【社説・10.10】:「衆院解散」 政治不信とどう向き合う
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・10.10】:「衆院解散」 政治不信とどう向き合う
「政治とカネ」問題で政治不信が高まり、暮らしに物価高が重い。地域の活力が失われ、安全保障環境は厳しくなる。課題とどう向き合うかを示し、選択する時だ。
衆院が解散された。石破茂首相は就任から最短の日程で衆院選へと踏み切った。
首相は新内閣発足を解散の大義とする。国民の信任を得て、政権の安定へとつなげる意向のようだ。
だが、そもそも首相は憲法7条に基づく解散に批判的だった。発足直後の新鮮味を生かし、今なら勝てると判断するのは憲法の趣旨に反すると発言している。
そうであっても、失速を恐れる党内の声にあらがえなかった。自民党総裁選で意識された党内基盤の弱さが政権運営にのしかかる。
野党は首相の発言が後退していると攻撃した。予算委員会を開かず、本格的な国会論戦を経ない最短解散に強い批判を向けた。党首討論は通例より長い時間がとられたとはいえ、政策論争に前向きと思われた姿勢とは相いれない。
論点の一つは自民党派閥の裏金事件だった。野党側は新しい事実が出ていると再調査を求めたが、首相は応じなかった。
とはいえ、世論の逆風は意識せざるを得ない。自民は衆院選で、政治資金収支報告書に不記載があった議員らのうち12人を非公認とする。また、公認しても比例代表との重複立候補を認めないことを決めた。
公認作業は公示直前まで続くが、一連の対応に党内から不満の声が上がる。選挙後も尾を引くことが想定される。一方、野党は小選挙区での対抗馬の一本化へ調整が進むかが当面の焦点となる。
裏金事件を受けた政治改革の在り方は、衆院選の争点として引き継がれる。首相は所信表明演説で、国民はそのうち忘れると思っていないかと政治にくぎを刺した。自民議員に衆院政治倫理審査会への出席を求めた議決は、衆院解散で失効した。真相はまだ解明されていない。
改正政治資金規正法は、資金の流れを監査する第三者機関の検討を付則に盛った。その制度設計や法の実効性を高める議論は不可欠だ。
物価高に対応する経済対策も重要な争点となる。首相は賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現を掲げた。重要なのは具体策だ。首相は就任後に追加利上げの環境にないと述べ、株価や外国為替市場が混乱した。自らの立場と、市場との対話の重要性を意識したに違いない。
総裁選で首相が意欲を示した日米地位協定改定や選択的夫婦別姓は、所信表明では触れなかった。現実路線への回帰と、党内力学への配慮が指摘される。石破色が薄れる一方、政権の基本姿勢や具体的な政策は明確にならないままだ。
衆院解散を受け、事実上の選挙戦に突入した。論点は少子化の進展や社会保障、防災、防衛など多岐にわたる。岸田前政権の3年間を総括する作業でもある。国民に選択肢を示す論戦を期待したい。
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