《社説①・12.03》:適正評価基準案 監視の懸念残したまま
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.03》:適正評価基準案 監視の懸念残したまま
経済安全保障の名の下、民間企業や大学の研究者、技術者らが広く、政府による監視の対象にされかねない。重大な懸念が置き去りにされたままだ。
重要経済安保情報保護・活用法に基づき、機密情報を扱う資格を認定するセキュリティー・クリアランス(適性評価)である。政府が運用の基準案を公表した。
秘密保護法制を産業・経済の分野に拡大し、国による情報の統制と監視を一段と強化する法だ。先の通常国会で成立し、来年5月までに施行される。
防衛や外交上の機密情報に関する特定秘密保護法の下で、主に公務員が対象だった適性評価の間口が大きく広がる。犯罪歴、飲酒、借金、精神疾患といった機微な個人情報が、身辺調査によって洗い出されるだけではない。
国や国民の安全を害する活動、社会に不安や恐怖を与える活動との関わりが、調査事項として挙げられている。国家機密の保全を理由に素行が探られ、思想・信条の調査につながる恐れがある。
基準案は、基本的な考え方として、プライバシーの保護や、法に明示した項目以外の調査の禁止、評価結果の目的外利用の禁止を掲げた。身辺調査は、対象者本人の同意を前提とする。
しかし、調査や集めた情報の取り扱いが適正に行われているかどうかを、外部から確かめるすべはない。政府から独立した機関が運用を監視し、是正を図る仕組みは設けられていない。
国会の審議で法案が修正され、運用状況を政府が国会に報告し、公表することが定められはした。とはいえ、どこまで明らかにするかは政府に委ねられている。おのずと限界は明らかだ。
調査は、家族や同居人の氏名、生年月日、国籍にも及ぶ。適性評価を受ける本人がそのことを家族らに伝えるのは構わないが、同意は必要とされていない。
調査を担う機関は首相の下に置かれる。当局による秘密裏の情報収集が、また新たな法の後ろ盾を得た形だ。情報が一元的に集約されることで、監視に結びつく危険はいっそう強まる。
何が経済安保上の機密情報にあたるのかは、運用基準案でも明確になっていない。機密の範囲が歯止めなく広がり、主権者の知る権利が損なわれる懸念も大きい。
秘密法制をなし崩しに拡大する危うさについて、審議が尽くされたとは言いがたい法である。施行の先送りを視野に、国会で根本から議論し直すべきだ。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月03日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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