【社説・11.15】:医師の偏在/実情に応じ将来像を示せ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.15】:医師の偏在/実情に応じ将来像を示せ
高齢者人口がピークを迎える2040年代に向け、17日投開票の兵庫県知事選では地域医療の将来像も問われる。選挙戦では少子化対策や若者支援が注目されがちだが、高齢者の医療をどう支えるかも避けて通れない大きな課題である。
近年は医師不足が社会問題となり、国は医学部の定員を広げて増員を図ってきた。しかし、いまだに解決しないのは、地域や診療科間で医師数の偏りがあるからだ。
厚生労働省は都道府県や医療圏ごとに医師の充足状況を示す「偏在指標」を公表し、下位の少数区域を重点的に支援してきた。全国17位の兵庫県は多数区域の一歩手前に位置する。医療圏では神戸、阪神、東播磨が多数区域、播磨姫路などほかの地域は中程度区域に分類され、差し迫った状況にはないとされる。
「偏在指標は地域の実態を正確に反映していない」。兵庫県佐用町の尾﨑病院院長、尾﨑公彦さん(64)はこう指摘する。同じ医療圏の中にも医師の偏りがあるからだ。
佐用町がかつて属していた西播磨医療圏は、姫路市内の医療機関にかかる患者が多いなどの理由で中播磨医療圏と統合された。兵庫県の試算によると、旧西播磨の医師偏在指標は旧中播磨の7割程度で、地域の交通網が先細る中、格差が住民に重くのしかかっている。
医師の偏りを緩和するため、県はへき地などへの赴任を条件に学費を援助する「養成医師」を大幅に増やした。しかし、派遣先は公立病院に限られ、佐用町のように私立病院しかない地域は直接の恩恵が少ない。
尾﨑さんは「地域の過疎化と医師の高齢化が進行し、将来は私立病院の経営が立ち行かなくなる恐れがある。民間同士の病院統合を支援するなど、県には中長期的な制度設計を求めたい」と話す。
医療や福祉を一体的に提供する「地域包括ケアシステム」のてこ入れも不可欠だ。医療機関と高齢者施設などが協力し、家庭事情などによる「社会的入院」を減らさなければ、必要とする人に医療が届かなくなる恐れがある。出先機関を含めた県の調整機能強化は喫緊の課題だ。
旧五国にまたがる兵庫の医療をどう守るか。地域によって異なる課題をつぶさにくみ取り、国や各市町、関連団体などと連携しながら柔軟に対応する力量が、県のトップには求められている。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月15日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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