イノチ S・Yさんの作品です
郵便受けに「迷子の猫を探しています」というチラシが入っていた。
全身と顔のアップ写真が刷られて、特徴がこと細かに記されている。迷子になったのは昨年の夏とあるから、一年半も行方不明になったままらしい。
何で今頃になって? 興味をそそられて読んでいると、なんと見つけた際の謝礼は二十万円とある。よくこういう広告は目にするが、謝礼金額が明確なのは初めてで、その高額なことに驚いた。改めて写真を凝視したが、どこにでもいそうなノラのような猫だ。
きっと飼い主にとってはかけがえのない存在なのだろう。
息子がチラシを覗き込んで訊いて来た。「もし、母さんが飼い主だったらいくら出す?」「一万円かな」と答えると「それはない」と言う。「じやあ三万円ぐらいかなあ」と言いながら、
〈まてよ.二十年ほど前に息子が海で溺れて救助された際、助けて下さったかたに、確か謝礼は三万円お渡しした気がする。命の重さってわからないし、気も動転していた。警察に訊いても、謝礼は気持ちで、というだけだったし……〉
この迷子の猫チャンはうちの息子の命より高いなあ。改めて考え込んだしだいだ。
郵便受けに「迷子の猫を探しています」というチラシが入っていた。
全身と顔のアップ写真が刷られて、特徴がこと細かに記されている。迷子になったのは昨年の夏とあるから、一年半も行方不明になったままらしい。
何で今頃になって? 興味をそそられて読んでいると、なんと見つけた際の謝礼は二十万円とある。よくこういう広告は目にするが、謝礼金額が明確なのは初めてで、その高額なことに驚いた。改めて写真を凝視したが、どこにでもいそうなノラのような猫だ。
きっと飼い主にとってはかけがえのない存在なのだろう。
息子がチラシを覗き込んで訊いて来た。「もし、母さんが飼い主だったらいくら出す?」「一万円かな」と答えると「それはない」と言う。「じやあ三万円ぐらいかなあ」と言いながら、
〈まてよ.二十年ほど前に息子が海で溺れて救助された際、助けて下さったかたに、確か謝礼は三万円お渡しした気がする。命の重さってわからないし、気も動転していた。警察に訊いても、謝礼は気持ちで、というだけだったし……〉
この迷子の猫チャンはうちの息子の命より高いなあ。改めて考え込んだしだいだ。