【社説②・11.05】:外苑の樹木伐採 市民対話の重さ教訓に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・11.05】:外苑の樹木伐採 市民対話の重さ教訓に
東京・明治神宮外苑の再開発で樹木の伐採が始まった。計画見直しで伐採の本数は減ったが、「外苑を今のまま残して」という市民の願いからは程遠い。伐採は見切り発車と言わざるを得ない。
事業者の三井不動産や明治神宮などの計画によると、新ラグビー場を一部縮小するなどして伐採本数を743本から619本に減らす。名所のイチョウ並木への悪影響が懸念された新野球場は、位置をずらして並木との間隔を約8メートルから約18メートルに広げる。
10月21日の東京都環境影響評価審議会では、有識者委員から樹木の保全を巡り質問が相次いだが、最終的に計画は承認された。
1926年の外苑創建時に植えられた木は樹齢100年近い。安価に利用できた軟式野球場などは廃止され超高層ビルが建つ。都心の憩いの場は様変わりする。
外苑は明治神宮の私有地だが、歴史を振り返れば、国民の財産を神宮が預かっているとも考えられる。戦後、スポーツ施設が集まる公共性の高さから国有地として維持する案がまとまっていたにもかかわらず、神宮側の要求で条件付きで払い下げられたからだ。
その条件は、国民の公平な利用や低廉な施設使用料、民主的な運営など4項目。今回の再開発で神宮側が条件を順守しているのか、大いに疑問だ。
行政の責任も重い。東京都はかつて外苑を風致地区に指定し、緑と景観を維持してきたが、一連の再開発であっさりと規制を緩和し、巨大な建物が相次いで建つようになった。都心の自然や景観を守ろうとした先人たちの理念をぶち壊したに等しい。
再開発には、ミュージシャンの故坂本龍一さんら多くの著名人が批判の声を上げ、反対するインターネット署名には23万筆超が集まった。わずかではあるが、計画の見直しにつながり、公共性の高い事業を進めるには、市民との丁寧な対話が必要だという重い教訓も残した。
問題の根源として、現行の都市計画制度では「市民参加」が形骸化していることも指摘したい。行政と事業者だけで計画の細部まで固め、内容の公表時点では変更が困難だからだ。公告・縦覧の期間も短く、市民の意見を反映する義務もない。
市民を蚊帳の外に置く制度の在り方こそ変えるべきではないか。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月05日 06:50:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます