ハリル理解の一助に、旧稿を再掲してみることにしました。見られる通り、06年7月1日のドイツ・ワールドカップ、準々決勝のフランス・ブラジル戦、1対0で終わったゲームです。以下のように、世界一の個人技多士済々を誇るブラジルも、西欧勢にはよく負けるのです。14年ブラジルワールドカップ準決勝では、ドイツに1対7でやぶれましたし。この06大会はなお、フランスとイタリアの決勝戦となり、1対1の同点からPK戦でイタリアが勝ちました。
なお、以下のゲームでブラジルが敗れた訳に関わって、ハリルの代表戦略を理解する一つの鍵が潜んでいると愚考しているからこそ、これの再掲を思い立ちました。言いたいことを言っていますが、組織的シガラミがなにもない個人が、お金を取って書く文章ではないだけに本当に思っていることを書けるという文章。最後までお読み願えれば嬉しいです。
ただし、今回のチッチ監督になってからのブラジルは途方もなく強くなったと、これは是非強調しておきたいと思います。
『 サッカーの一観点──フランス・ブラジル戦総括から 文科系 2006年07月04日 | スポーツ
日本はサッカー(観戦)文化、さらに言えばスポーツ(観戦)文化の程度が低いと思う。贔屓チームの勝ち負けしか見ない。それではサッカーフーリガンと同じで、勝ち負けで喧嘩して、賭けて楽しむだけでよいというようなものだ。勝ち負けしか観ないから、点とその周辺のことしか観ない。だからホームラン打者にばかり注目するように、ブラジルにばかり注目する。野球解説でもそうだが、サッカー解説はなおさらそういうように程度が低いと思う。
バレーボールでこういうことがよく言われる。「素人はアタッカーばかり見る。ちょっと分かってくると良いアタッカーへのトスの出し手を見る。もっと分かった人はそのトッサーに良いパスを出している人を見る」と。何のことはない、アタッカーとは、敵の攻撃を上手く受け止め反撃に換える「名パッサー」から始まる一連の流れの「結果」だということだ。勝敗の原因はアタッカー以外の別の所を見ないと分からないということにもなる。良いアタッカーを揃えたブラジルがなぜ負けたのか。次の事実を見れば一目瞭然である。「ブラジルがゴール枠に飛ばしたシュートはたった1本」。これでは良いアタッカーを揃えても勝てるわけがないではないか。なぜこうなったか。アタッカーばかりを見る観戦法がいかに程度の低いものかということを示した絶好の例となるゲームとして、この試合の分析を試みたい。
ブラジルのエース、ロナウジーニョが全く活躍できなかった。点取り屋のロナウドは「フランスの知性にやられた」と語った。これらはフランスの「組織的防御」がどれだけ凄かったかということを示している。なお、サッカーの防御というのには、敵の得点を阻むということ以上に大切なことがある。「敵のボールを奪う」ということだ。ブラジルが枠に飛ばしたシュートが1本というのには、フランスの最後の防御戦がシュートを自由に打たせなかったという以上に「シュート体制以前に敵ボールを潰し、奪ってもいた」ということがある。誰が奪ったか。11人の知的防御組織で奪ったわけだが、狭義で言えば4バックと「その前の2人」とが協力しあって奪ったのである。2人とは、ビエラ(イタリアのユベントス所属)とマケレレ(イギリスのチェルシー所属)、知る人ぞ知る世界最高のボランチ(日本で言えば福西、稲本の位置・役目)二人である。ブラジルがフランスに足をすくわれるかも知れないと僕がここに書いたのは、この二人の存在に目を付けたからだった。ボランチとは攻守両方を組織する攻守の繋ぎ役、先述のバレーボールの言葉で言えば、「敵の攻撃を上手く受け止めて味方の良い攻撃に換える『名レシーバー・パッサー』」なのである。
これからサッカーを見るときは、味方が攻められているときの敵の球を奪う組織・機能やプレイヤーを見よう。サッカーとは敵の球を奪えなければ結局シュートまで持って行かれたり、味方の攻撃場面がなかなか来なかったりということになる。それではいくらアドリアーノがいても宝の持ち腐れである。現代サッカーではボランチこそ面白い。
ビエラとは、今年欧州チャンピオンズリーグで2位になったアーセナル(イギリス)で育ち、ボランチとしてはかってないような値段でイタリア最強チームにほんの最近買われていった名選手である。あのベンゲルが育てた最高傑作の1人だ。ちなみに、もう1人のベンゲルの最高傑作が今回ブラジルから点を取ったアンリである。
マケレレとは、世界最高チームと言われたレアルマドリッド(スペイン)のちょっと前の黄金時代を築き、現在の世界最高チームと言われるチェルシー(イギリス)に買われていった名選手。レアルからマケレレがいなくなってから、レアルが急に弱くなったと言われる、「無尽蔵の走りのエネルギー」、大事な大事な、まるで縁の下を一人で支えているような力持ち選手である。』
なお、以下のゲームでブラジルが敗れた訳に関わって、ハリルの代表戦略を理解する一つの鍵が潜んでいると愚考しているからこそ、これの再掲を思い立ちました。言いたいことを言っていますが、組織的シガラミがなにもない個人が、お金を取って書く文章ではないだけに本当に思っていることを書けるという文章。最後までお読み願えれば嬉しいです。
ただし、今回のチッチ監督になってからのブラジルは途方もなく強くなったと、これは是非強調しておきたいと思います。
『 サッカーの一観点──フランス・ブラジル戦総括から 文科系 2006年07月04日 | スポーツ
日本はサッカー(観戦)文化、さらに言えばスポーツ(観戦)文化の程度が低いと思う。贔屓チームの勝ち負けしか見ない。それではサッカーフーリガンと同じで、勝ち負けで喧嘩して、賭けて楽しむだけでよいというようなものだ。勝ち負けしか観ないから、点とその周辺のことしか観ない。だからホームラン打者にばかり注目するように、ブラジルにばかり注目する。野球解説でもそうだが、サッカー解説はなおさらそういうように程度が低いと思う。
バレーボールでこういうことがよく言われる。「素人はアタッカーばかり見る。ちょっと分かってくると良いアタッカーへのトスの出し手を見る。もっと分かった人はそのトッサーに良いパスを出している人を見る」と。何のことはない、アタッカーとは、敵の攻撃を上手く受け止め反撃に換える「名パッサー」から始まる一連の流れの「結果」だということだ。勝敗の原因はアタッカー以外の別の所を見ないと分からないということにもなる。良いアタッカーを揃えたブラジルがなぜ負けたのか。次の事実を見れば一目瞭然である。「ブラジルがゴール枠に飛ばしたシュートはたった1本」。これでは良いアタッカーを揃えても勝てるわけがないではないか。なぜこうなったか。アタッカーばかりを見る観戦法がいかに程度の低いものかということを示した絶好の例となるゲームとして、この試合の分析を試みたい。
ブラジルのエース、ロナウジーニョが全く活躍できなかった。点取り屋のロナウドは「フランスの知性にやられた」と語った。これらはフランスの「組織的防御」がどれだけ凄かったかということを示している。なお、サッカーの防御というのには、敵の得点を阻むということ以上に大切なことがある。「敵のボールを奪う」ということだ。ブラジルが枠に飛ばしたシュートが1本というのには、フランスの最後の防御戦がシュートを自由に打たせなかったという以上に「シュート体制以前に敵ボールを潰し、奪ってもいた」ということがある。誰が奪ったか。11人の知的防御組織で奪ったわけだが、狭義で言えば4バックと「その前の2人」とが協力しあって奪ったのである。2人とは、ビエラ(イタリアのユベントス所属)とマケレレ(イギリスのチェルシー所属)、知る人ぞ知る世界最高のボランチ(日本で言えば福西、稲本の位置・役目)二人である。ブラジルがフランスに足をすくわれるかも知れないと僕がここに書いたのは、この二人の存在に目を付けたからだった。ボランチとは攻守両方を組織する攻守の繋ぎ役、先述のバレーボールの言葉で言えば、「敵の攻撃を上手く受け止めて味方の良い攻撃に換える『名レシーバー・パッサー』」なのである。
これからサッカーを見るときは、味方が攻められているときの敵の球を奪う組織・機能やプレイヤーを見よう。サッカーとは敵の球を奪えなければ結局シュートまで持って行かれたり、味方の攻撃場面がなかなか来なかったりということになる。それではいくらアドリアーノがいても宝の持ち腐れである。現代サッカーではボランチこそ面白い。
ビエラとは、今年欧州チャンピオンズリーグで2位になったアーセナル(イギリス)で育ち、ボランチとしてはかってないような値段でイタリア最強チームにほんの最近買われていった名選手である。あのベンゲルが育てた最高傑作の1人だ。ちなみに、もう1人のベンゲルの最高傑作が今回ブラジルから点を取ったアンリである。
マケレレとは、世界最高チームと言われたレアルマドリッド(スペイン)のちょっと前の黄金時代を築き、現在の世界最高チームと言われるチェルシー(イギリス)に買われていった名選手。レアルからマケレレがいなくなってから、レアルが急に弱くなったと言われる、「無尽蔵の走りのエネルギー」、大事な大事な、まるで縁の下を一人で支えているような力持ち選手である。』