【HUNTER・12.05】:【鹿児島県警の闇】:見過ごされた「巡回連絡簿」悪用の大罪
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・12.05】:【鹿児島県警の闇】:見過ごされた「巡回連絡簿」悪用の大罪
福岡市内の自治会の掲示板に「県民の皆様へ」「巡回連絡にご協力をお願いします。」と記された文書が貼ってあった(*下の写真)。交番の警察官が管轄内の各戸を訪問して作成する『連絡カード』への協力を呼びかけるものだ。連絡カードや『巡回連絡簿』は犯罪防止や実際の捜査において貴重な資料となるものだが、住民が警察に個人情報を渡すにあたって前提となるのは「信頼関係」。集まった情報を警官が悪用すれば、情報を渡した住民は“犯罪者”の餌食になる。福岡では安心して協力できそうだが、鹿児島県ではそうもいかない。同県で巡回連絡簿を使ってストーカーという犯罪行為に走った警官は、逮捕もされず、「懲戒処分」にさえなっていないからだ。
■見過ごされた「巡回連絡簿」の悪用
周知の通り、警察が作成する『巡回連絡カード』もしくは『巡回連絡簿』は、警察官が住人から聞き取った氏名や家族構成などを記入する「個人情報」のかたまりだ。住民が、通常なら絶対他人に教えない情報を与えるのは、相手が制服を着た警察官だからこそ。来訪者が民間人であれば絶対に成立しない話である。
警察は連絡カードに記載された情報を、地域社会の安心安全に役立て、またある時は犯罪捜査に利用する。情報提供の前提となるのは、「警察は正義」という当たり前の理屈であり、そこに依拠した「信頼関係」だ。しかし鹿児島県では、その前提を覆す事件が起きており、何を信じればいいのか分からない状況となっている。原因を作ったのは、元生活安全部長の公益通報によって明らかとなった「巡回連絡簿」を悪用した警察官によるストーカー事件である。
不祥事の舞台は鹿児島県霧島市。同署地域課所属で駐在所に勤務していた30歳代の男性巡査長(当時)が、業務を通じて不正に取得した『巡回連絡簿』の個人情報をもとに悪質なストーカー行為を行なっていた。事件の詳細はこうだ。
同巡査長は一昨年4月、パトロール中に立ち寄った事業所で一般の20歳代女性と知り合う。当初は月に一回程度の巡回の際に世間話をする程度の関係だったが、およそ1年を経た昨年4月ごろから、2人は個人的にLINEのやり取りをする間柄となった。巡査長が駐在所の巡回連絡簿から女性の個人情報を不正入手し、携帯電話番号にメッセージを送信したのがきっかけだったとされる。
女性に対し頻繁にLINEを送るようになった巡査長は、仕事の休みを聞き出したり「抱いていい?」などと不適切なメールを送信する言動に及び始める。女性は努めて当たり障りのないメッセージを返していたが、その後も食事の誘いやラブホテルなどについて尋ねるメールが送られてくるようになったため、昨年暮れになって交際相手だった別の警察官に被害を相談した。この「交際相手」が警察官だったことで、事件は県警の知るところとなる。本部人身安全少年課の調べに対し、巡査長は「若くて好みのタイプだったので男女の関係になりたかった」などと供述、不適切な言動があったことを認めるに到った。
事件の調べにあたった県警本部は、巡査長本人の供述やメッセージの記録などから、一連の行為がストーカー規制法に抵触するものであることを確認。年が明けて本年1月に捜査員3人が被害女性宅を訪ね、女性と両親に謝罪した上で捜査状況などを説明していた。
この訪問からさほど時間を経ていない2月上旬、立件されないまま捜査は唐突に終了する。被害女性が事件化を望まない意向を示したためだという。女性の本意は判然としないが、県警にとっては“警察官による犯罪の隠ぺい”に好都合な結論だったと言ってよい。
ただし、『巡回連絡簿』が犯罪に使われたという事実は極めて重い。前述したように、警察が作成する『巡回連絡簿』や『連絡カード』は、地域社会の安心・安全を守るための重要な資料であり、それが犯罪に利用されたとなれば全国の警察行政に多大な悪影響を及ぼすからだ。鹿児島での出来事だったためか全国的に注目を集めることはなかったが、これが東京や大阪だったら大ニュースになっていただろう。
それほど重大な意味を持つ『巡回連絡簿』を使った警官の犯罪行為だったが、鹿児島県警が当該警察官に下したのは懲戒処分にも至らない「本部長訓戒」という“監督上の措置”だった。警察一家の庇い合いというより、事実上隠ぺいした警官の犯罪を過少化するための手段だとみるべきだろうが、この件に関する地元メディアの反応は鈍かった。意図的なのか意識が低いだけなのか分からないが、重要な課題を“見過ごした”ということだ。
ちなみに、警察組織以外の大半の地方自治体における“監督上の措置”あるいは“行政上の措置”は、『処分』と解されていない。自治体側に確認を求めると、「措置は処分ではありません」という答えが返ってくるのが普通だ。あたかも厳しく対応したと映るよう、警察組織が「措置」を「処分」に含めているだけ。騙されてはいけない。
■公表資料からみえる鹿児島県警の思惑
ところで、冒頭で紹介した福岡県警の巡回連絡カード作成への協力依頼は、同県警のホームページ上でも閲覧が可能だ。それが下の画像である。
《個人情報の保護は大丈夫?》の項目には、《皆様からお聞きしたことや巡回連絡カードに記載していただいた個人情報については、皆様の日常生活の安全と安心の確保に役立てる目的以外のことには絶対に利用することはありません。》とある。福岡県警が個人情報保護を保障したということだ。制服警官の訪問を受けた県民の大半は、この一文の内容を疑うことなく協力するだろう。しかし、今年10月に鹿児島県警がホームページ上で公表した「巡回連絡」に関する内容は、下の画像の通り県民への協力要請ではなかった。
昨年9月に国家公安委員会が定める「地域警察運用規則」が改正されたことを受け(⇒警察庁公表文書)、交番及び駐在所の配置人員基準見直しや巡回連絡の実施方法の見直しを図るという内容だ。巡回連絡簿については《各戸の居住実態については、これまで地域警察官が巡回連絡の際に把握していましたが、今後は警察署の窓口等を訪れた住民に対し、他の警察職員が同意を得た上で、巡回連絡カードに家族構成等を記載してもらい、これを受持の地域警察官に引き継ぐといった取組が可能となります。》と記されている。他の都道府県警のホームページをチェックしてみたが、鹿児島のように「巡回連絡」の実施方法が変わるということを告知したものは見当たらなかった。
巡回連絡簿を悪用したストーカー行為によって県民の信頼を失った鹿児島県警は、警察署内で「同意」を得てから巡回連絡簿作成にあたるということを強調したかったようだ。しかし、この書きぶりだと巡回連絡簿の「任意性」や「安全性」が担保されたとは言えない。そもそも、巡回連絡簿を悪用した犯罪行為を、“被害者の意思”のせいにして立件せず、犯行に及んだ警察官を懲戒免職にもしなかった組織を誰が信用するのか?(中願寺純則)
元稿:HUNTER 主要ニュース 社会 【社会ニュース・話題・鹿児島県警が抱える数多くの疑惑】 2024年12月05日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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