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書評『人新世の「資本論」』(1)  文科系

2021年02月21日 19時45分29秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など

 水野和夫、白井聡、そして佐藤優までが晩年マルクス(研究)のその先へ到達したとも認めたこの本の要約をする。著者の斉藤幸平は、ベルリン・フンボルト大学の博士課程を修了した哲学博士で大阪市立大学准教授、1987年生まれとある。今回は、昨年9月第1刷発行にして、この2月13日で第8刷となったこの本について、全8章の内3章までを要約したい。
 なお、人新世の意味はこういうもの。地球の地質年代の新生代第三紀を5つに区分した最後の時代を鮮新世(530万年~180万年前まで)というが、それに習って「人がすっかり換えてしまった今という地球年代」の意味で良いのだろう。「こういう地球時代に対して、マルクスの晩期資本論研究がこういう意味を持つ」という壮大な書ということになる。

第1章 気候変動と帝国的生活様式
 資本主義唯一の延命法であった新自由主義は、その負荷すべてをいわゆる南部の国々に押しつけて、帝国国民には見えないようにされている。南は食料も水も奪われ、気候被害を受けても、守る技も持っていない。

第2章 気候ケインズ主義の限界
 ケインズ主義とは新自由主義の「供給サイド経済」に対して「有効需要創出経済」とも言われてきたが、これに気候の語を冠する斉藤はこんな意味を付与している。今のグリーン・ニューディール政策などがこれに当たるが、「緑の経済成長という現実逃避である」と。この観点が後の章において、今必要な脱成長視点が欠けたリベラル風の生産力主義でもあると説いていくことになる。
 なおここで、ロックストローム研究チームが提唱したプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)というものが、9項目に渡って説かれている。気候、生物多様性、窒素・リン循環、土地利用、海洋酸性化、淡水消費量、オゾン層、大気エアロゾル、化学物質汚染である。これらを挙げて著者は、脱成長という選択肢を強調する。

第3章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
「生活の質と環境負荷の相関関係」で各国がどういう位置を示すかを表した図表がある。環境負荷では、アメリカ、イベリア半島2国、ギリシャが突出、生活の質では、オランダ、オーストリア、フランス、北欧2国、ドイツ、日本などが高い。また例えば、この11国のなかでは、ドイツ、日本で環境負荷が他国よりも1~2ポイント低くなっている事などが読み取れる。逆に、いずれも低いのが、こんな国々だ。フィリピン、イエメン、バングラデシュ、ネパール、チャド、ザンビア、アンゴラ・・・。
 その上で、資本主義の枠内での脱成長などはありえないとしてこんな「しわ寄せされた南部」の現状を示し、脱成長の定常型経済を説いていく。
・総供給カロリーの1%で8億5000万人の飢餓が救える。
・電力が利用できぬ13億人を救っても、CO2は1%増えるだけだ。
・1日2・5ドル以下で暮らす14億人を救っても、世界所得の0・2%再配分で済む。

 こういう現状に対する 「四つの未来の選択肢」が次のように提示される。①気候ファシズム、②野蛮状態、③気候毛沢東主義、④X。
 このXに、著者は「マルクスと脱成長を統合する必然性」、「(そういう)コミュニズム」を持ってくるのだ。つまり、以上の論点への答えが、資本論第一巻より後のマルクスの論考の中に潜んでいると説いてそのことを展開していく、そういうこの本のまさに本論として『第4章〝人新世〟のマルクス』がある。次回の最初は、第3章におけるこの四つの選択肢の解説から始めることにする。

 

(多分、全三回続きになります)

 

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