【社説・12.11】:被団協とノーベル賞 核廃絶、理想ではなく現実に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.11】:被団協とノーベル賞 核廃絶、理想ではなく現実に
広島と長崎の原爆の惨禍を証言し、「ふたたび被爆者をつくるな」と国際社会に核兵器廃絶を訴えてきた日本被団協にきのう、ノーベル平和賞が贈られた。
非人道的な殺りくの手段である核兵器を二度と使ってはならないとする「核のタブー」の確立に貢献したことが評価された。
その歩みをたたえる授賞である。心から祝意を送りたい。とはいえ、喜んでばかりはいられない。ノルウェー・オスロでの授賞式で代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)が「『核のタブー』が壊されようとしていることに限りない口惜(くや)しさと憤りを覚える」と訴えたことは重い。
◆核のリスク高く
ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルが続ける中東での戦争などで、核のリスクはかつてなく高いレベルにある。被団協が平和賞に選ばれた意味を深く認識したい。
平和賞には、これまでも核廃絶や核軍縮・不拡散に貢献した個人や団体が選ばれてきた。非核三原則の表明などで1974年に佐藤栄作元首相が選ばれた。被団協は日本から2例目の受賞となる。
被爆60年の2005年は国際原子力機関(IAEA)とエルバラダイ事務局長、09年には「核兵器のない世界」を唱えた原爆投下国米国のオバマ大統領が受賞した。
17年には核兵器禁止条約の制定に貢献した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))が輝いた。その活動を通じ、「ヒバクシャ」の国際的な認知度は高まった。一方で、長らく候補に挙げられてきた被団協の受賞の可能性はなくなったとの見方が大勢だった。
核兵器禁止条約は21年、発効にこぎつけ、締約国も90を超す国・地域に広がった。だが、核保有国や、米国が差し掛ける核の傘の下にいる日本などは参加していない。
ウクライナや中東で核保有国が核の脅しを伴って攻撃を続ける。米国と対立する中国は核弾頭の増産を急ぎ、北朝鮮はロシアと関係を強化しミサイル開発に余念がない。
◆「重要な警告だ」
今回の授賞は、国際情勢がそれだけ危機的で「核の使用は許されない」というノルウェー・ノーベル賞委員会の強いメッセージと言える。フリードネス委員長がスピーチで「(平和賞授与のたび)核兵器に対する警告を発してきた。今年、この警告は例年よりも重要だ」と言及したことが示している。
スピーチは被団協の姿勢にも光を当てた。「自らを救うとともに、私たちの体験を通して人類の危機を救おう」と決意して立ち上がり、どんな困難にぶつかっても核廃絶と国家補償の旗を下ろさなかった。被爆者自身による究明で、人間性を奪う核被害の実態を明らかにしてきた。
初代代表委員で「核と人類は共存できない」と唱えた森滝市郎さんをはじめ、理論や情念で運動をけん引したリーダーの存在があった。同時に、被爆者や支援者の地道な活動があったからこそ運動は続いた。全ての被爆者と関わった人々の受賞といえよう。
◆若い世代に託す
田中さんは演説の最後に、被爆証言を聞く機会を各国で設けてもらうよう呼びかけた。核保有国とその同盟国の政府の核政策を変えさせるのは市民の力であると強調し、「人類が核兵器で自滅することがないように」と。
前日の記者会見では、次世代に託す気持ちを「核兵器で何が起きるのかを伝えていきたい。皆さんの未来は皆さんで切り開いていくんだと伝えたい」と語っていた。この言葉を胸に刻みたい。核兵器も戦争もない世界を理想ではなく現実とするため、われわれは行動しなければならない。来年は被爆80年。老いを深める被爆者に頼れなくなる日は遠くない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月11日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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