用する。
<中西論文>
「このような対中国カード、対米国カードを持つためにも、いまこそ日本の民間の識者たちが、タブーを打ち破り、言論によって『国を支える』という大きな使命感を持って、正面から『核武装』を議論することが必要なのである」
<平松論文>
「それ故、中国は遠からず宇宙ステーションを建設するとともに、宇宙兵器を装備し、それに関連した技術を有する軍人・専門家からなる宇宙軍を編成し、宇宙軍基地を建設することになるだろう」。「米国の「核の傘」に依存しながら、米国の核兵器を日本に持ち込むことに反対し、あるいは原子力空母や原子力潜水艦の日本配備に反対する立場は早急改める必要がある。日本自身の核武装を含めて、核兵器に関する議論を積極的に展開する時期に来ている」
<桜井よしこ、平松茂雄、西岡力対談>
西岡 「アメリカは‥‥現在は中東を自由化、民主化しようとしていますけれど、北朝鮮のようなテロ政権、そしてそれを支えている北京の共産党の独裁政権を倒さない限り、アメリカの安全も世界の平和もないと思っています」「われわれとは究極的には共存できないという認識をアメリカと共有し、それを根本にして政策を考えるべきです」
平松 「日本も早急に核武装の是非を論議すべきです。憲法九条の改正には賛成でも、アメリカが反対するという理由で核武装の論議を嫌がる人がいます。しかし、そのアメリカに頼れなくなってきているという状況を深刻に受け止める必要があるのです」
桜井 「中国が何をしなくても日本は飲み込まれると思いますよ。日本の側から屈服してね。1993年中国の李鵬首相は訪中したポール・キーティング豪首相との会談で『日本は三十年経てばなくなっている』と発言したそうです」
<伊藤貫、兵頭二十八、平松茂雄対談>
兵頭 「日本がなぜ核武装しなくてはならないかを簡潔に説明するならば、他国からの核攻撃を抑止するものは、自前の核武装以外にないからです」
平松 「危険なのは中国が、国力を増大すると周辺国家への侵略を始めてしまう国だという点です」「最近上梓した『中国、核ミサイルの標的』の当初予定されていたタイトルは『やがて中国は日本を核攻撃する』だったのですが、けっして大げさなものではないのです」
伊藤 「(日本が中国の核攻撃を受けた場合)当然、アメリカは中国に対して核報復しない。‥‥パニックになった日本人は両手に白旗と赤旗を持ってギブアップしてしまうでしょう。その瞬間、日本安保体制は崩壊し、日本は中国の軍門に降る」「日本は先制攻撃に必要なICBMやSLBMのような長距離弾道核ミサイルはいりません。戦略爆撃機や大型空母も不要です。せいぜい200発か300発の核弾頭付き巡航ミサイルを持てばいい。それを積んだ小型駆逐艦や小型潜水艦約30隻を東シナ海や西大西洋、日本海に配置する」
日下論文 「『日本は原子力潜水艦と原子爆弾を持つ』と宣言せよ」。「実力を自覚した日本は多様な選択肢を持つ。その選択の一つが「非核三原則」を破棄することである。非核三原則は、‥‥政府の答弁に過ぎず、国際条約ではない。国内において法制化されたものでもない」
兵頭論文 「シナからの自衛のためにNPTから脱退することを早く公式に声明しなければなりません」「まずは投下型の核爆弾をつくる」「次に陸上発射型の弾道弾を」「さらに大型巡航ミサイル(無人特攻機)をつくる」
伊藤論文 「『日本が中国の属国とならぬため、さして、米国と一緒に東アジアで集団的自衛権を行使するため、日本は自主的核抑止力を持たねばならぬ』と決断すべきである」
として、前記対談のなかの発言と同じく「核弾頭付き巡航ミサイル」と「それを搭載する駆逐艦・潜水艦」を建造し、常時核を搭載して日本近海に配置すべきだと主張している。
<続く>