クリスティーヌをめぐって怪人とラウルが争う基本の構図は前編と同じだが、この続編ではさらに、怪人の愛を得られずにクリスティーヌに嫉妬するメグ・ジリー(彩吹真央・笹本玲奈)と、彼女を支える母のマダム・ジリー(鳳蘭・香寿たつき)の愛憎まで加わり、愛憎の力学はより複雑になった。
だが、それと同時に目立つのは怪人とラウルの等身大化だ。怪人は前作のような超能力を発揮しない。クリスティーヌの息子の父親が怪人だったという意外な設定は驚きだが、父性愛に目覚める怪人という展開にもびっくりする。怪人=パパという家族的イメージが私にはどうもしっくり来ないのだ。
ラウルの等身大化、というより落ちぶれ方も極端だ。前作での高貴な青年貴族が、ここでは酒に溺れる借金まみれの不愉快な男に変貌している。だが、これではラウルと怪人の争いは対等な勝負にならず、怪人が勝つのは当然ということになる。
前作の日本初演(“88年)でも怪人を演じた市村は、今回も野性的な怪人ではなく、心に傷を負った芸術家としての怪人を好演した。屈折したオーラのある精悍(せいかん)な演技と歌である。
鹿賀はそれとは違い、甘い柔らかな雰囲気の怪人を造形。音程がやや怪しい部分もあったが、のびやかな歌声だ。市村、鹿賀ともに共通するのは、圧倒的な声量で朗々と歌い上げるタイプの怪人ではないことだ。
濱田は、四季時代に主演した『アイーダ』のように、強い声で劇的に歌いあげる役柄を得意とする。楚々としたクリスティーヌは濱田向きの役とは言えないが、この舞台の濱田は高度の歌唱力と演技力を駆使し、高音もきれいに出して、迫力のある強い歌姫を表現した。
一方、これがミュージカル初出演となった歌手の平原は、何よりも透明感のある美しい歌声と品のある容姿が魅力的だ。ただし、主題歌とも言える「愛は死なず」を歌う場面では、歌だけでなく、もっと濃い演技力もほしい。鳳蘭の強い存在感のある演技は、田代の端正で力感のある歌も印象的だった。
舞台を三度観て改めて実感したのは、ロイド=ウェーバーの音楽の健在ぶりである。『オペラ座の怪人』初演のころのようなピークはとっくに過ぎていて、この作品も名曲ぞろいというわけではないが、それでも「心で見つめて」「月のない夜」などの叙情的な劇中歌は心に残る。特に2幕のクライマックスでヒロインが、舞台の両袖に立つ怪人とラウルに見守られながら、切々と歌い上げる絶唱「愛は死なず」の甘美な美しさは感動的だ。
そして、大衆的な遊園地の中の劇場で、このオペラ風の歌が圧倒的な魅力を放つという構造の中に、ロイド=ウェーバーの音楽の特質がある。ミュージカルというポップで大衆的な衣装をまとっていても、ロイド=ウェーバーの作品の中心にあるのは、やはり19世紀型オペラへの過剰な愛なのだ。『ラブ・ネバー・ダイ』という題名は、登場人物たちの狂おしい愛の葛藤を表すと同時に、ロイド=ウェーバー自身の強いオペラ愛が決して「死なない」ことをも語っているように思われる。」
(『ミュージカル』2014年5月-6月号より)。
だが、それと同時に目立つのは怪人とラウルの等身大化だ。怪人は前作のような超能力を発揮しない。クリスティーヌの息子の父親が怪人だったという意外な設定は驚きだが、父性愛に目覚める怪人という展開にもびっくりする。怪人=パパという家族的イメージが私にはどうもしっくり来ないのだ。
ラウルの等身大化、というより落ちぶれ方も極端だ。前作での高貴な青年貴族が、ここでは酒に溺れる借金まみれの不愉快な男に変貌している。だが、これではラウルと怪人の争いは対等な勝負にならず、怪人が勝つのは当然ということになる。
前作の日本初演(“88年)でも怪人を演じた市村は、今回も野性的な怪人ではなく、心に傷を負った芸術家としての怪人を好演した。屈折したオーラのある精悍(せいかん)な演技と歌である。
鹿賀はそれとは違い、甘い柔らかな雰囲気の怪人を造形。音程がやや怪しい部分もあったが、のびやかな歌声だ。市村、鹿賀ともに共通するのは、圧倒的な声量で朗々と歌い上げるタイプの怪人ではないことだ。
濱田は、四季時代に主演した『アイーダ』のように、強い声で劇的に歌いあげる役柄を得意とする。楚々としたクリスティーヌは濱田向きの役とは言えないが、この舞台の濱田は高度の歌唱力と演技力を駆使し、高音もきれいに出して、迫力のある強い歌姫を表現した。
一方、これがミュージカル初出演となった歌手の平原は、何よりも透明感のある美しい歌声と品のある容姿が魅力的だ。ただし、主題歌とも言える「愛は死なず」を歌う場面では、歌だけでなく、もっと濃い演技力もほしい。鳳蘭の強い存在感のある演技は、田代の端正で力感のある歌も印象的だった。
舞台を三度観て改めて実感したのは、ロイド=ウェーバーの音楽の健在ぶりである。『オペラ座の怪人』初演のころのようなピークはとっくに過ぎていて、この作品も名曲ぞろいというわけではないが、それでも「心で見つめて」「月のない夜」などの叙情的な劇中歌は心に残る。特に2幕のクライマックスでヒロインが、舞台の両袖に立つ怪人とラウルに見守られながら、切々と歌い上げる絶唱「愛は死なず」の甘美な美しさは感動的だ。
そして、大衆的な遊園地の中の劇場で、このオペラ風の歌が圧倒的な魅力を放つという構造の中に、ロイド=ウェーバーの音楽の特質がある。ミュージカルというポップで大衆的な衣装をまとっていても、ロイド=ウェーバーの作品の中心にあるのは、やはり19世紀型オペラへの過剰な愛なのだ。『ラブ・ネバー・ダイ』という題名は、登場人物たちの狂おしい愛の葛藤を表すと同時に、ロイド=ウェーバー自身の強いオペラ愛が決して「死なない」ことをも語っているように思われる。」
(『ミュージカル』2014年5月-6月号より)。