【社説①・03.08】:国際女性デー/分断の「嵐」を招かないために
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.08】:国際女性デー/分断の「嵐」を招かないために
きょう、50周年となる国連の「国際女性デー」を迎えた。
近年、無視できない動きが顕著になってきた。ジェンダー平等や多様性を重視する取り組みに対して、不満や反発、時に嫌悪感がぶつけられる。男性からも、女性からも。
それはインターネットの世界にとどまらない。平等や公平をめぐる人々の衝突が、現実社会で可視化されるようになった。海外では、政治家が国民の不公平感をあおる事態も生じている。
意見の対立を超え、対話する努力が必要だ。簡単ではないが、怠れば社会が分断の「嵐」に巻き込まれかねない。性別による差別をなくし、女性も男性も生きやすい社会を目指す意義を、改めて認識したい。
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伝統的に政治デモが盛んな韓国で変化が起きている。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾を求めるデモに、20~30代の女性が詰めかけているのだ。大統領への積もり積もった不満が、昨年12月の非常戒厳の宣布で爆発した。
尹氏は、2022年の大統領選でジェンダー平等の推進を担う「女性家族省」の廃止を公約に掲げた。政権に就いてから、女性政策を後退させてきた。「女が優遇され、男が不利益を被っている」と考える若い男性の支持を得るためだ。性差別が根強く残る韓国で、女性たちが怒るのは無理もない。
■男性たちの不平等感
一方、権利を主張する女性への反感から、男性の保守化が進んでいるようだ。今年1月、大統領の逮捕状を出したソウル西部地裁を尹氏の支持者らが襲撃した事件には、多数の若い男性が加わったとされる。若年層の男女間で政治的な対立が先鋭化しつつある。
神戸大大学院の木村幹教授(朝鮮半島地域研究)は、韓国社会の混乱と分断は長期化するとみる。「根底には徴兵制をめぐる男性の不公平感がある。将来不安が高まる中で若い男性が被害者意識を募らせ、それを保守政党が戦略的に利用した」
差別是正のために対話を促し、妥協点を探りつつ前進させるのが政治の役割だ。対立に火を注ぐ状況は、極めて危険というほかない。
米国の現状も深刻である。トランプ大統領は、性別や人種、性的指向などの多様性に配慮した前政権の政策をすべて取りやめた。「女性や有色人種の優遇策は逆差別だ」という白人男性の不満に応えた。
トランプ氏は大統領選期間中も女性をおとしめる発言をやめなかった。呼応するように、「台所に戻れ」といった女性蔑視の投稿や誹謗(ひぼう)中傷が交流サイト(SNS)で急増したとの調査報告がある。
どうすれば対話の糸口を見つけられるのか。
■未来志向で話し合う
ジェンダー論が専門の関めぐみ甲南大准教授は「日本の場合、ジェンダーギャップ(男女格差)が依然大きく、是正が不可欠」とした上で、こう語る。「女性への配慮が男性に不平等感を与える場合があり、説明が重要になる。男性のしんどさに目を向けることも大切ではないか」
男女格差の解消に力を入れる豊岡市は、3月中に「多様性推進方針」を策定する計画だ。住民のさまざまな違いを尊重し、市の施策に多様な視点を取り入れるための指針となる。市民や市職員、有識者らの検討委員会が、たたき台をまとめた。価値観の違いなどから取りまとめに苦労したという。
同市くらし創造部の担当課長、木内純子さんは「古い価値観を全否定せず、未来志向で話し合うように努めた。子や孫が自由で幸せに生きられる地域を目指そうと呼びかけた」と振り返る。たたき台には、無意識の偏見への気づきや、さまざまな背景を持つ住民同士の交流を促すことなどが盛り込まれた。
性差別的な意識は、濃淡の差はあれ誰もが心のどこかに持っている。それを前提に、異性も同性も互いに歩み寄る努力を重ねたい。パイを奪い合うのではなく、分け合うための知恵や工夫が求められている
元稿:神戸新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月08日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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