路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

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【社説①・01.01】:80年を越えて 「戦後」を積み重ねていく

2025-01-03 06:05:40 | 【第二次世界大戦・敗戦・旧日本軍・広島、長崎原爆投下・核兵器禁止条約

【社説①・01.01】:80年を越えて 「戦後」を積み重ねていく

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・01.01】:80年を越えて 「戦後」を積み重ねていく 

 新年を一編の詩から始めたい。

 昨年92歳で亡くなった詩人の谷川俊太郎さんに「戦争と平和」という作品がある。

 戦争と平和は結婚している。夫である戦争は、戦争してしまう自分を抑えられず、うんざりしている。2人は語り合う。

<「私を愛していないのね」と妻は夫に言う

「愛していればもっと私を大切にしてくれるはずよ」

「愛しているよ」と夫は答える

「愛しているからこそおまえのために戦っているんだ

そういうおまえこそおれを愛しているのかね」>

 平和のために戦争する。

 人間はそんな詭弁(きべん)を繰り返し、戦いを始めてきた。谷川さんはこの詩とは別に<戦争が終わって平和になるんじゃない/平和な毎日に戦争が侵入してくるんだ>との言葉を残している。

 戦後80年の年を迎えた。先の大戦が終結した1945年以来、日本は平和憲法の下、不戦を貫いてきた。これからも「戦後」を積み重ねていく。読者の皆さんと新年にそう誓いたい。

 ■核兵器使えば「自滅」

 大戦であまたの人が亡くなり、国外でも多大な犠牲を強いた。体験者がつらい経験を語り、不戦の思いが継承されてきた。

 象徴的なのは昨年、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞を受賞したことだ。

 被爆者は身をもって核兵器の悲惨さを訴え、世界に警告してきた。現在まで核兵器が使われていないのは被爆者の存在が歯止めをかけてきた証しだ。

 授賞式の演説で、代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)は「人類が核兵器で自滅することのないように」と力を込めた。

 世界の核弾頭は1万2千発を超える。独裁的指導者は核使用をちらつかせ、核抑止への依存も高まっている。偶発的なことが起きれば、田中さんの言う通り私たちは自滅してしまう。

 日本周辺では中国や北朝鮮、ロシアの不穏な動きが続く。今月には米国で自国第一主義を掲げるトランプ氏が大統領に就任し、米中対立が懸念される。

 日本がどこかの国と単独で交戦するイメージは非現実的だろう。ただ他国同士が衝突し、日本が巻き込まれる可能性はある。日本政府は外交や経済など多面的な安全保障を築き、戦争そのものを防がなくてはならない。

 見渡せば世界で排外主義が広がり、人々の分断は深まっている。民間交流を進め、市民同士で何層にも固い絆を結んでいきたい。

 ■戦争は外から来ない

 間もなく阪神大震災から30年になる。戦後最大の都市直下型地震で6千人以上が亡くなった。心のケアが注目され、社会が正面から人の心に向き合う契機となった。

 神戸大医学部教授として前線に立った精神科医の故中井久夫さんは、災害時と戦時の共通点に「生存者罪悪感」を見た。自分だけ生き残ってしまったという申し訳なさは正常な心理である。

 しかし戦時下は、指導層が求める苦痛を国民が耐え忍ぶべきものとして受け止めるよう、罪悪感が利用された。皆が被害に遭ったのだから我慢せよという「受忍論」に他ならない。

 日本には空襲被害者への補償がない。被爆者への手当なども明確な国家補償ではない。国の責任は曖昧で、国家と個人の関係において戦争を総括できていない。

 中井さんは「戦争への心理的準備は、国家が個人の生死を越えた存在であるという言説がどこからとなく生まれるあたりから始まる」とも記した。

 戦争に直結せずとも、国のため、社会全体のためには個人がないがしろにされても仕方ない、と見過ごす空気が漂っていないだろうか。民主主義が軽んじられ、少数者の異論が封じられていないか。私たちは時代の空気に注意深くあらねばならない。

 銃後の美談に関する著書がある北九州市平和のまちミュージアムの重信幸彦館長は「戦争は外側からやって来るという捉え方を見直す必要がある」と語る。

 近現代の総力戦は戦場と銃後が一体となり、人々の生活も内面も全てが戦争に前のめりになっていく仕組みである。戦争は私たちの足元から立ち上がる。その自覚が必要なのだろう。

 大切なのは戦争は嫌だと感情的に受け止めるだけでなく、戦争について知り、考え、問い続けることだと重信さんは強調する。正義を振りかざさず、一人一人が戦争のイメージを「経験」として積んでいく。戦争を二度と起こさないためにできることであろう。

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2025年01月01日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。


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