東アジア情勢が風雲急を告げてきた。砲撃事件に見るような北の乱暴、ワガママに対するものだという雰囲気が圧倒的だが、僕は全くそう思わない。嘘の理由でイラク戦争を始めたように、アメリカ産軍複合体の本音は全く別の所にあると思うからだ。この「恐怖の北」という雰囲気は、アメリカの本音を密かに進める為に作り出された口実だと確信している。その証明をするつもりで、事の次第を順を追って書いてみたい。目先の「危機」は、広く歴史的に見ることが大事と自分に言い聞かせている、そういう狙いからのことだ。
1 天安艦沈没事件の産物を思い出そう
この3月、天安艦沈没事件があった。あの事件の大々的社会問題化によって、次の二つの重大変更が東アジアに起こっている。国連に北名指し非難決議を説得できなかったことが示しているように 実に好い加減な調査報告書しか出せなかったにもかかわらず、この二つだけは、アメリカがきちんと確保しているのである。
一つは、韓国軍戦時指揮権を米軍から独立させる対米自立予定時期が無期限に延期されたこと。二つ目は鳩山政権下で、「抑止力」がクローズアップされて、その普天間移転方針が挫折したこと。これは周知のように、鳩山政権崩壊の最大原因になった。後の菅政権は、これに恐れをなしたというように、普天間既定方針を初めから掲げている。
そしてそこへ、今回の砲撃事件と、日米韓のかってない大演習である。こういう危うい情勢がさらにエスカレートしたわけだ。「北のせいでこうなった」と、大々的に宣伝しつつのことだった。
マスコミも、ちょっと頭を冷やして冷静に考えてみて欲しいものだ。政治が最悪だから極貧に陥り、石油もなくてこの極寒にろくに電気も点かず、それゆえ2日も戦争を続けられないような貧乏国に対して、世界2大国の米日と韓国が、脅威を感じている!!? 核があるから?テポドンでそれを飛ばすかも知れないから? これらは「だだっ子のオネダリ」(ウィキリークス発の中国外交官談より)よろしく、「弱い犬ほどよく吠える」の喩えの通りに強がりの案山子に決まっているし、自分から核など撃てるわけがないではないか。そんなことをしたら、戦争違法化の歴史的流れの中で、首領様一族がフセイン一家のように皆殺しになるのが先方にも目に見えているからだ。
間違いなく、アメリカの狙いは、言葉とは違う所にある。それを考える為にも、アメリカが近年の世界でやって来たことを振り返ってみたい。
2 米産軍複合体の自己増殖
A 世界二局体制の東欧が崩壊し、冷戦が終わってから、アメリカの軍事力が下がらないのが僕には不思議で仕方なかった。そしたら、湾岸戦争と、9.11に次いでイラク戦争である。なんのことはない、「敵」があろうとなかろうと米産軍複合体は自己増殖を続けてきたと見ることが出来る。
B アメリカの世界的言語学者にして、近年はアメリカの戦争外交を批判してやまないノーム・チョムスキーは、その渾身の名著「覇権か生存か」で、こんな事を語っている。冷戦構造の前と後、アメリカのやっていることは同じ「予防戦争」なのだ、と。
1980年代のニカラグァでは、親米ソモサ独裁政権が潰れた後、ニカラグァ解放勢力を国際テロ撲滅キャンペーンの対象となし、この小国の国土を破壊し尽くした。いくらアメリカに近いとは言え、あんな小さい国のテロが恐ろしいというのである。今回の北朝鮮と同じ手口ではないか。
イラク戦争の前には、広報産業の成果として、国民の多くにこう信じ込ませることに成功していた。
「9.11にはフセイン自身も関与し、イラク人も参加していた」
イラク戦争終戦後まで国民の半数がそう信じていたのだそうだ。
チョムスキーは、このニカラグァでもイラクでも「先制攻撃」ならぬ「予防戦争」の概念によってアメリカ国家が戦争を始めたと語る。デッチアゲの「脅威」は想像上のものにすぎないのだが、それに対する「予防戦争」!?
C アイゼンハワー大統領がその退任時に、米産軍複合体が国家方針をねじ曲げるという暗い警告を発したのは有名な話である。上に述べた状況は、そういう予言に完全に一致している。チョムスキーもこのアイゼンハワー大統領予言に当然目を付けてきた。
3 「予防戦争」の現在
アメリカは何故こんな事を続けるのか? チョムスキーは、アメリカを「帝国」と呼んでいる。アイゼンハワーが自身のアメリカ大統領経験から骨身に染みて学び、未来に向かって警告した米国「産軍複合体」。ケネディをキューバ絡みで暗殺したと噂されるのも、彼らである。こういう彼らの帝国主義。「脅威」が大きいほどアメリカの高価な武器が売れる。核兵器への不安が広がるほど「ミサイル防衛計画」で外貨が手に入る。アメリカ産軍複合体は、軍事的危機、「予防戦争」、そういう「チキンレース」をいつも自分から作るのである。いや、今はむしろ、是非作らねばならないのだろう。
イラク戦争によって、国家財政を食いつぶしてしまった。さらにまた、サブプライム証券化商品バブル弾けで、国家の赤字はさらに膨大なものに広がった。貿易不均衡大赤字は全くなくならないし、アメリカ国家にはもう、この産軍複合体を養っていく金などどこにもありはしない。それどころか、このままではドル世界体制も終わりだろう。イラクと同じように、局地戦争をやって自らの存在意義を示すことももう出来ないのか。
そこでアメリカ産軍複合体は、他国の国家予算をも食い物にし始めた。
4 「予防戦争」に同行国を巻き込む
さて、国連、アナン事務総長らの反対を押し切って強行したイラク戦争で、同行国政権は戦争直後に皆潰れた。「大量破壊兵器がある」という嘘の開戦理由がばれたのだから、当然のことだろう。イギリス、スペイン、イタリア、オーストラリアなどだ。今回は、イラク戦争と同じ事を東アジアでやり始めたのだと、僕は言いたい。今度は、日本、韓国を巻き込んで。そしてあわよくば、中国をも巻き込もうとしている、とも。なお、中国を巻き込むことに失敗したとしても、将来中国に対する「予防戦争」、そういう危機の対象にするという布石が打てるというものだ。こうして「予防戦争」のエスカレートが繰り広げられるたびに、アメリカの武器が諸外国国家に大いに売れていくということなのではないか。
チョムスキーも、こう指摘している。
『同様に、米弾道ミサイル防衛機構は1995年に日本の政府当局者に対し、戦域ミサイル防衛は「今世紀最後の軍事ビジネスのチャンス」だと助言した。日本が引き込まれたのは、その製造技術を利用するだけでなく、宇宙の軍事化に対する産業界の関与を深め、政策立案者とアナリストがよく使う言葉を借りれば「計画を確定する」ためでもあった』(「覇権か生存か」P330)
5 将来に向かい「予防戦争」の布石も
ところで、こんな疑問が湧く。「予防戦争」や国際通貨危機などの悪の報いから大赤字の国庫を抱えて切羽詰まって、背に腹は替えられぬアメリカはともかく、菅内閣も李内閣も、何故か彼らに従うのか。ウィキリークスが漏洩した情報ではないが、ご本人や周辺が何か、失脚並みの醜聞を摑まれて強迫でもされているのだろうとしか、僕には思えないのである。そうでもなければ、どうして、民主政権があっさりとマニュフェストを取り下げたり、ウィキリークスが示したような各国首脳個人の細かい情報をアメリカが入手したりということがあるのか、とも。脛に傷持つ政治家などは、すべからく潔く身を引くべきだ。こんなアメリカの世界戦略に抵抗することを諦めているような政治家、官僚、マスコミも皆同罪であろう。
なお、次のウィキリークス情報などは、ロシアも将来的な「予防戦争」の相手国になしうるということを示していると言えまいか。実際に戦争をしなくても、危機を作る為の材料という意味をも含めてのことだ。あの国の「プーチン・マフィア政権」ぶりはつとに有名で、今回またこれが、ウィーキリークス情報によっても証明されたことではあるし。
【NATOがバルト防衛策…ロシアと融和の裏で 暴露公電2010年12月10日
【モスクワ=副島英樹】民間告発サイト「ウィキリークス」が公開した米外交公電で、米欧でつくる北大西洋条約機構(NATO)が今年1月、エストニア、ラトビア、リトアニアの旧ソ連バルト3国やポーランドをロシアの侵略から防衛する計画を立てていたことが明らかになった。
NATOは11月のリスボン首脳会議で「ロシアは脅威ではない」と新行動指針でうたい、双方は連携強化の共同声明を出したばかり。ロシアのラブロフ外相は9日、「片方ではパートナーシップで合意し、片方で防衛の必要性をうたう。どっちが本心か」と批判、回答を求めると述べた。
防衛計画は「ロシアの脅威から東欧で最ももろい部分を守る」目的で、冷戦後初めて立案。米英独とポーランドが軍部隊を派遣し、同国北部とドイツの港が戦闘部隊や艦船の受け入れ基地になる。オバマ米政権は、ロシアを不必要に刺激するのを懸念して秘密裏に計画を進めたという。
ラスムセンNATO事務総長は9日、イタル・タス通信に対し、「ロシアは敵でも脅威でもない」と強調した。(asahi.com から) 】
1 天安艦沈没事件の産物を思い出そう
この3月、天安艦沈没事件があった。あの事件の大々的社会問題化によって、次の二つの重大変更が東アジアに起こっている。国連に北名指し非難決議を説得できなかったことが示しているように 実に好い加減な調査報告書しか出せなかったにもかかわらず、この二つだけは、アメリカがきちんと確保しているのである。
一つは、韓国軍戦時指揮権を米軍から独立させる対米自立予定時期が無期限に延期されたこと。二つ目は鳩山政権下で、「抑止力」がクローズアップされて、その普天間移転方針が挫折したこと。これは周知のように、鳩山政権崩壊の最大原因になった。後の菅政権は、これに恐れをなしたというように、普天間既定方針を初めから掲げている。
そしてそこへ、今回の砲撃事件と、日米韓のかってない大演習である。こういう危うい情勢がさらにエスカレートしたわけだ。「北のせいでこうなった」と、大々的に宣伝しつつのことだった。
マスコミも、ちょっと頭を冷やして冷静に考えてみて欲しいものだ。政治が最悪だから極貧に陥り、石油もなくてこの極寒にろくに電気も点かず、それゆえ2日も戦争を続けられないような貧乏国に対して、世界2大国の米日と韓国が、脅威を感じている!!? 核があるから?テポドンでそれを飛ばすかも知れないから? これらは「だだっ子のオネダリ」(ウィキリークス発の中国外交官談より)よろしく、「弱い犬ほどよく吠える」の喩えの通りに強がりの案山子に決まっているし、自分から核など撃てるわけがないではないか。そんなことをしたら、戦争違法化の歴史的流れの中で、首領様一族がフセイン一家のように皆殺しになるのが先方にも目に見えているからだ。
間違いなく、アメリカの狙いは、言葉とは違う所にある。それを考える為にも、アメリカが近年の世界でやって来たことを振り返ってみたい。
2 米産軍複合体の自己増殖
A 世界二局体制の東欧が崩壊し、冷戦が終わってから、アメリカの軍事力が下がらないのが僕には不思議で仕方なかった。そしたら、湾岸戦争と、9.11に次いでイラク戦争である。なんのことはない、「敵」があろうとなかろうと米産軍複合体は自己増殖を続けてきたと見ることが出来る。
B アメリカの世界的言語学者にして、近年はアメリカの戦争外交を批判してやまないノーム・チョムスキーは、その渾身の名著「覇権か生存か」で、こんな事を語っている。冷戦構造の前と後、アメリカのやっていることは同じ「予防戦争」なのだ、と。
1980年代のニカラグァでは、親米ソモサ独裁政権が潰れた後、ニカラグァ解放勢力を国際テロ撲滅キャンペーンの対象となし、この小国の国土を破壊し尽くした。いくらアメリカに近いとは言え、あんな小さい国のテロが恐ろしいというのである。今回の北朝鮮と同じ手口ではないか。
イラク戦争の前には、広報産業の成果として、国民の多くにこう信じ込ませることに成功していた。
「9.11にはフセイン自身も関与し、イラク人も参加していた」
イラク戦争終戦後まで国民の半数がそう信じていたのだそうだ。
チョムスキーは、このニカラグァでもイラクでも「先制攻撃」ならぬ「予防戦争」の概念によってアメリカ国家が戦争を始めたと語る。デッチアゲの「脅威」は想像上のものにすぎないのだが、それに対する「予防戦争」!?
C アイゼンハワー大統領がその退任時に、米産軍複合体が国家方針をねじ曲げるという暗い警告を発したのは有名な話である。上に述べた状況は、そういう予言に完全に一致している。チョムスキーもこのアイゼンハワー大統領予言に当然目を付けてきた。
3 「予防戦争」の現在
アメリカは何故こんな事を続けるのか? チョムスキーは、アメリカを「帝国」と呼んでいる。アイゼンハワーが自身のアメリカ大統領経験から骨身に染みて学び、未来に向かって警告した米国「産軍複合体」。ケネディをキューバ絡みで暗殺したと噂されるのも、彼らである。こういう彼らの帝国主義。「脅威」が大きいほどアメリカの高価な武器が売れる。核兵器への不安が広がるほど「ミサイル防衛計画」で外貨が手に入る。アメリカ産軍複合体は、軍事的危機、「予防戦争」、そういう「チキンレース」をいつも自分から作るのである。いや、今はむしろ、是非作らねばならないのだろう。
イラク戦争によって、国家財政を食いつぶしてしまった。さらにまた、サブプライム証券化商品バブル弾けで、国家の赤字はさらに膨大なものに広がった。貿易不均衡大赤字は全くなくならないし、アメリカ国家にはもう、この産軍複合体を養っていく金などどこにもありはしない。それどころか、このままではドル世界体制も終わりだろう。イラクと同じように、局地戦争をやって自らの存在意義を示すことももう出来ないのか。
そこでアメリカ産軍複合体は、他国の国家予算をも食い物にし始めた。
4 「予防戦争」に同行国を巻き込む
さて、国連、アナン事務総長らの反対を押し切って強行したイラク戦争で、同行国政権は戦争直後に皆潰れた。「大量破壊兵器がある」という嘘の開戦理由がばれたのだから、当然のことだろう。イギリス、スペイン、イタリア、オーストラリアなどだ。今回は、イラク戦争と同じ事を東アジアでやり始めたのだと、僕は言いたい。今度は、日本、韓国を巻き込んで。そしてあわよくば、中国をも巻き込もうとしている、とも。なお、中国を巻き込むことに失敗したとしても、将来中国に対する「予防戦争」、そういう危機の対象にするという布石が打てるというものだ。こうして「予防戦争」のエスカレートが繰り広げられるたびに、アメリカの武器が諸外国国家に大いに売れていくということなのではないか。
チョムスキーも、こう指摘している。
『同様に、米弾道ミサイル防衛機構は1995年に日本の政府当局者に対し、戦域ミサイル防衛は「今世紀最後の軍事ビジネスのチャンス」だと助言した。日本が引き込まれたのは、その製造技術を利用するだけでなく、宇宙の軍事化に対する産業界の関与を深め、政策立案者とアナリストがよく使う言葉を借りれば「計画を確定する」ためでもあった』(「覇権か生存か」P330)
5 将来に向かい「予防戦争」の布石も
ところで、こんな疑問が湧く。「予防戦争」や国際通貨危機などの悪の報いから大赤字の国庫を抱えて切羽詰まって、背に腹は替えられぬアメリカはともかく、菅内閣も李内閣も、何故か彼らに従うのか。ウィキリークスが漏洩した情報ではないが、ご本人や周辺が何か、失脚並みの醜聞を摑まれて強迫でもされているのだろうとしか、僕には思えないのである。そうでもなければ、どうして、民主政権があっさりとマニュフェストを取り下げたり、ウィキリークスが示したような各国首脳個人の細かい情報をアメリカが入手したりということがあるのか、とも。脛に傷持つ政治家などは、すべからく潔く身を引くべきだ。こんなアメリカの世界戦略に抵抗することを諦めているような政治家、官僚、マスコミも皆同罪であろう。
なお、次のウィキリークス情報などは、ロシアも将来的な「予防戦争」の相手国になしうるということを示していると言えまいか。実際に戦争をしなくても、危機を作る為の材料という意味をも含めてのことだ。あの国の「プーチン・マフィア政権」ぶりはつとに有名で、今回またこれが、ウィーキリークス情報によっても証明されたことではあるし。
【NATOがバルト防衛策…ロシアと融和の裏で 暴露公電2010年12月10日
【モスクワ=副島英樹】民間告発サイト「ウィキリークス」が公開した米外交公電で、米欧でつくる北大西洋条約機構(NATO)が今年1月、エストニア、ラトビア、リトアニアの旧ソ連バルト3国やポーランドをロシアの侵略から防衛する計画を立てていたことが明らかになった。
NATOは11月のリスボン首脳会議で「ロシアは脅威ではない」と新行動指針でうたい、双方は連携強化の共同声明を出したばかり。ロシアのラブロフ外相は9日、「片方ではパートナーシップで合意し、片方で防衛の必要性をうたう。どっちが本心か」と批判、回答を求めると述べた。
防衛計画は「ロシアの脅威から東欧で最ももろい部分を守る」目的で、冷戦後初めて立案。米英独とポーランドが軍部隊を派遣し、同国北部とドイツの港が戦闘部隊や艦船の受け入れ基地になる。オバマ米政権は、ロシアを不必要に刺激するのを懸念して秘密裏に計画を進めたという。
ラスムセンNATO事務総長は9日、イタル・タス通信に対し、「ロシアは敵でも脅威でもない」と強調した。(asahi.com から) 】