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随筆紹介 「古ミシン」    文科系

2016年10月27日 09時20分58秒 | 文芸作品
 古ミシン  H.Tさんの作品です

 友人や近所の方に会うと、このごろよく出る話題が物の始末。これがなかなか出来なくて、家族とトラブルにまでなってしまうこと。
戦中戦後には貧しいというか、食べ物も着る物もなくて、生きるのがやっとの時を過ごしてきた私達。“わかる、わかる”と皆頷くが、私も同じだ。物を整理しようと思っても、捨てなければと自分に言い聞かせても、疲れるだけ。

 そんな中で気になっているのが、若いころから愛用してきたミシン。足踏みで直線縫いだけの古ミシン。今はミシンも大きく変わり、電動式で、スイッチ・ポン。縫い方も色々出来て、場所も取らず、机の上で使える見た目にも美しい物ばかりだ。
 年を重ねた今の私は、ミシンを使って物を作ることはほとんどなく、部屋の片隅に置いたままになっているだけ。少し前、若い人が欲しいと言ってくれて、譲ることに決めたが、急な転勤でその話はお終い。
 それから何年かして、友人が使ってくれることになり、喜んだ私は、数年間も使ってなかったからきちんと準備してと、ミシン屋を探した。新機能満載のミシンはデパートに売っているのに、整備、修理をしてくれる所はなかなか見つからない。
 ある時若い人に頼んだら、数日後に、
「探したけど、今時古ミシンを直して使う人などいない。新しいのを買う方が安くつく」
「高い安いの問題ではないんです……。それに、これはSミシンです。一応ミシンの有名ブランドなんです」
「あら、ミシンにもメーカーがあるんですか」
「そうよ。伊勢湾台風で塩水に浸かった数多くの中で、使えるようになったのはこのブランドだけと話題にもなりました」
「伊勢湾台風って、いつの話ですか?」

いろんな人に尋ね、電話帳でも調べたが、見つからない。
 “捨てる文化”という言葉もあるというが、これは私が愛用してきた物。
 友人は「そのままでいい。私の方で整備も修理もするから」と言ってくれるが、私はきちんとして渡したい。
 やっと見つけた店に、私は行った。店先に新しい機種がずらりと並び、奥の方で七十歳を過ぎた主人が私の願いを聞いて下さり、ほっとしたその上に、
「見てあげましょう。やってあげましょう」と言われる。そして、「出張費……円」、「分解して、きれいにするのに……万円」、「友人の家までの運送代が……円」。
納得して欲しいと、念を押された。
そして、二、三日もしたらこちらから電話しますと言いながら、ミシンを持って行かれた。

 物を大切に、大事にすることは、心を豊かにすることだという。“もったいない”という言葉は、古語になってしまったのだろうか。調子が悪くなったら、おじさんが自転車で修理に来てくれた昔が懐かしい。
コメント (2)
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