《社説①・02.03》:戦後80年 曲がり角の社会保障 安心守る仕組み再構築を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・02.03》:戦後80年 曲がり角の社会保障 安心守る仕組み再構築を
戦後の社会保障制度は、家族と企業が果たす役割を前提に形作られてきた。だが、社会のあり方が大きく変わり、制度の持続性が問われている。
北九州市中心部で1月、福祉施設「希望のまち」の起工式が行われた。計画を進めるのは、生活困窮者支援に取り組むNPO法人「抱樸(ほうぼく)」だ。2026年夏のオープンを目指している。
2、3階は生活困窮者らを受け入れる。1階には地域の人のための相談・支援窓口を設け、子どもや障害のある人たちに居場所を提供する。
さまざまな人が集まるようにレストランを併設し、まちづくりの知識を持ったコーディネーターも常駐する。地域の人たちのつながりを促す拠点とするのが狙いだ。
◆家族と企業の機能低下
日本の社会保障は、生存権を保障した憲法25条が出発点となった。1961年に国民皆保険と皆年金が達成され、老人医療費が無料化された73年は「福祉元年」と呼ばれた。
介護や育児に関する制度整備は遅れていたが、かつては3世代が同居する大家族が支えていた。家族の存在は、78年の厚生白書で「福祉の含み資産」と位置づけられていた。
だが、高齢化と核家族化が進み、こうした機能が弱体化した。その役割を社会で分担するために介護保険制度が創設され、子育て支援策が整えられた。
一方、企業は、終身雇用などで老後も含めた生活を保障してきた。だが、グローバル化の進展に伴う競争激化で、そうした余裕を失ってしまった。さらに、非正規雇用が増え、働き手の暮らしはますます不安定になっている。
家族と企業が果たせなくなった役割を代替する。それが抱樸の取り組みと言えるだろう。
とはいえ、高齢化や貧困問題の深刻化で社会保障の需要は増える一方だ。多様な公的サービスの整備は進んだものの、制度自体が使いにくいという問題が顕在化してきた。
支援を必要とする人は、原則として役所などに出向いて申請しなければならない。だが、どのようなサービスがあるのかを知らない人や、高齢者など自分で対応することが難しい人もいる。
申請に至るまでのハードルの存在について広く問題提起しているのが、NPO法人「Social Change Agency」だ。代表理事で社会福祉士の横山北斗さん(40)は、制度を使う上でのサポートが必要だと訴える。
その一つとして、これから社会に出る中高生を主な対象に、ゲームを通じて社会保障制度の使い方や、相談窓口について啓発する取り組みを進めている。
例えば、家賃が支払えなくなった場合には、自治体から補助を受ける仕組みがある。横山さんは「困った時に、使える制度を探せるようになってほしい」と話す。
デジタル技術の活用も有効だ。自治体が住民のスマートフォンなどにサービスを通知し、利用を促すプッシュ型の取り組みも広がっている。
政府も、携帯電話の料金の支払いが遅れている利用者に相談窓口の情報が届くよう、事業者に要請している。
◆制度の持続性高めねば
社会保障は転換期を迎えている。25年には団塊の世代が全員75歳以上となり、医療や介護費用が膨らむ。40年には団塊ジュニア世代が高齢期に入り、65歳以上の人口がピークを迎える。
さまざまな制度は、保険料と税で支えられている。今後も高齢化が進む中、今の制度のままでは現役世代の負担が過大になる。
その一方で、現役世代は社会保障のメリットを高齢世代よりも感じにくい。このため、世代間の対立をあおるような声も出ている。
だが、だれもが年を重ねる。病気や失業といったリスクもあり、いつ支えられる側に回るか分からない。
安心して暮らせる社会をいかに作り上げていくか。社会保障制度の持続性を高めるには、負担とサービスのあり方について議論を深めなければならない。
互いに支え合うという原点に立ち返る時だ。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年02月03日 02:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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