人気作家の村上春樹さん(69)が4日、37年ぶりに国内で記者会見を開いた。母校の早大(東京都新宿区)で開かれた、研究センター「村上ライブラリー」(仮称)の設立発表会見に出席。自身の原稿や世界各国で翻訳された資料などを寄贈すると明らかにした。

DJ、朗読…村上春樹さん昨年から表舞台で活動
早大への所蔵資料の寄贈と文学に関する国際的研究センター構想についての記者会見に出席した村上春樹氏(撮影・山崎安昭)

 これまで公の場に顔をあまり出さず、メディアの取材にも積極的に応じてこなかった村上さんだが、昨年2月の最新長編「騎士団長殺し」刊行以降、そうした姿勢は一変。表舞台でも精力的に活動を展開している。刊行翌月には、共同通信など新聞各社の合同取材に応じ「僕には子どもがいないが、誰かに何かを引き継いでもらいたいという思いがある」と語っていた。昨年4月には別の著書の刊行記念で行われたトークイベントに出席し、朗読も披露して聴衆を沸かせた。

 ファンを驚かせたのは、初のラジオDJを務めた今年8月の「村上RADIO(レディオ)」。好みの海外のロックを番組で流し、軽妙なトークで楽しませた。10月には「騎士団長殺し」の英訳刊行に合わせて米ニューヨークでのトークイベントに出演。小説家にして紳士であるためには「納税額を語らない。元彼女について書かない。ノーベル文学賞について考えない」とのジョークも飛ばした。

 ◆村上春樹(むらかみ・はるき)

 1949年(昭24)1月12日、京都市生まれ。兵庫県で育ち、早大在学中に東京都内でジャズ喫茶を開店。79年に作家デビューし、81年から専業に。87年刊行の「ノルウェイの森」は累計1000万部を超えるベストセラーになっている。2006年のフランツ・カフカ賞(チェコ)など、海外の文学賞を多数受賞。レイモンド・チャンドラーら米文学を中心に翻訳も多く手掛ける。

 ◆慶応大教授(米文学)の巽孝之さんの話

 今や欧米でもアジアでも、村上春樹作品を巡る国際会議が複数開かれている。世界各国に博士論文で村上論を書く研究者が少なくない中、研究に資する拠点が設置されることは意義深い。将来的に全集が編さんされる際にはその質を高め、また、古書店で流出原稿が高値で取引される状況を防ぐことにもつながるだろう。翻訳原稿も寄贈されれば、現代米文学がどのように日本で広まったかを解明する上で役立つはずだ。