【社説②】:「攻撃能力」提言 専守防衛を逸脱するな
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:「攻撃能力」提言 専守防衛を逸脱するな
自民党は、政府が年内に予定する外交・安全保障政策の長期指針「国家安保戦略」など3文書の改定に向けた提言案をまとめた。
岸田文雄首相が保有の検討を表明した「敵基地攻撃能力」については、名称を「反撃能力」に変えた上で保有するよう求めた。
さらに攻撃目標に相手領域のミサイル発射拠点だけでなく、国家の指導部や軍司令部を念頭に「指揮統制機能」を加えるとした。
保有することは憲法に基づく専守防衛に反するとして、安倍政権以前は否定してきた。専守防衛から逸脱することは認められない。
また防衛費について、国内総生産(GDP)比2%以上を想定し、5年以内に防衛力の抜本的な強化を図ることを盛り込んだ。
党内ではロシアのウクライナ侵攻を機に、防衛力の大幅な強化を求める主張が勢いづく。だが欧州の情勢に乗じて攻撃力を高める装備を強化すれば周辺国との緊張を高め、軍拡競争を招きかねない。
提言は月内に首相に提出される。安保政策は憲法の平和主義が前提だ。冷静な議論が欠かせない。
専守防衛は武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使し、その場合も自衛のための必要最小限にとどめる日本の安保政策の原則だ。
歴代政権は相手領域への攻撃能力については米国に委ねるとしてきた。岸田首相が初めて攻撃能力の保有について検討すると国会で表明した。
提言は中国が弾道ミサイルを多数保有し発射技術も進化している状況にあり、迎撃だけでは防衛できないとして、反撃能力を保有することで攻撃を抑止するとした。
だがどの時点に、どんな武器で、どこを攻撃すべきかといった議論は深まっていない。憲法や国際法が禁じる先制攻撃との違いが極めてあいまいだ。
改称して敵基地攻撃という文言を避けたのは、先制攻撃の印象を薄めたいのだろう。
本質を隠す姑息(こそく)なやり方と言わざるを得ない。
指揮統制機能に関しても具体的に触れておらず、対象が歯止めなく拡大しかねない。
防衛費については、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が、GDP比2%以上を目標としている点を念頭に置いたとしている。
必要な装備品などを積み上げた額ではなく、根拠は乏しい。
財政難の中で大幅増額するなら、増税や歳出削減など国民の負担は避けられない。財源に言及がないのは無責任と言うほかない。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年04月24日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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