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映画「チリの闘い」3部作を観た  文科系

2016年10月21日 08時20分15秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
 昨日名古屋シネマテークでのこと。アメリカが起こした1973年9月11日の世界史的クーデターを図らずも前段階から目撃、撮影することになった噂の3部作を観に出かけた。2回の休憩を挟んだ合計上映時間は、4時間を優に超えたと思う。選挙で生まれた史上初の社会主義政権、大統領を、軍部クーデターが倒したという、その始終を記録した映画である。要所の報告という形式で、以下を進める。

 チリにアジュンデ大統領が自由選挙によって生まれたのは、1970年11月。その時からテレビ・ニュース映画用に撮影を始めたものを編集して、繋いだ作品なのである。監督パトリシオ・グスマンが、史上初めてのこの「政治的実験」を記録に収めるべく各方面へインタビュー撮影などを行っていた、その成果というわけだ。
 第一部はまず、右派が総力を上げたアジュンデ政権不信任投票とその政権側勝利から始まっていく。この敗北から右派がいろんな政権破壊工作を強めていき、いずれも失敗した末に、二部の最後に大統領府への空爆、軍部突入、大統領殺害クーデーター完遂で終わるまでを描いている。三部は言わば、二部までの補完作品と言って良いだろう。

 僕のメモにある、これを書くために残した記録を中心に順不同で描いていくと・・・

① アメリカが、この国への輸出を急速に止めていき、最後には往時の15%程度に仕向けて行ったこと。これはつまり、国民生活を困難に陥れる目的、反政権感情の増大を狙ったものだったと解説されてあった。

② アメリカCIA工作員が、最多時40名入っていたこと。また金銭面では最高時500万ドルの政権転覆工作資金も流れたということ。

③ この国のGNPの2割を占める銅鉱山操業を反革命ストライキで都合75日間止めて、最大の外貨獲得手段を妨害したこと。これも、国民生活を困難にする政権妨害工作なのである。

④ 運輸業経営者団体がそのトラック使用を許さないというロックアウトを敢行して、細長いこの国の物流を止めることによって、国民生活を困難に陥れたこと。他にも、生活必需品の大量隠匿が全国的に摘発されるなどという民生妨害もあった。

⑤ 軍幹部将校らには、公然と政権反対を唱え、はなから文民統制には従わぬ姿勢を示していた者も多かった。軍幹部ら高級軍人が護憲派と反護憲派とに公然と別れていた。海軍には、護憲派が多かったとあった。なお、後に軍事政権首班となったピノチェトは、「護憲派幹部」と目されていたとあった。政変後に反憲法派の黒幕として正体を現した訳である。また、アメリカがチリ軍将校らをパナマの軍事訓練学校に招いて、教育、訓練してきたという暴露もあった。

⑥ 軍隊が次々と出動を始めて、労働組合事務所などを徹底的に捜査して、人民が武器を持っていないかどうかと調べ尽くしていったという事実も撮されていた。結局どこにも何も武器はないということを確認し続けただけだったのだが。

⑦ 一度大統領官邸を戦車で包囲して警護関係者と撃ち合いになり、22名の警護官を殺し、国民の反応を伺うという様子見を敢行している。つまり、武力による政権転覆があるだろうということは、クーデターのかなり前からもはや公然となっていたのである。

⑧ アジュンデ政権が和解の相手に選んで連立政権が成功しかけたカトリック教会(キリスト教民主党)の動きを潰したと言う数々の場面もあった。

⑨ 最後に、あの細長い国の沿岸部に4艘の米駆逐艦を集結させて、その上でチリ軍部が大統領府爆撃を始め、その後に官邸突入、大統領殺害に至ったということ。大統領に「降伏・亡命」が事前提案されていたが、彼がこれを拒否して敢えて官邸に入り、そこに籠もって射殺されたというのも史上有名な話である。自ら希望して彼と同じ道を往った警護官が20数名いたとも解説されてあった。


 この後の、政権側関係者、労組役員、共産党や社会党の党員などの逮捕、殺人などが起こっていったという事実は史上よく知られているが(競技場などに多数集められて、その後行方不明者多数がでたと聞いている)、その経過は当然ここには撮されてはいない。監督が映画と共に首尾良く亡命を果たしているからである。このカメラマンに献辞が捧げられていたから、彼は亡くなったのだろう。
 こうして史上初の選挙による社会主義政権誕生を追いかけ始めた映画が、政権転覆結末を撮ることによって終わったわけである。その後の軍事政権によって没収されずに済んだのは奇跡に近いと言われてきた映画である。
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