【社説】:北朝鮮の「軍事衛星」 再度の打ち上げ、食い止めよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:北朝鮮の「軍事衛星」 再度の打ち上げ、食い止めよ
北朝鮮がミサイルを発射したもよう―。全国瞬時警報システム(Jアラート)が早朝に速報された沖縄県をはじめ、またかと身を震わせた人も多かろう。幸い日本上空に飛来せず、朝鮮半島西方の海上に落下した。
北朝鮮は今月11日までの間に人工衛星を打ち上げると予告していた。事実上の長距離弾道ミサイルとみられ、いかなる目的であれ国連安全保障理事会の決議に違反する。国際社会への挑戦であり、許されない。
一方で北朝鮮の狙いを正確に読み解く必要もあるだろう。
この発射は、これまでとは様相が異なる。「軍事偵察衛星」のロケットだと、北朝鮮が初めて発表したからだ。北朝鮮が衛星打ち上げと称する発射は過去に繰り返し行われてきたが、ミサイル技術を高める口実と考えられていた。しかし今回の衛星は米国などの軍事行動を追跡、監視、判別するものだと事前の声明に明記している。
米本土を射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験、米韓軍事演習などに抗する矢継ぎ早のミサイル発射。これまでの北朝鮮の暴挙は、あからさまな威嚇に思えた。
きのうの発射は周到に戦略を練った、軍事作戦上の行動とみていい。「偵察情報収集能力の確保」は朝鮮労働党の5カ年計画に盛り込まれ、偵察衛星1号機の完成が伝えられていた。しかも即座に発射の失敗と墜落海域のほか、新型エンジンシステムの安定性など推定される事故原因まで明らかにし、早期の2回目の発射を表明した。
体面より実行を優先したとも言え、むしろ自信があるように見える。仮に北朝鮮が偵察衛星を手にすればデータを地上に送って正確に目標を攻撃することが可能になり、軍事的脅威のレベルは上がる。再度の打ち上げは中止させなければならない。
日本も飛来するミサイルの動きに即応するのに加え、こうした現実を踏まえた対応が必要となる。どう歯止めを講じればいいのか。経済制裁の強化には限界があり、ウクライナの戦争で国連安保理は機能不全だ。それでも中国なども含めた国際社会と幅広く連携していく努力は、惜しむべきではない。
米韓両国は4月、北朝鮮に対して核抑止力の強化や弾道ミサイル搭載可能な原子力潜水艦の韓国派遣などで合意した。冷え込んでいた日韓の防衛協力も首脳のシャトル外交復活で関係が修復されつつある。先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の場も利用して「日米韓」による包囲網は強まった。
ただ米国の「核の傘」を誇示し、軍事的圧力を強化するばかりでは、相手に核・ミサイル開発を加速させる口実を与えかねない。「核には核」という発想には明るい未来はない。
岸田文雄首相は北朝鮮の打ち上げ通告の前に、かねて条件なしで臨みたいとする日朝首脳会談に向け、「私直轄のハイレベルで協議を行っていきたい」と述べていた。北朝鮮の外務次官も条件付きながら「両国が会えない理由はない」として日朝協議の可能性に言及した。
相手の真意はいまだ読めず、糸口があると考えるのは早計だろう。ただ日朝交渉の原点に立ち返れば、圧力とともに対話の窓口を開け、硬軟織り交ぜて向き合う姿勢は欠かせない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年06月01日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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