古書をテーマにした,あるいは古書店を舞台にしたものは国内外のミステリの一大ジャンルである.たまたま 手にした国内の三冊.どれも短編集.
「古書に淫する」,淫して商売にすることをテーマにしたのは,「せどり男爵」だけである.著者の造語ではなさそうだが,「せどり」という語感が良いし,侯爵でも伯爵でもなく,男爵というところが良い.1974年オール読物連載とのことだが,どこかに残っている戦後のカストリ雑誌の匂い ? が懐かしい.最近のベストセラー,ビブリア・シリーズにもせどり屋が登場していた.
せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫) 梶山 季之(2000/6)
ワゴン・マスターズというバンドが頭にあって,一瞬「東京バンドワゴン」はバンド小説かと誤解した.大所帯の古本屋一家のホームドラマに,ミステリっぽくちょっと味付けした感じ.語り手がおばあさんの幽霊というのが目新しい.シリーズ化され6作まで刊行されている,登場人物はしだいに歳をとっていくらしい.そのうち,おじいさんも語り手側にまわるのだろうか.
東京バンドワゴン (集英社文庫) 小路 幸也(2008/4)
宮部みゆきはやはり上手いけれど,殺人(あるいは殺人未遂)を短編で扱うのはやはり無理かな.本は集めるものではなく,読むものであるという,真っ当な思想が表に出ている.祖父が探偵役で,その孫が年上の女性とどうにかなるのかと思ったら,やはり真っ当に解決されてしまった.私的ベストは「歪んだ鏡」.「うそつき喇叭」という短編に出て来る童話は実在するのかとググってみたら,おなじ思いの方が多数おられたことがわかった.
淋しい狩人 (新潮文庫) 宮部 みゆき (1997/1)