自民は1955年の保守合同で誕生して以来、ほとんどの時期において、多数派として政権の座に君臨してきた。細川護熙内閣と旧民主党政権の時代に下野を経験したが、短期間で復権した。
第216臨時国会が召集され、衆院本会議に臨む議員ら=国会内で2024年11月28日午後1時2分、平田明浩撮影
今回は少数派に転落したにもかかわらず、なお政権を維持している。衆院で過半数に届く勢力がない「宙づり国会」の状況が生じたのは、歴史的にも異例の事態だ。
自民が数とカネの力に物を言わせた旧来の手法に代わる、新しい議会政治の姿が求められている。
◆限界迎えた自民の手法
55年体制の政治は、右肩上がりの経済成長と歩調を合わせる形で戦後日本の針路を決定してきた。背景には東西冷戦という国際情勢もあった。
自民の各派閥が権力闘争と政策論争を展開し、国民の不満が高まれば、首相をすげ替える疑似政権交代によってかわしてきた。
一方で、政策決定を効率化するあまり、国会での「熟議」はおろそかにされた。
政府の法案や予算は国会提出前から成立が約束されていた。与党が事前審査で了承し、党議拘束をかける手法を取ってきたからだ。与野党の間では、審議日程を駆け引きの材料とする国対政治ばかりが幅をきかせた。
政権交代を経ても、この構造は温存された。第2次安倍晋三政権では官邸主導が強まり、異論に耳を貸さない国会軽視の姿勢が極まった。
グローバル化が進んで格差が広がる中で、取り残された人々の間では、既成政党への不信や「政治離れ」が深刻化している。
無党派層が増加し、自民の支持率を上回ることも珍しくなくなった。現行憲法の施行直後に8割近かった衆院選の投票率は5割程度まで低下した。
既存の政治に「自分の意見が反映されていない」という有権者の不満が噴き出したのが、先の衆院選の結果である。議席を伸ばした国民民主党やれいわ新選組は、SNS(ネット交流サービス)を巧みに使って支持を集めた。
新たな意見表明の手段として、ネットの影響力は今後も拡大するだろう。与野党はその動向に翻弄(ほんろう)されている。
ただ、SNSは民主主義の基盤を損なうリスクも内包している。政治の側がネット世論を意識し、予算のバラマキなど人気取り策に走りがちになる。似通った意見ばかりが増幅されることで、分断や対立をあおる恐れもある。
◆ネット時代の熟議こそ
求められているのは、多様な民意を踏まえつつ冷静に議論し、政治を前に進める知恵だ。開かれた国会の場で論戦を深め、国民に判断材料を提供することが欠かせない。「ネット時代の熟議」を実現しなければならない。
その試金石となったのが昨年の臨時国会だが、従来と変わらない「数合わせ」に走る政権の姿勢が目に付いた。「年収の壁」を引き上げる方向性は与党と国民民主の協議で定まり、国会での議論が深まっていない。巨額の補正予算は一部の修正にとどまった。
政治資金規正法の再改正については、不透明な政策活動費を温存する自民案に賛同が広がらず、野党の全面廃止案を丸のみせざるを得なかった。
国会における熟議への取り組みは始まったばかりである。
真価が問われるのは今年の通常国会だ。与野党は数合わせを巡って右往左往することなく、互いの主張の妥当性を吟味すべきだ。
当初予算案の精査を通じて、国民生活の向上に資する政策を練り上げる必要がある。多くの野党が求める企業・団体献金の廃止も焦点となる。
民主主義を正しく機能させ、国民の安全と暮らしの安心を守るのが政治の責任だ。
「宙づり国会」の構図は、次の衆院選まで変わらない可能性がある。新たな政治の形を示せたかどうかが、今夏の参院選で問われることになる。
熟議のあるべき姿を追求し、政治への信頼を取り戻す。そのための努力を与野党が尽くす時だ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます