【社説②】:RCEP承認案 農業軽視の拙速な審議
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:RCEP承認案 農業軽視の拙速な審議
国内農業をさらなる自由化の波にさらす巨大自由貿易協定が十分な議論もなく発効へ進んでいる。
日本や東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国による地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の承認案が衆院を通過し、参院で審議入りした。
日本にとって貿易額1、3位の中国、韓国と結ぶ初の自由貿易協定だ。発効すれば国内総生産(GDP)が世界全体の3割を占める巨大な経済圏が誕生する。
それなのに衆院審議は8時間にすぎない。米国を含んでいた当時の環太平洋連携協定(TPP)の1割ほどで、あまりに拙速だ。
政府は日本が輸入するコメや牛肉など重要5品目を関税削減・撤廃の対象外としたことから、国内農業への影響はないと説明する。
ただRCEP参加国は農業国が多く、野菜や果物を中心に国内農業生産の減少額が5千億円を超えると指摘する専門家もいる。
協定は憲法の規定により衆院通過後30日で自然承認されるが、これでは産地の不安は置き去りだ。参院での徹底審議が求められる。
協定発効で日本の工業品の多くが段階的に関税撤廃となり、特に自動車産業への恩恵は大きい。
政府はGDPを2・7%押し上げる経済効果があると試算する。
だが、それが農業を犠牲にして得られる成果なら見過ごせない。
日本が輸入する農林水産品の関税撤廃率は49~61%で、TPPを下回ってはいる。しかし、重要品目まで市場開放したTPPや欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)と比べても仕方ない。
今回は対象外とした重要品目も、生産が多いオーストラリアやニュージーランドはRCEPとTPPの両方に参加している。
さらに心配なのは、RCEP参加国で生産が盛んな野菜や果物に撤廃となる品目が多いことだ。
その中には転作農家や新規就農者の経営を支える高収益作物も目立つ。道内が主産地のアスパラガスやブロッコリーなどもある。
政府は韓国の野菜を基本的に撤廃対象から外し、中国産もタマネギなど国内生産団体が加工・業務用で巻き返したい品目を外したという。それでも各国は撤廃品目を狙い輸出戦略を練り直すだろう。
それにどう対応するのか。
品目ごとの影響分析や対応策はほとんど議論されていない。そもそも政府は農業への影響を試算すらしておらず、理解に苦しむ。
戦略も準備も不十分なまま市場開放を加速させてはならない。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年04月25日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。