《社説②・02.01》:仮装身分捜査の導入 乱用防ぐ仕組みを確実に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・02.01》:仮装身分捜査の導入 乱用防ぐ仕組みを確実に
新たな捜査手法が乱用されないための仕組みが必要だ。
「闇バイト」による強盗事件などを摘発するため、警察庁が「仮装身分捜査」を導入した。捜査員が身分を偽って応募し、犯人グループに接触する。
雇われたふりをして情報を入手し、実行犯らを検挙するのが狙いだ。警察官の応募があるかもしれないと思わせ、犯罪を抑止する効果も期待されている。
闇バイトの募集では、応募者の個人情報を把握する目的で、身分証明書の画像を送信させるケースが多い。
このため、架空の顔写真や氏名を記載した運転免許証、マイナンバーカードなどを都道府県警が作製し、捜査員が使う。
本来は公文書偽造などの罪に当たる行為だ。警察庁は「正当な業務による行為は罰しない」とする刑法の規定を根拠に、違法にはならないと説明している。
これでは、捜査活動の一環であれば、何をしてもいいということになりかねない。非常に問題のある解釈だ。
仮装身分捜査については、警察庁の実施要領で、インターネット上で実行犯を募集する強盗や詐欺などが対象とされた。
さらに「他の方法では犯人の検挙が困難な場合」に限られる。都道府県警の担当部門が実施計画書を作り、本部長の承認を得ることも明記された。
ただ、警察内部のルールに過ぎない。対象が、なし崩しに広がっていくことも懸念される。市民活動の監視などに悪用されるリスクもある。
恣意(しい)的な運用を防ぐには、法律で要件や適用範囲を規定すべきだ。裁判官ら第三者によるチェックも欠かせない。
捜査現場での課題もある。実行犯らを逮捕するタイミングが遅れれば、取り返しのつかない事態を招く恐れがある。
仮装身分捜査の導入は、昨夏以降に相次いだ闇バイト強盗を受けて、短期間で決まった。必要性や問題点に関する議論が不十分だったのではないか。
警察は、犯罪捜査や治安維持で大きな権限を持つ。慎重かつ公正に行使しなければ、市民の信頼が損なわれる。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年02月01日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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