【社説・12.12】:平和賞受賞演説/世界に届け被爆者の願い
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.12】:平和賞受賞演説/世界に届け被爆者の願い
世界に被爆の実相を伝えてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)にノーベル平和賞が授与された。ノルウェー・オスロであった授賞式で、被団協代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)が演説し、大きな拍手が送られた。改めて被爆者の苦難の歩みに思いを寄せ、「核なき世界」実現に日本が果たす役割を胸に刻みたい。
田中さんは1945年8月9日、13歳の時に長崎で被爆した。一発の原爆は身内5人を無残な姿に変え、命を奪った。「人間の死とは言えないありさまだった。戦争といえどもこんな殺し方、傷つけ方をしてはいけないと強く感じた」
生き残った被爆者たちは「占領軍に沈黙を強いられ、日本政府からも見放され、孤独と、病苦と生活苦、偏見と差別に耐え続けた」。
「核兵器の廃絶」と、「原爆被害に対する国の補償」を求めて被団協が結成されたのは被爆後11年を経た56年8月10日。「自らを救うとともに、私たちの体験を通して人類の危機を救う」との結成宣言は、長く地道な証言活動の原動力となった。
目標達成は途上にある。2021年、核兵器を全面的に違法化する核兵器禁止条約が発効したが、米国の「核の傘」に依存する日本政府は参加せず、被団協が求める締約国会議へのオブザーバー参加も見送っている。石破茂首相は10日の衆院予算委員会で「オブザーバーにどんな役割が果たせるか、検討する」と言及した。来年3月の第3回会議への参加を視野に踏み込んだ議論を求める。
国家賠償を一貫して拒む政府を、田中さんは「死者に対する償いは全くしていない」と強く非難した。
ノーベル賞委員会は、核使用は二度と許されないとする「核のタブー」形成への被団協の貢献を評価した。だが、世界にはなお1万2千発の核弾頭が存在し、ロシアやイスラエルなど核を脅しに使う保有国がある。田中さんは「悔しさと憤りを覚える」とし、「核兵器を一発たりとも持ってはいけないというのが心からの願いだ」と強調した。あらゆる機会を生かしてその願いを届け世界を動かすのは、唯一の戦争被爆国である日本の責務ではないか。
核のリスクが高まる中、「核も戦争もない世界」の実現は人類共通の願いである。田中さんは最後に、核保有国とその同盟国の政策を変えさせるのは「市民の力」だと訴えた。「人類が核兵器で自滅することのないように」。その言葉を真摯(しんし)に受け止め、一人一人が行動する時だ。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月12日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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