【社説②】:コメ過剰懸念 備蓄増枠検討すべきだ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:コメ過剰懸念 備蓄増枠検討すべきだ
外食などコロナ禍の消費不振が長引き、2021年産の主食用米の価格低迷が懸念されている。
現在流通する昨年産の卸売価格は先月、全国平均で前年比5%下落した。18%下がった本州産米もあり、値崩れを起こしかねない。
農林水産省は過去最大級の前年比5%減産が必要とするが、各県などの目安は3%減程度だ。道内は急きょ3・8%減産を決めた。
価格の安い飼料用米への転作に対し、国や自治体の補助制度も新設されたが先行きは見通せない。
生産側だけでなく与野党からも政府備蓄米の買い入れ増を求める声が強い。需給調整の直接関与に農水省は難色を示すが、緊急措置として早急に検討してほしい。
農家の経営が悪化すれば生産基盤は弱まる。持続可能な食料供給態勢を維持する視点が大切だ。
価格下落自体は消費者には歓迎すべきことだ。ただ道内産でも「ゆめぴりか」は前年並みかやや高く、下落銘柄との差は広がる。
将来的に人気のない銘柄が選別され、高価格のブランド米が主流となる可能性も否定できない。
国は本年度から都道府県独自の飼料用転作支援に上乗せ助成する制度をつくった。昨年度は加工用転作を促す事業を立ち上げた。農家の減収を抑える対策は必要だ。
主食用米で国が都道府県の目標値を割り振る生産調整(減反)は18年産から廃止された。現在は国が示す全国適正量を基に生産者団体などが地域別の目安を定める。
だが強制力はなく農家への影響力が弱い県もある。急激な転作は容易ではない。全国で30万トンに上る減産目標達成は不透明だ。
政府備蓄米は10年に1度の不作に対応するため、毎年21万トン程度を買い入れる。5年間保管後は結局飼料用米などに売却される。
飼料用転作に助成金を出すのなら、備蓄米を増枠した方が主食用の流通を減らす即効性があるのではないか。ただ、泥縄的な買い入れにならないよう注意すべきだ。
気になるのは余剰米が生活困窮者に十分届いていないことだ。国は「子ども食堂」や「子ども宅食」に上限を決めて、政府備蓄米を食育目的で無償提供している。
この上限撤廃が国会で議論になったが、農水省は「コメの需給に悪影響を及ぼす恐れがある」と及び腰だ。国民の食を守る自らの役目を忘れてはいまいか。
コロナ危機の中、需給のアンバランスを放置すれば生産者、消費者双方にしわ寄せがくる。国は抜本的対策に踏み出す必要がある。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年04月20日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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