【卓上四季】:自動人形の憂鬱
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:自動人形の憂鬱
言語学者川添愛さんの物語「自動人形の城」(東京大学出版会)はコミュニケーションの難しさを考えさせられる。人工知能(AI)が発達しても、知的機械が人間の指示を理解し実行するには多くの課題があるようだ▼舞台は、わがまま王子のせいで人間が人形になったお城。「僕、お腹(なか)がすいたんだけど」と言っても食事は出ない。「パンはどこ?」と聞けば「貯蔵庫にあります」。「食事を作れ」「持って来い」という指示がないから当然だ▼「お腹がすいた」という発話が、「食事を作れ」のような解釈を生む現象を「会話的含み」というそうだ。なぜ空腹と言ったのか。推測から生まれる「言外の意図」の理解がないと適切な行動は取れないという▼言葉や文が表す「意味」と話し手の「意図」は異なる。解釈の幅が広いと「意図」は伝わらない。人同士も同じだろう▼まん延防止等重点措置の適用地域がきょうから10都府県に広がる。政府は「緊急事態宣言に至らぬよう宣言並みの強い措置を実施する」という。その違いは国民に理解されているか。大阪は解除したばかりの緊急事態宣言の再要請を決めた▼コロナ対策は曖昧な解釈や不明瞭な基準適用が少なくない。自粛要請と旅行奨励を同時に行うようでは、自動人形ならずとも混乱しよう。政府や専門家は宣言や措置の効果不足を嘆くが、その一因が奈辺にあるかお気づきだろうか。2021・4・20
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2021年04月20日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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