ディーリア・オーエンス,友廣 純訳「ザリガニの鳴くところ」早川書房 (2020/3,
ハヤカワ文庫NV 2023/12).
出版社による紹介*****
ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。
6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。
以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。
しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく...
みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。
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このミステリーがすごい 2021 海外 第2位 / 週刊文春ミステリー 2020 第2位 / ミステリ・ベスト・ランキング 海外 第3位 / ...
この手のランキングで本書を意識していたのが,今になって図書館で単行本を借り読.
本書の価値はミステリとしてではなく,もっと一般的なところにあると思う.2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位が妥当だろう.
ちなみに単行本には目次がない.最終章を除き章タイトルは年号で始まり,死体が発見される 1969 年から (a) と,幼いヒロインが母親に見捨てられる 1952 年以降 (b) を行きつ戻りつしながら進む.
(a) の部分は「湿地の少女」の成長物語.
舞台は湿地・沼地とその生物相.著者の専門は動物行動学だそうだ.作品には瀕死の仲間にいっせいに襲いかかる七面鳥,交尾相手のオスをむさぼり食うメス カマキリ,といった記述があり,こうした視点から登場人物たちの言動を観察する場面も多い.
貧乏白人 white trash への差別,人種差別,ジェンダー問題と DV といったバックグラウンドが物語に社会性を与えている.
(b) 部分がミステリ.アメリカ映画によくある裁判場面がやはりおもしろい.最終章 2009 年,ヒロインの死後 殺人の真相が明かされるが,ミステリとしては意外性がない.
でも白状すると,ぼくの場合 (a) が続くとだれてしまい,年号が 1969 以降で始まる章 (b) になると読書のスピードが上がった.
文中で少年テイトが少女カイアに「ザリガニの鳴くところ」を「茂みの奥深く,生き物たちが自然のままの姿で生きてる場所」と説明している.
Kindle 英語版を買ってみようかな.
原題 Where the Crawdads Sing の sing は鳴くか,歌うか.英語では小鳥が鳴くのは sing だから,ここでも「鳴く」なんだろう.
作品の構成は,I 湿地 / II 沼地 だが,この2語は英語ではなんと言うんだろう.