【社説】:ローカル線赤字公表 国も再生ビジョン示せ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:ローカル線赤字公表 国も再生ビジョン示せ
鉄道という社会インフラをどこまで維持するか、現実的な議論を尽くす時だ。
JR西日本がおととい、利用客の減少が目立つ芸備線など17路線30区間の収支を初めて公表した。1キロ当たりの1日平均乗客数が2千人未満の路線で、在来線総距離の約3割に当たる。
過疎地を走る路線のため、全てが赤字だ。その合計額は247億円に上る。JRの厳しい経営実態を裏付けた形である。
鉄道は通勤通学などを支える地域の公共財にほかならない。不採算を理由に切り捨てることは許されない。
さりとてJR各社は、政府が国鉄を分割して発足させた民間企業だ。公共性や経緯を踏まえれば、再生議論はJRと自治体だけに任せられるものではなかろう。政府が両者と向き合いながら主体的に取り組むべきだ。
JR西は2020年度の2332億円の赤字に続き、21年度も最大で1165億円の最終赤字になる見通しだ。大都市部の利益で過疎地の持ち出しを穴埋めしてきた経営は、コロナ禍で大きく傷んでいる。
今年春は過去最大の減便にも踏み切った。「地域交通体系を地域と共に創り上げていく」というが、JR単独では赤字ローカル線の維持は難しいと白旗を揚げているに等しい。
30区間のうち芸備線東城―備後落合間は平均乗客数が11人と最少だった。人口減に加え、自家用車の普及もあり、1987年の50分の1に激減している。
100円を稼ぐため、2万5千円以上の費用がかかる現実は驚きだ。生半可な利用促進策ではとても再生はできまい。
政府は、地方鉄道の将来を踏まえた有識者会議を設けて議論を始めている。その中でバスの費用負担が鉄道の10分の1に抑えられる試算も示された。場合によっては、鉄道からバスに切り替えるなど、抜本的な見直しが視野に入るだろう。
それでも、政府には鉄道が存続できるよう知恵を絞ってもらいたい。海外で一般的な「上下分離方式」も選択肢の一つだろう。鉄道施設を自治体が所有し、鉄道会社は運行に専念するという手法だ。財政基盤が弱い自治体には重荷になるが、政府が柔軟な財政支援を行えば導入の可能性は広がるはずだ。
JRも長い目で取り組む必要がある。コロナ禍で経営は厳しいだろうが、廃線ありきではなく、再生前提の議論でなくては住民の信頼は得られまい。
鉄道の底力は侮れない。今回の対象路線ではないが、西日本豪雨では呉線が寸断し、都市機能が長期間不全になった。
赤字路線が主要幹線の不通時に迂回(うかい)路となることもある。大量輸送が可能な鉄道貨物が、運転手不足のトラック業界に対し、巻き返すこともあり得る。全国に連なる鉄道網が再生の契機になる可能性は小さくない。
そもそも公共性より経済性を重視して国鉄を分割したのは政府である。経済の負の側面が強まったからといって、安易に路線廃止を認めることは無責任ではないか。鉄道事業法の「利用者の利益を保護するとともに、鉄道事業等の健全な発達を図る」目的にも反している。
鉄道の維持は国策といえる。赤字ローカル線の将来はどうあるべきか。政府がまず明確な再生ビジョンを示すべきだ。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年04月13日 06:25:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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