06年にここにまとめた中国関連書物の要約連載を再掲し、昨日に続き3回連載の2回目になる。ただ他にも、このことを付け加えておきたい。退耕還林政策については、同じ06年9月3、5、7日にもここで連載していると。
これを再掲するのは、今問題になっているアジアインフラ銀行の近い将来を占う資料の一つにはなるだろうというような動機も関わっている。まー10年前を観て今を観れば、これからのことも多少分かるかも知れないという程度ではあるが。それでは、拙い物だが・・・・・
【「『激流・中国』に、日本は部外者ではいられないだろう」 その2 文科系 2006年07月29日
(「2 農家・農民問題を見てみよう」の続きです)
他に、農村虐待を示す三つの政策的大状況を見てみよう。
①農業向け国家支出総額は、80年の12%から7%へ。他に、地方財政から払われる分がねぎられてもいる。
②農村金融の空洞化は酷く、4大国有商業銀行の農村向け貸し付けは減り続け、現在融資はわずか5%。この他、農業信用社は不良債権が多く危機的状態にある。
③医療、衛生面の問題として、人口の6割が住むのに、政府の衛生関連支出は2割という数字がある。医薬品も都市95%に対し、農村消費はわずか5%だ。農民の9割は無保険の自己負担で、衛生部調査では治療、入院ができない、しないと報告されている。要治療の37%が治療を受け、要入院の65%が入院しているだけだ。
さて、こんな苦境にある農村が、各種「開発」のために土地も強制的に取り上げられている。開発区の乱立で、農村での地上げ、「圏地熱」(土地囲い込みブームのこと)が激烈である。補償が以下に見るように「構造的に」全く不十分なままになっているから、出稼ぎや、食えない失地農民が急増している。国営新華社通信では失地農民が3500万人と発表され、失地関係中央陳情が圧倒的に増えている。
こうして現在、農村の余剰労働力人口が1億5千万人とされ、出稼ぎが9800万人となったが、出稼ぎ農民へは、「構造的な」賃金未払いが頻発している。公共的建設事業を中心として、後払いが原則だからだ。未払い分の3分の1は地方政治が発注するプロジェクトにおいて発生している。建設バブルもいつ弾けるかと心配されるほどに、凄まじい。
3 背景としての中国の政治体質問題
最後に、地上げ反対運動の攻防などを見ることによって、中国で最も深刻な政治体質問題というものを紹介してみたい。以上に見た「農村虐待」の本質的な原因とも言えるものである。
まず最も具体的に1農民を例にとって、問題解明の初めとする。
最初は、04年刊行、後に発禁処分を受けたルポ「中国農民調査」(人民文学出版社刊)所収の丁作明事件である。安徽省路営村の丁は高卒のインテリ農民だ。年収の4分の1を地方政府が取り立て、支払わねば逮捕されるという現状に怒りを感じていた。「中央政府の新規定で、平均収入の5%を超える費用取り立ては禁止」と知った丁は、これを農民達に密かに告げて回る。村の最高実力者は村共産党支部書記で、郷長(村の1つ上の自治体単位の長)やその息子のチンピラ集団とぐるになって公私混同の悪事をはたらいていた。丁は郷党委員会、県党書記(県は郷のさらに上の自治体)に陳情し、村帳簿チェックを要求した。すると、村党支部書記と村民委員会主任(村長)の差し金で丁は逮捕され、警察で取調中になぶり殺しにされた。対して、7つの村から3000人の農民仲間が集まって抗議行動に出る。この事件が、国営新華社通信で報道され、やがて中央政府が調査を命じ、殺害人6名と県、郷の職員が逮捕された。
さて、こういう悪徳役人、党官僚の悪事が現在、圏地熱と呼ばれる地上げに集中しているのである。その悲劇の例をさらに見つめてみよう。
03年9月、これも安徽省から北京に陳情にきた朱正亮が天安門で焼身自殺を図ったが、その背景にはこんな事件があった。内装業を始める積もりで建てたばかりの自宅が立ち退きを迫られ、朱の不在中に総勢100名が押しかけて、取り壊されてしまった。在宅の妻は阻止しようとして100メートルも引きずり回されて血だらけになるし、親戚に助けを求めようと駆けだした息子も取り押さえられるという始末である。同じ問題を抱えた北京の大剛は「強制執行中止審査」に勝って執行延期通知まで受け取っていたにもかかわらず、取り壊しに遭っている。夜中に男達が押し入り、手足を縛り、外に放り出された上、あっという間に取り壊された。
このように、国への陳情では近年、立ち退き不服に関わるものが圧倒的に多く、03年には全国で50%増という有様である。なぜこのような事件が頻発するのか。】
(明日に続く)